奇想天外のラビリンス

キャラ&シイ

序章【事件は向こうからやってくる。】

(ふふふ、これでどう暮らせというのだ?)


アーヴェルは静かに縦長の財布を覗き込んだ。

そして、財布の中に入っている所持金を幾度も数える。


しかし、幾ら数えても紙幣一枚と大丈夫の硬貨五枚しかない。

その合計金額は千二百三十ルビル。


ちょっとした店で食事をするなら平均八百ルビル。

パン屋でパンを購入するにしても基本的に百ルビルはかかる。


つまり今のアーヴェルは、一日分の食事にも事欠く状況であった。

しかし、その財布の状況に反してほぼ事件すら起こらない程にルーベルは平和である。


故に解決屋を営むアーヴェルに大した仕事など入ってはこないのが現状だった。

そんな状況で入ってくる仕事など夫婦喧嘩の仲裁やペットの捜索、後は浮気調査くらいのものだろう。


(あー・・・・解決屋、失敗だよな絶対?)


アーヴェルは解決屋を始めた事を心底、後悔していた。

だが、かといって普通の仕事が出来る筈もない。


何故ならそれは散々試してみたからである。

あらゆる仕事を。

そして、その結果アーヴェルは自分が普通の仕事に向いていない事を理解した。


今までやってみた仕事で、もっとも長く勤務出来た勤務日数は三日。

最短記録は十分である。


しかし、侮るなかれーー。


首になる理由は決して人間関係の末などではない。

単純に高過ぎる能力が、悪い方に働いただけなのだーー!


などと自分自身の状況に色々な言い訳をしてみながら、アーヴェルはひきつった笑いを浮かべる。


解決屋は言ってみれば、探偵業的な仕事内容を中心とした何でも屋であるが、戦争が終わり平和と呼べる現在において、本当の意味でアーヴェルの力を必要とする事柄は皆無だった。


(まぁ、仕事が無いのは仕方がない。

それにしてもどうする....。

俺はこの金で今日一日をどう凌げばいいんだ?)


アーヴェルは残された残金を見詰めながら、目を閉じ静かに瞑想する。


(パンは握り拳程度のサイズが一つで、平均百ルビル。

だがしかし、パンのミミならばパン六、七個分の量を百二十ルビルで購入可能だーー。

ならば買うしかあるまいパンのミミを!)


一つの決断を終え目を力強く見開いたアーヴェルは、再び目を閉じ集中力の深淵へと再度潜り込む。


(パックのお肉が薄切りで、三百五十ルビル程....しかし、精々二日分程度でコスパ的にやや高めだ。

ならば格安インスタントラーメンと、格安魚肉ソーセージを可能な限り買い込めばどうだ!?)


その方向性が間違いないならば節約すれば最長、一週間は食べ繋げる筈。


(残された道はこれしかあるまい。

だが、このミッションに失敗すれば死、あるのみ!)


アーヴェルは覚悟を決め決断した。


ならば向かう先はただ一つ、激安スーパー・フリーマンである。


フリーマンは高くて質の良い品は扱わないが、質が悪いかろうが何だろうがとにかく、安い品のみを扱うを信条に経営するスーパーであった。


そして、五分かけて近所のスーパー、フリーマンへと到着しアーヴェルだったが、そこは既に主婦達の戦場と化していたのである。


(何てことだ....空腹で満身創痍なのに、俺はこの過酷なる戦場で、ミッションを達成せねばならないのか!?)


目の前にあるのは一つ間違えれば、致命傷を負うかも知れない過酷さ。

主婦達は目を怒らせ、獲物を奪い合う。


そんな中、戦いに破れた主婦は宙を舞ったり壁に叩きつけられたりする等々、辺りには敗者の屍(取り敢えず死んではいないようだが....?)が転がる。


失敗すれば先はない。

ここは平穏なる時代故の戦場なのだから。


(くっ....何て恐ろしい場所なんだ....だが、それでも勝つのは俺だ!)


アーヴェルは、過酷なる惨状を目にしながらも勇気を振り絞り自らを、奮い立たせる。


如何に過酷なる戦場であろうともアーヴェルには、既に立ち向かう覚悟が決まっていた。


何故ならかつてのアーヴェルにとって過酷なる戦場は、日常だったからである。


それに名実ともにデッドオアアライブな現状にあって、戦場で生き残りを賭けた戦いをしないという選択肢は無い。


だがーー。


(くっ、何てしかし過酷な戦場なんだ....?

まるで第七次異界大戦を彷彿させるようなプレッシャーだ!?)


ひしめく、おばちゃん達の殺気にアーヴェルは思わず後退りした。


だが・・・・。


(それでもインスタントラーメンは・・・・インスタントラーメンだけは必ず手に入れてみせる!!)


アーヴェルはそう臆した自身の心に渇を入れがら地獄への一歩を踏み出す。


しかし、皮肉にもその一歩が戦闘開始の合図となった。


アーヴェルが激安品カートのある領域に足を踏み入れた直後、殺意が込められし、おばちゃんの豪腕が、アーヴェルに襲いかかる。


(なん・・・だと!?)


しかし、アーヴェルは寸でのところで、それを回避しつつ何とかカートに身を寄せ、体勢を整えた。


だが、その直後、再び背後から風を切る音と共にアーヴェルに向けて、凶器の如き鉄拳が放たれる。


(くっ・・・! 息つく暇もない! これはまさに戦場だな!?)


アーヴェルは絶え間無く訪れる奇襲に面食らいつつも何とか、それを回避し、カートの中に視線を移す。

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