第9話
気づけば、なにもない真っ白な空間に浮いていた。
「ここ、どこだ?」
声を発した瞬間、白い地面が生じ、地平線が見えた。
「ああ、そっか、これ、夢か……」
瞬間、寝る前に考えていたことが走馬灯のように脳裏をかけめぐる。
そうだ、俺はステージ3の能力をいろいろ考えてて——
夢の世界で自分を強化できるって決めたんだった!!
「よっしゃあ! 来たこれ!! 完全に能力発現してんじゃん!!」
ガッツポーズをした瞬間「君はずいぶん騒がしいな」という声が聞こえ、振り返る。振り返れども、誰の姿も見えない。真っ白な世界。
「わかってるはずさ。この世界は君の夢。全てはイメージによって定められる。この僕の姿だってね」
その言葉に呼応するように空間に見知らぬ男? が生じた。
キリスト教の宗教画に出てきそうな白い服だ。なんだっけ? 古代ギリシャとかローマの服で、こんな服があったような気が……。
「キトンだよ」
女にも見える男が微笑みながら答える。
「あんたは?」
「僕はメリクリウス。ローマ神話の神。ギリシャ神話ではヘルメスとも呼ばれる」
「商人や盗人の守護者だっけ?」
その辺の神様は以前の世界で調べてるので、そこそこ知識はある。業界の嗜みだ。
「いろいろと橋渡しをするのが僕の在り方でね。僕の知る限り、ここまで正確に集合的無意識に接続した人間は少ないよ。その気になれば、あらゆる叡智、あらゆる未来、あらゆる世界を観測できる。だというのに、君の望みはそうじゃない」
そう、俺の望みはステージ3の能力開発だ。
「俺は強くなるために、この世界との接続権を設定した」
精神系の能力で、源型は<流転>。実際、異世界から転生してきた俺は、精神世界である夢の世界にだって<流転>できると思ったのだ。
「そしてっ! 俺はこの夢の世界で神話の神々や英雄に勝負を挑み! 彼らに打ち勝つことで、その能力を使える! そういう能力に設定した!!」
成長属性までついてて、様々な能力を使えるとか、もう強キャラ感しかない。
エクスカリバー、グングニル、レーヴァテインにゲイボルグや布都御魂剣とか!
そういうメチャ強な武器とか使えるようになるのだ。
それだけじゃない。武具だけではなく能力だって使える。変身能力に完全なる透明化、不老不死にだってなれるかもしれない!
これを強いと言わずして、なにを強いというのだろうか?
「ハッハッハッハ! とうとう手に入れたぞ、我が最強の剣を!」
これは、もう約束されちゃったよ、俺TUEE展開ってやつがさ!!
だったらもう、隠したって強キャラ感出ちゃうわけだし、隠さず振る舞うべきじゃないかな? だって、やっぱり強い奴は強そうに振る舞うほうが俺的クールだしぃ!
「して、メリクリウスよ、貴様は我にその能力を献上するつもりはあるのか?」
「僕は案内人だ。すでに君が立ち上げたシステムのなかに組み込まれてる。まあ、どうしても神話上の僕の力が欲しいというのなら相手になるけど、仮に君が勝った場合、システムそのものが書きかわるから、ナビゲートシステムがなくなるよ?」
「なるほど、すでに我が旗下にくだったということか。よかろう、忠臣として励むがよい」
「そうだね、僕が楽しめる限り、僕の許す範囲において君への助力は惜しまないよ」
口元はクスリと笑っているが、目は鋭く俺を射抜いてきた。
「ただ、忘れないでほしい。僕は神性、神だ。人間なんてのは、遊び道具、舞台装置の道化程度でしかない。だから、退屈させないでくれよ」
……わかってるじゃん、メルっち。
そうだよ、俺のような強キャラの傍には、いつ裏切るかもわからない智謀系強キャラってもんがいるんだよ。
メルっち、お前、百点! 花丸だよ!!
「その期待に応えることだけは約束しよう。だが、神よ、忘れるな。全てを支配しているという思い上がりこそ、道化の振るまいだ」
皮肉の効いた諧謔で返す俺は超クールだと思う。
メルっちも、そんな俺の態度がお気に召したのか「クックック」と押し殺すように笑っていた。いいね、そういう反応も百点だよ! わかってるじゃないか、メルっち!! お前、サイコーだよ!!
「それでは裸の王様、夢の時間は有限だ」
「わかっている。我が新たな臣を得るべく動けと言うのだろ?」
ぶっちゃけ、どの神と戦い、どの武器を得るかは最初から決めてある。
「スルトの元へ案内せよ」
「北欧神話の巨人のことでいいのかな?」
「当然。彼の巨人が持つ神滅の焔剣レーヴァテイン。あれこそ我が最初の剣にふさわしい」
「本当にいいのかい? この世界での死は現実世界での死に直結する。忘れてないよね?」
あ、そういう設定にしてたの忘れてた! でも、いまさら引っ込みはつかない。
「愚問だな。神を名乗るならば時間を無駄にするな」
「わかったよ、裸の王様。いざという時の逃げ方はわかるかい?」
「わからぬ。詳細に説明せよ」
「助けて、メルクリウス様! って叫べば僕が助けてあげるよ」
「くだらんな、斯様な醜態、さらすわけなかろう?」
メルクリウスは含み笑いを浮かべ、パチンと指を弾く。
瞬間、俺は赤茶けた世界に立っていた。
木は枯れ果て、遠くに見えるのは噴火する火山。そして地面には霜が降りて凍っている。
なるほど、ここが北欧神話の世界か……。
「さあ、勝負だ、北欧の巨人よ! その巨軀、その焔を持ってしても、我が覇道を止めらぬと知れっ!」
超絶クールに叫んだ瞬間、地響きが鳴った。
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