第46話
毎度のことながらスルトには勝てなかった。
カブトマッスルとエコロケーションを使い、ロンギヌスの槍をスカッドミサイルのごとく投擲して倒そうと思ったけど、無理だった。
そもそもエコロケーションの範囲が、そんなに広くない。せいぜい数十メートルくらいなので、それ以上の攻撃範囲を持つスルトには無意味という残念な結果に終わった。
結局、逃げ帰り、失った能力を取り戻すため、再びロンギヌスのおじさんをしばきにいったのだが、かなり苦戦した。前回は奇襲で一方的にしばいたが、今回は奇襲が効かず、泥仕合。まあ、俺もあの頃より強くなっていたので、どうにか勝つことはできたのだけれどもね……。
更に朝起きてみれば、九万円ほど金が減っていた。マジでシャレにならない額だ。ソシャゲに課金してキャラが出なかった時のような喪失感に襲われた。
とはいえ、昨夜の修行で俺はステージ3の能力を重ねて使用できるようにはなった。リスクも大きいが、いざという時、これは大きな力となるだろう。
そんなこんなで昼休みのチームミーティングへと向かう。今日も今日とて、野外の休憩所に四人で集まったのだが……。
「そういえばさ、うちのチームってもう一人いるんだよな?」
たしか、名前は立花リスカだったはず。顔合わせの時には現れず、それ以降もいっさい接触がない。
「今更どうしたのですか?」
「いや、戦力は多いほうがいいと思ってさ」
今回の事件の黒幕が十王戦旗ならば、この四人で勝てるとは思えない。
「妖害討滅はどうにかなったけど、行方不明事件は王に関わりありそうだし、エイシアの闇に触れるだろ? 十王戦旗のどこかと敵対することになるかもしれない」
「もう兄ぃを警察に売り飛ばして、なかったことにしたほうがいい気がしてきたよ」
涼葉が、さらりと裏切る宣言しやがる。
「お前がそれでいいならいいぞ。その時はさすがに縁を切るけどな」
「り、リアルなテンションで言わないでよぅ! 冗談だよぅ! ボクが兄ぃを裏切るわけないぢゃん!!」
半泣きで抱きついてきた。泣くくらいなら、煽りつつマウントを取らなければいいのだ。
「……とりあえず、状況を整理するぞ。まず、行方不明事件だが、その被害者のなかに俺たちが解決した妖害討滅を請け負っている人間がいた。そして、この被害者たちは警察に討滅申請をせず、裏の仕事として請け負っていた可能性がある。そこまではいいか?」
キリエはコクリとうなずく。
「その仕事を斡旋していたのが、昔の俺。しかも、俺は十王戦旗と関係が深かったらしい。その手の裏の仕事の窓口を俺がしていた可能性がある。まったく覚えてないけどな」
涼葉が「クズぢゃん」と嬉しそうに言っていた。
「となると、現状、行方不明者はマンティコアに勝負を挑み、やられて消えたということになるわけだ」
俺たちの課題である妖害討滅と行方不明事件は、偶然にもつながっていたことになる。
「そして、マンティコアを倒しても妖石はなかった。妖性体ではない可能性が高く、その場合、マンティコアは誰かの
ここまでは昨日のミーティングでも共有された情報だ。
「で、行方不明者十五人に妖害討滅で消えたプロのチームを含めると、約五十人の人間が拉致されたということになるわけだ。こんな数の人間を監禁するとなると、組織だっていないといけない。エイシアで、そんなことができるのは十王戦旗くらいだろ?」
だから……。
「このまま行方不明事件を追いかけていけば、最終的には十王戦旗とぶつかることになる」
八重塚はため息をつく。
「十王戦旗と敵対するということは、すなわちエイシアにいられなくなるということですよ? 本気でまだ調査を進めるのですか?」
「進めるよ。それに、鈴木三九郎は王様二人を殺したけど大丈夫だっただろ?」
「アレは例外です」
八重塚は吐き捨てるように言い、話を続ける。
「鈴木三九郎が二人の王を殺したあと、殺された王の配下組織と警察、米軍、計四つの組織と抗争状態になりました」
「知ってるよ、それに勝ったんだろ?」
「そうですね。その抗争で、あの男は五百四十八人、殺してます」
「……え? なにそれ? 歴史に残るレベルの数じゃん」
俺の知るシリアルキラーのアルバート・フィッシュでも五百人だ。でも、あくまで自己申告の数で確認はできていないから、たぶん嘘だ。
「しかも期間は一ヶ月」
一日十人以上殺している計算になる。完全にイカれてるだろ……。
「そのうえ、死体もなにも残らないから立証できない。そんな怪物に勝てずとも負けることのない実力を持つのが、現在の王たちです」
みんな怪物級の強さってことなのだろう。
改めて説明されると、勝てる気が失せてしまうが、今さら矛を引くのはクールじゃない。
「おもしろい」
戦闘狂系キャラクターのように不敵に笑っておいた。
キリエがおずおずと口をひらく。
「あたしは十王戦旗と戦うなんて絶対に嫌だからね。いくら刀義のためでも、あぶないと思ったら手を引くから」
妥当な判断だ。
「でも、行方不明事件は解決しなくちゃいけないだろ?」
「兄ぃが犯人かもしれないけどね」
「しょせん、昔の俺はパシリの小悪党が関の山だ。その上の巨悪をしばけばいい」
「小悪党はスケープゴートとして切り捨てらるのが世の常ぢゃん。ボクも、十王戦旗と戦うのは絶対に嫌だけど……兄ぃがムショにぶち込まれるのは全然アリだから調査は手伝うよ」
「俺を助けるために真相を解明しろよ」
「いやもう、これ絶対、兄ぃが犯人でしょ? だって、靴の底についたクソを煮詰めたようなクソゲス人間産業廃棄物だよ? 兄ぃがつかまって勧善懲悪で溜飲が下がるって展開を世界が望んでるよね? でもね、ボクだけは兄ぃの味方だからね!」
「今の発言に味方の要素、一個もねーじゃねーか!」
「刀義は涼葉が言うほどひどい人じゃなかったよ」
味方というのはキリエのような人を言う。
まあ、これはこれで複雑なんだけども。
「俺が犯人だろうとなかろうと、どのみち課題はクリアーしないといけない。それに、勝ち筋はある」
八重塚が「どこにあるのですか?」と憮然とした顔で尋ねてくる。
「十王戦旗ってさ、みんなが仲良しってわけじゃないんだろ? 合法的ヤクザだって言うんなら、敵対関係の組織もあるはずだ。それなら、犯人みつけて、その情報を敵対組織に売っちまえば、どうにかなるんじゃないか?」
「まあ、たしかに、それはそうですが……」
八重塚も口元に手を添え、考えていた。
「……神門の言うとおり、十王戦旗は水面下で抗争を繰り広げてます。ただ、表立っての戦闘行為は忌避される。ただでさえ、異能力者は危険視されていますからね。大きな武力闘争を起こして、それが世間にバレれば、私たち異能力者全てのイメージが悪くなるからです。特に鈴木三九郎の件は本土でも大きな問題になりました。あの事件以降、エイシアにおいて十王戦旗同士の抗争はご法度です」
それでも互いの利権がからむ場合、戦うこともあるのだろう。
「それでも大義名分があれば、どうにかなる可能性があると思うんだ。最悪、鈴木三九郎を動かせばいい」
八重塚が目を細めた。
「どういう意味ですか?」
「あいつって自称正義の味方なんだろ? 二人の王様を殺したのだって、その王様が悪いことしてたってことが原因らしいし。もし、人体実験をしているような奴を知ったら、攻撃すると思う」
「またエイシアが抗争の場になりますよ。死人も出ます」
「わかってるよ。だから、あの狂人を頼るのは最後の手段だな。とはいえ、俺たち四人だけで十王戦旗と戦うなんていう絶望的な状況からは逃れられる」
キリエがため息をついた。
「そもそも四人で組織に挑むってのが無謀なの。それでもやるの?」
「俺は個人的状況のせいで、このまま静観するわけにはいかない。このまま事態を放置しておくと、最悪、スケープゴートとして切り捨てられる可能性がある」
なにもわからぬまま、巻き込まれて終わるという展開だけは避けたいのだ。
「ボクはつきあうよ。兄ぃの味方だからね」
「信用ならないが、ありがとう」
「信用してよ!」
八重塚は短くため息をついた。
「……手伝います」
「淡海たん、兄ぃはボクのだから、今さらデレても遅いよ?」
「鈴木三九郎を殺すまで、神門が殺されるのも捕まるのも避けたいだけです」
「ありがとう、八重塚」
八重塚はフンと鼻を鳴らし、そっぽをむいた。残ったキリエは腕を組んで「うーん」とうなっていた。それどころか頭を抱えて髪の毛をクシャクシャにしている。かなり葛藤しているらしい。
「キリエ、無理しないでもいいぞ。危険なのは承知してるから」
「わかってる!」
ボサボサの髪の毛で怒られた。
「でも、なんか、だって! ああもう! ギリギリまで手伝うわ。でも、本当に危ないと思ったら、手を引くからね!! それでもいいなら、手伝う!!」
「嫌なら無理しなくても……」
「あたしだって一応、貴族の家柄だもん! 悪いことしてる奴を許すわけにはいかないじゃない!!」
ノブレスオブリージュというものなのだろう。俺が感動していたら、涼葉が嫌そうな顔をする。
「キリエたん、そういう意識高いのいらんから」
「意識高い系じゃないし!!」
涼葉の心はどぶ川のように濁ってるんだな、と思った。
「まあ、この四人で調査するにせよ、どうするのですか? 今後の方針を決めてください、リーダー」
八重塚の言葉に「そうだな……」と前置きしてから黙る。
なにも考えてなかった。
「もっと四人で連携取れるようになったほうがいいんじゃない?」
ボサボサになった髪の毛を直しながらキリエが言う。
「マンティコアと戦って思ったけど、あたしたちの連携って最悪だと思う」
「たしかにな。お互いの能力もきちんと把握できてないし」
八重塚が仏頂面になる。
「ステージ3の情報共有ですか? それは嫌なのですが……」
「全部教え合う必要はないと思う。あたしだって全部を教えるつもりはないもの。でも、言える範囲で共有はしましょうよ。あと、もっと仲良くなる必要があると思う」
そこまで言ってから笑顔でポンと手を打った。
「合宿をしましょう! お互い理解しあうために!!」
その発言を聞いて、涼葉は心底嫌そうに顔を歪めていた。
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