第8話
涼葉が「お腹空いたよぅ」と部屋の外で扉をカリカリと引っ掻いていた。だが、甘い顔をするとつけあがるので、放置だ。
俺は俺のクールを邪魔する奴だけは、断じて絶対に許さない。
今日は朝からクールをキメられたのに、ラストで最悪な一日になってしまった。
保健室に運ばれたチンピラに謝っても、許してくれる雰囲気ではなかった。当然だよな、だまし討ちみたいな形になっちゃったし……。
だが、今日のことで涼葉のバカが調子に乗る理由がわかった。自分のほうが俺より強いと確信しているからだ。事実、初めて、あいつのステージ2を見たが、デタラメだった。
ステージ1でも放電現象は起こせるが、スタンガン程度の威力だ。涼葉が使ったような規模の放電現象を起こすとなると、莫大なエネルギーが必要になるだろう。
このままでは、これから先もあの愚妹にマウントを取られ続けることになる。
それは著しくクールじゃない。
早急に強くならねばならない。
強くなるためにはステージ1の能力を開発し続けるか、新たな可能性を模索するか……。
ステージ2の開発は時間がかかるからダメだ。涼葉が使った祓太刀はたしかにかっこいいが、幼い頃から叩きこまれなければ使えない。ちなみに流名は<天眞正傳神門神刀流祓太刀>というらしい。古流剣術とか、それだけでご飯何杯もいけるくらい好きだ。でも、俺には使えないのだから意味がない。
——ステージ3の能力開発しかないのではないか?
ステージ1が<科学的等価交換>、ステージ2が<認知的等価交換>なら、ステージ3は<個人的等価交換>というルールに縛られる。
個人的等価交換というのは、言うなれば自分ルールということだ。
ステージ3は能力者本人のなかでルールを定め、そのロジックが本人のなかで破綻なく成り立つのならば、どんなことでも起こせる。ただし、リスクとリターンのバランスも重要で、どんな能力でも使えるというわけではないらしい。核爆弾並みの爆発を起こす能力があるとしても、それを発生させるには、それ相応の準備や対価が必要になる。どんな身勝手なルールでも、等価交換のルールは根底に存在しているのだ。
そして、ステージ3は完全なるオリジナル異能力となる。
またステージ2が使えなくても、ステージ3は自分ルールさえ構築できればいいため、開発は可能だそうだ。
問題があるとすれば、ステージ3はステージ2以上に才能が必要となる。あと、なんだかんだで個人的等価交換は認知的等価交換の上位互換になるため、ステージ2を使える異能力者がステージ3に覚醒するパターンが多いらしい。
「ひととおり教本は読んだけども……」
どうしたらステージ3が使えるようになるかは書かれていない。ざっくり「使えると信じ続ければ、いつか使えるようになる」らしい。完全なる精神論だが、その精神論を信じて駆け抜けるしかない!
まあ、とりあえずはどんな能力を使えるようになりたいかだよな……。
やっぱり神話の武器とか英雄の力とか使いたいよな。聖剣エクスカリバーとか、神殺しの槍ロンギヌスとかさ。なんていうか、そういう権威とか外連味ってすっごく重要。
とりあえず、日記に自分が使いたい異能力のメモを書いていこう。
——神話の武器を使う。
——英雄のように超強くなれる。
この辺を目標に設定を作っていこう。あとは、どうしたら矛盾なく、この二つの能力を両立できるかだ……。
「うーん……」
考えても、なかなか出てこない。
例えば、俺に神話に出てくる神の血が流れてるとか、そういう設定があれば、そこから引っ張ってこれるかもしれない。でも、実際、そんなことはない。
ああ、そうか、そういう歴史を持ってると、そこからアプローチしてステージ3を開発できたりもするのか……。
考え方を変えよう。
自分の属性から考えるのはどうだろうか?
五系統は、よくある火、水、風、とか魔法の属性みたいなものだ。
ちなみに
<火> 化学的変化を起こす力。
<水> 生体的変化を起こす力。
<土> 物質に変化を起こす力。
<気> 力学に変化を起こす力。
<空> 精神に変化を起こす力。
——の五つとなる。
そして、どの系統の力が得意なのかはミーム拡散力場の質を測定することでわかるらしい。ちなみに神門刀義は<空>の属性オンリーで、あとは無だ。
そして<源型>だが、これはアーキタイプとも呼ばれ、その人、個人の魂に刻まれた概念のようなものだ。人はこの源型に大きな影響を受けながら生きていくことになるのだとか。この辺の源型はいわゆる<視える人>に判定してもらうらしい。
涼葉から聞いた話だと、神門刀義の源型は<流転>だそうだ。そんな源型だから俺が異世界転生してきたのかもしれない。
ともあれ<空>の属性と<流転>の源型が俺の
「精神と流転か……」
この辺の要素から最終的に<神話の武器を使う>のと<英雄や神の能力を使う>に至らなければならない。
「精神と流転、精神と流転……精神、精神、精神……精神世界?」
おっ? 精神世界? なんか使えそうな単語の気がする。
精神世界? 精神世界って具体的になんだ? 妄想の世界か? 妄想は得意なんだけどな……。
パソコンの検索サイトを立ち上げ、精神世界を打ち込む。テキトーに読み進めたところで<夢>という言葉にぶち当たった。
「夢の世界か……」
そういえば、どこかで夢の世界は人間の集合知とつながっているとかなんとか読んだことがある。フロイトだかユングだっけ?
「集合的無意識って人類の意識って感じのことだよな? アカシックレコードとか、なんかそんなのとも親和性が……」
これはっ! 使えるかもしれないっ!!
そうだ、神話や英雄の情報も全てアカシックレコードである集合的無意識のなかにあるにちがいない。いや、ある! あると信じる。絶対にある!!
——ってことは、夢の世界がその集合的無意識とつながっているということだ。夢の世界で英雄やら神話の武器を手にいれることができても、おかしくはない。
いや、できるっ!!
できるに決まってるっ!!
「てか、これしかねぇっ!!!」
次から次にわきあがってくるイメージをひたすら、携帯端末のメモ帳に打ち込んでいく。打ち込めば打ち込むほど、どんどんイメージは膨らんでいき、まるで最初からこういう能力が用意されていたかのように設定が決まっていく。
「なにこれ、めっちゃ強いじゃん、俺の
気づけば、夜中の12時を超えていた。4時間近く能力設定をメモ帳に記載していたらしい。その膨大なテキストを読み返していたら、脳汁が出てきた。
「この
たまんねぇよ。超クールだよ。そして超強いよ。
ああ、今まで自分専用の異能力を考えてきた日々は無駄ではなかった。
バトル漫画やラノベを読むたびに、俺だったらこういう力を使うなとか、この能力でも違う戦い方するな、とか考えていた日々が、今、こうして結実した。
ありがとう、俺が大好きだった異能力バトルものの漫画やラノベたち!
今、俺、本物になる日が来たみたいですっ!!!
「よし! 今日はもう寝る! 俺は夢の世界で強くなるっ!!」
叫んでからベッドにダイブした。
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