第47話


 合宿をしようとキリエは言い出したが、チームカリキュラムではよくあることらしい。キリエが言うには、去年のチームではゴールデンウィークに本土に渡り、合宿という名目の観光を行ったらしい。涼葉も同じチームだったが、当然不参加。つーか、涼葉、キリエとも同じチームだったのに知らなかったしね。


 キリエ曰く「とても楽しかった」らしい。


 だが、涼葉が言うには、ゴールデンウィークの合宿以降、神門刀義がサークルクラッシャーの本領を発揮したのだとかなんとか。おそらく合宿でチームの女子に粉をかけはじめたのだろう。だから、キリエ的にはいい思い出になっているようだ。


 とはいえ、合宿とか言っても、準備はできない。

 要するに親交を深めればいいということになり、なぜか俺と涼葉の家に八重塚とキリエが来ることになった。

 てっきり涼葉が嫌がるかと思ったが、キリエと八重塚はあいつの中でダメ人間の範疇に入っているため、大丈夫らしい。


 個人的には自分の部屋に女子が来るのはいい。


 だが、一人だけだ。

 たくさんの女子が自分の部屋に来るのは、ハーレムアニメとかラブコメ的にはぜんぜんオーケーな展開かもしれないが、俺の目指すクールキャラ的にはアウト。

 やんわりと「嫌だよ」ということを伝えたのだが、なぜかテンションのあがったキリエに押し切られてしまい、土曜日を迎えることになった。


 朝起きて、軽い掃除をしていたら、トテトテと涼葉が近づいてくる。手伝ってくれるのかと思って振り返れば、なにやら錠剤の入ったピルケースを持っていた。


「兄ぃ、ハルシオンなんて隠し持ってたんだね」


 病院に行かないと処方されない睡眠薬だ。俺のステージ3を使うために必要だったため、不眠症なんですと嘘をついて処方してもらった。


「お前、人の部屋漁るのやめろよな」


 俺がピルケースを奪うと、涼葉はニコリと微笑む。


「これで一服盛っちゃうんだよね? 最低だよぅ、兄ぃ……たまんね……」

「しねーよ!! するわけないだろ!!」

「するよ! 兄ぃだったら絶対する!」


 キラキラした目で俺に抱き着き、胸元で俺を見上げてきた。


「一服盛ったあと、意識のない淡海たんとキリエたんに、えちぃことして写真に撮るつもりだったんでしょ!? その写真を使って脅してひどいことする未来まで見えてんだ! ボクにはわかる!」

「するわけないだろ!!」

「はっ! まさか既にボクにも使って、えちぃことしてるんじゃ……鬼畜すぎるよぅ……神かよ? なんだよもぅ……最低な奴に汚されちゃったよぅ……」 


 グリグリと俺の胸に顔をうずめてきやがった。クソうっとうしいので、ひっぺがす。


「一人で興奮してんじゃねーよ!! これは俺のステージ3に必要なことなの!?」

「え? 昏睡レイプするための能力だって!? クズすぎるぢゃん!」

「するわけねーだろ!! お前のクソ能力と一緒にするんじゃないよ!」

「そうやって怒るってことは図星を突かれたって証拠だぜ? はい、論破」


 涼葉と会話してると俺のクール度がものすごい速さでさがっていく。こいつの目線に合わせて会話をするからいけない。落ち着こうぜ、俺。クールになれ。


「我が能力は眠りの神ヒュプノスの恩恵を受けし力。故、眠れば眠るほど強くなれるのだ」

「やっぱ昏睡レイプじゃん。そんな性癖持ってるから、ボクにも手を出さなかったんだね? でも、言ってくれれば飲むよ。そりゃあ、意識ないまま処女じゃなくなるのは、ちょっとアレだけど、でも、そういう性癖しかない兄ぃは、アリかな? てか、アリだな、キモくてwww」

「お前、俺のこと嫌いだよね?」

「なに言ってんの? 兄ぃが記憶を失ってから、どんどん好きが加速してますが? 前の兄ぃも好きだけど、ここ最近の兄ぃもボクにはたまらないよぅ。結婚しよ? ね? 結婚しよ? 睡眠薬でもなんでも飲んであがるから!」


 再び抱き着いてくる涼葉を強引に押し戻しながら叫ぶ。


「俺はダメ人間じゃない!!」

「そうやってあがいてる様を見てるだけで胸がキュンキュンする」

「これ以上、好感度上げるな! 頼むから俺のことを嫌ってくれ!!」

「好きなんだな、これが。どうしようもないんだな」


 今まで生きてきて人に好かれるのが、こんなに嫌なのは初めての経験だ。

 そんな具合にギャーギャー騒いでいたら、インターフォンのチャイムが鳴った。抱き着いてくる涼葉を引っぺがそうとしても離れてくれないので、引きずるようにして玄関のカメラを確認する。キリエと八重塚の姿が確認できたので「入ってきて」と言ってエントランスのオートロックを解除した。「いい加減、離れろ!」と言っても涼葉は離れてくれない。グリグリと胸を押し付けるセクハラを続行中だ。


「お前、いい加減にしないとセクハラで訴えるからな」

「おっぱい嫌いだなんてありえないよ。ボクだって他人のおっぱいは大好きだよ! やっぱホモぢゃん!!」


 クソ、ダメだ、勝てる気がしない。このバカの心に響く言葉が見当たらないし、こいつと同じレベルの罵詈雑言を言うなんて、自ら人としてのレベルを下げるようなものだ。

 でも言うしかない。言うまいと思っていたけど……。


「……お前のおっぱい、固いんだよ」


 ぼそりと言ったら、涼葉の動きが止まる。


「……もしかしてパッド?」

「パッドじゃないもん! ブラのワイヤーとか、そういうのだもん! これだから童貞はよぅ!!」

「……いくら童貞でも偽乳押し付けられ続ければ、慣れるぜ?」

「はあ? パッドじゃねーっつってんだろ! 見せてやっから目ぇ、かっ開けよ、クソ童貞がよぅ!!」


 涼葉が豪快にTシャツを脱いだところで、八重塚とキリエがやってきた。


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