第62話


 パズルのピースが全てハマり、色ボケカスの能力によって打開すべき策は構築し終えた。

 そして、夜が明け、八重塚が目を覚ます。


「おはよう」


 挨拶をしたらジッと見据えられ、不機嫌そうに「おはようございます」とそっぽを向かれた。まあ、胸を揉んできたセクハラ野郎と交わしたい言葉も少ないだろう。

 あの力は得るものも大きいが、失うものも大きい。主に評判とか尊厳とか。


「……それで、昨夜は説明してくれませんでしたが、どうやってお前の無実を証明するのですか?」

「真犯人を捕まえる」

「誰なんですか?」

「桐ケ谷先生だ」


 単刀直入に答える。


「まず、俺が追いかけていた行方不明者たち、これは全員黒の福音のメンバーだったそうだ。で、その情報は米軍の極秘情報だったらしい。ほかにも行方不明者が出ているにも関わらず、ピンポイントでテロリストを把握していたわけだ。そりゃあ、あやしい」

「たしかに、あの情報は課題の……」

「そういうこと。桐ケ谷先生が俺たちをハメたってことだ」

「でも、なぜ?」

「まだ確証はないけど、どうやら俺って昔、桐ケ谷先生とつきあってたみたいなんだよな」

「はあ!?」


 驚くのも無理はない。


「詳しいことは知らないけど、毎月五万円ほどもらってたらしい。俺はてっきり貢がれているのかと思ってたけど、なんか違う意味があるのかもしれない」


 八重塚は「どういう意味ですか?」と尋ねてくる。


「例えば、仕事の依頼料とか。今回の件は、課題と称した俺への調査依頼だったのかもしれない。それでしくじって、こんなことになったとか?」


 この仮説は、かなりいい流れだった場合だ。最悪のパターンは……考えたくもない。


「行方不明事件はいいとしてマンティコアの件は?」

「……そっちはまだ確定してない。とりあえず、桐ケ谷先生と話してみないとな」


 八重塚はため息をついた。


「仮にあの教師と話したとして、それで解決するのですか? お前はテロリストの関係者だと思われたままなんですよ?」

「それは、まあ……」


 一応、考えがないわけではないが……。


「それも桐ケ谷先生次第だよ」

「ダメだった時は?」

「……俺を拉致った覇眼王に泣きつく。桐ケ谷先生の正体だったり目的だったりの情報があれば、交渉は可能な気がする」


 一応、そう言ってはおくが、実際は無理筋だ。


「結局、策もなにもあったものじゃありませんね。これがIQ400の力なんですか?」

「言っておくけど、IQ400だからってなんでもわかるわけじゃないんだよ! いろいろ確定しないと作戦も方針も決まらないだけだっての!」


 八重塚は呆れたようにため息をつく。そんな八重塚に最後の念押しをしなければならない。


「八重塚、降りるなら、お前はここで降りたほうがいい。六十パーセント以上の確率で死ぬか警察に捕まる」

「ここで降りたら、昨夜の恥辱は無駄になります。降りません」


 昨夜のIQ400時の思考では、ほぼ百パーセントの確率で八重塚は俺に協力してくれると答えが出ていた。外れてくれてもよかったんだけども……。


「……了解。じゃあ、地獄の底までついてきてくれよ、お姉ちゃん」

「しかたがありませんね」


 クスリと笑う八重塚の目は、本当の弟に向けるように優しかった。


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