第66話


 プラナリジェネレーションの激痛でぶっ壊れかけたメンタルを、どうにか整え、傷を治した。何度やっても慣れないし、もう二度と使いたくない。いい加減、自己催眠のメンタル調整も効果がなくなってきているなか、倒れたままの桐ケ谷先生の頭を人差し指で突いた。エメラルドスティングは二度目の一刺しで、相手をこちらの命令どおりに動かすことができる。


「桐ケ谷先生、起きてください」


 言われて先生は立ち上がる。鈍色の瞳には自我はない。まるでゾンビのようだ。能力上、単純な行動しかできないが、ある程度の問答は可能だ。


「あなたは本当に黒の福音メンバーですか?」

「い、い……え」


 やっぱりな! あの流れで刺される理由がマジでわからなかったから、これで納得できた。


「あなたは、自分が黒の福音の構成員だと思うように誰かの第七感拡セブンスで操作されていたたのではありませんか?」

「……は、い」

「それは木村宗次君ではありませんか?」

「……は、い」


 要するに、俺のクラスメート、木村宗次君が黒の福音のメンバーだということだ。


「木村宗次君が、なぜ先生を操ったかわかりますか?」

「い、い……え……」


 その後もいくつか質問を重ねた。とりあえず、神門刀義と桐ケ谷先生がつきあっていたのはマジだったらしい。しかし、当時の桐ケ谷先生はテロリストではなく、普通の教師だった。神門刀義と一緒に危険な仕事の処理や、神門刀義が校内で起こす事件のフォローなどをしていたのだとか。戦闘中の会話は、木村宗次によって植え付けられた偽りの記憶だと推測できる。


 神門刀義が桐ケ谷先生に近づいていたのは、強い先生を利用していたのかもしれない。ちなみに桐ケ谷先生は木村宗次の幼なじみでもなんでもなかった。そう思うように思い込まされていたにすぎない。おそらく、俺と桐ケ谷先生の関係を知った上で、利用していたのだろう。


 結局、神門刀義も木村宗次も桐ケ谷先生を利用していたクソ野郎だということだけは理解できた。桐ケ谷先生は、ただ巻き込まれ、操られていただけにすぎない。


「先生は黒の福音のメンバーを辞めたいですか?」

「……は、い」

「じゃあ、おっぱい揉んでいい?」


 能力支配下に置かれていた桐ケ谷先生の動きが止まる。


「俺だって、こんな状況でおかしいことを言っているのは理解してる。でもね、木村宗次のバカ野郎をぶちのめし、先生を救うための方法が俺には思いつかないんだ。でも、先生の胸を揉むことで、なにか方法が思いつくかもしれない」


 桐ケ谷先生が無表情のまま、壊れた機械のように震えだした。情報処理が追いつかないのかもしれない。


「なに……言って……るの?」


 知力があがっていた。


「俺おっぱい揉むと頭がすごく良くなるんだ」

「なに……言ってるの?」

「なに言ってんだろうな、俺……」


 あまりのかっこ悪さに自分で自分が悲しくなってきた。

 しかも、既にアカシックバレットは四重使用だ。能力を解除した瞬間、意識を失い四日間ほど寝込む。だから、全てが解決するまで第七感拡セブンスは解除できないし、新たな能力を使うには、五重使用しなければならなくなる。


 五重使用(クインティプル)は、能力数×一日ほど寿命が縮む。ここで使えば五日ほど早死にするってことだ。

 もう、これ今際の際で絶対後悔するやつじゃん。


 使わなかったらさ。


「冗談じゃなく、俺は今から命を賭けてあんたを助ける方法を考える。正直、苦労した分、報われたいと思ったり、それを口にするのはかっこよくはないと思うんだ。でもさ……」


 ジッと桐ケ谷先生を見据えた。


「元カノが不幸なままなのは嫌なんだよ。いや、ほんと、先生とどういう風にイチャついてたのかは知らないし、むしろその当時の記憶がほしいまであるけども……」


 グダグダ言わずにやれってんだ。かっこ悪い。

 でも、言いたい。言わなきゃならない。


「俺があんたを助けるから、幸せになるって約束してくれ」


 桐ケ谷先生は無表情のまま「はい」と抑揚なくうなずいた。そのままポロポロと涙を流し始める。どういう感情なのか俺にはわからないけど、桐ケ谷先生の背中を優しくポンポンと叩いてみた。おっかなびっくりだけどもね。まあ、いいじゃないか。けっこう背伸びしてがんばってるんだもの。

 抱擁を解いて、真正面から先生を見た。年上だけども、弱弱しくて守ってあげたいと思える人だ。こんな美人の先生と、つきあってたってことは、エロいこともいっぱいしてたんだろうな、マジで死ねよ、神門刀義……。


「クインティプル・バレット」


 色ボケカスの能力を発動し、俺は先生の胸を揉みしだいた。

 ほんと、最後までかっこよく決めたかったんだけどな……。


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