第113話 宝具の持ち主
光るマントを纏った自分を、お姉様とシャーリーが興味深かく見つめている。
いまだに、事態が飲み込めていない自分は、おろおろとするだけだった。
「アリシア、そちらのがいとうは、どちらにおかれてましたの?」
目を細めながらマントを見ているシャーリーが、視線を合わせて問いかけた。
誰からも咎められなかったし、とりあえず今は誤魔化すために取り繕った方がいいよね。シャーリーに、光るマントになる前のメダルの場所へ案内した。
「このメダルがひかってマントになったのです」
「マントってなんですの? はじめてきくことばですのね」
あれ? これはマントって言うんじゃないの?
一瞬、言葉が通じず困惑する自分は、直ぐにマントの裾を掴んでシャーリーに向かい合う。
「えっと、このぬのにかわるの」
羽織っている物を見せるとシャーリーは理解したのか、メダルの入った箱を覗き込み、一枚取り出した。
「これですの? なんのへんてつもないメダルですの。このあとどうすればよいのかしら?」
メダルを手の取って、裏表に返しながら不思議そうな顔で見るシャーリー。
確か、灯りが欲しくて掲げたら光ったよね……。
「シャーリー、メダルをかかげてみたらかわるかもしれません」
「そうですのね。やってみますわ」
シャーリーは、自分の言葉に素直に従い、メダルを握って頭上に掲げて見せる。
その瞬間、メダルが眩く光りシャーリーを包み込み、自分は思わず目を瞑ってしまった。
あわわ、自分もこの光りに包まれたのか。
突然の光りに再び慌てる自分は、シャーリーの姿を薄めを開けようとする。
フラッシュを焚いたような強い光りは一瞬だったようで、仄かな明るさが目に映理、シャーリーの姿が捉えられた。この明るさは、シャーリーから発せられている? 強い光りで眩んだ目が慣れたところで、改めてシャーリーの姿を確認した。
そこには、自分と同じように光を帯びた真っ白な生地に、青色のラインと金色の複雑な刺繍がされたマントを纏っているシャーリーが目に飛び込んだ。
「うわー、シャーリーきれいです」
思わず、その姿を見て感嘆の声を上げる自分。どこから吹いたのかマントがふわりと舞い上がり、愛くるしい笑顔を向けるシャーリーに、思わず目を奪われてしまった。
「まぁ、これはアリシアとおそろいですの。とてもすてきながいとうですわ」
お揃い? 自分が纏っているマントはこれなのか……。確かめるように、自分の羽織っているマントを見ると、確かに刺繍の模様や生地の色が同じに見えた。
シャーリーに良く似合って、すごく高貴な感じのマントです。これを自分も纏っていると確信すると、何だかんだ嬉しい気持ちが湧いてきます!
「アリシアちゃん、こちらのメダルですの?」
お姉様も箱の中からメダルを取り出し掲げると、自分達と同じように光り放ち白いマントを羽織っていた。
「おねえさまもおそろいです! とてもおにあいです」
自分やシャーリーより身長も体格も大きいお姉様のマントは、体格に合わされた様に大きかった。同じ物なのに、ちんちくりんな自分達と比べると雰囲気が違うように見えます……。
「まぁ、エルステアさま。とてもおにあいですわ」
ちょっとお姉様が際立って見えるけど同じマントだ。皆んなのマントを見回しながら、自分が羽織っている物へ視線を向ける。お姉様ともシャーリーとも同じだって! なんか凄いカッコいいんじゃないかな! 三人で並んだ姿を想像して、顔がニヤけてしまった。
「ふふ、お三方、とてもお似合いですわ。褒美の品はそれで良いではないかしら? 私も推薦いたしますわ」
自分達の羽織るマントを見て、王妃様も嬉しそうです。
美幼女三人が、揃って気品のある白いマントを羽織っている訳だ。誰が見ても麗しく思うに違いない!
「はい、おうひさま。わたくしはこれにします!」
「わたくしもですわ、おかあさま。これはまりょくをつかわないので、ちょうどよいですの」
「シャルロット王女様とアリシアちゃんとお揃いですもの。私もこちらにいたします」
全員の意見が一致し、マントに変わるメダルを褒美としていただく事が決まった。皆んなが迷いなく決めた事に、お姉様もシャーリーもこちらを向いて笑顔を見せる。自分は、二人の笑顔に応えるように手を引いて、身体を寄せて喜びを表現してみせた。
「みんなでおそろいです! わたくしうれしいです!」
お母様に似た声に誘われて着いた先の不思議な出来事……こんないい物が見つかるなんて、今日はとてもいい日です! お尻にちょっと重力を感じるけど、そんな事に構わずお姉様とシャーリーの手を取り、少し興奮しながらはしゃいでみせた。
「シャルロット王女様、アリシアちゃん、それでは王様のところへ褒美が決まった事を報告に行きましょう。お父様もお母様もきっと戻られていると思いますわ」
そうだ、自分はお母様を追いかけてここに来たんだった……。でも、お姉様の口振りから、ここにはお母様はいない事になる。じゃあ、あの声は本当に誰だったのか。神のお導きとは言ってたけど、確かに声は聞こえたんだけどなぁ。
少し冷静になった自分は、再び声の主について考えながら、お姉様達と戻る事にした。
妖精族の王様の宝物庫だから、不思議な事があってもおかしくは無い。マントのメダルを手に取った後、声は聞こえなくなった。これを手に取らせようと、誰かが声色を真似てした可能性もあるよな。
ゴッ! ガシャシャン!
「あうっ!」
「あらあら、アリシアちゃん、大丈夫ですの?よそ見していると、ここでは危ないですよ」
考える事に夢中になりすぎて、大きな棒におでこが直撃してしまう。
何ですか、こんなところに!
おでこに手を当てて、睨むようにぶつかった物へ視線を向けると、そこには大きな甲冑が見え手には、少し錆びついた槍が握られていた。行く時には暗すぎて見えなかったけど、こんな物があちらこちらに無造作に置かれている。
いやはや、よくこんなごちゃごちゃした所をひとりで入って行ったよなぁ……。
改めて、周りを見回しながら感心する自分。うーん、お母様の声が聞こえなかったら、絶対こんな場所まで行かないよなぁ。ちょっと歩けば、何かにぶつかりそうだし、ぶつかって壊したら弁償できるとは思えない物ばかりだ。
「おねえさま、どうしてわたしがいるばしょがわかったのですか?」
額をおさえながら、上目でお姉様に問いかける。こんな入り組んだ場所から、小さな身体の自分を見つけるのは至難の業です。かくれんぼしたら、見つけられる自信が自分にはない。
でも、シャーリーもお姉様も迷わず辿り着いた様子だった。
「大変でしたのよ。アリシアちゃんの姿が突然見えなくなってしまって、皆んなで手分けをしましたもの。でも、このメダルのおかげですわ。奥の方から灯りがパッと出て、アリシアちゃんの声が聞こえましたのよ」
そっかー、このメダルが光ったから特定出来たのか。今、こうして皆んなに手を引かれて戻っているから良いけど、あの場所からひとりで帰られる気がしない……これのおかげか……自分は、胸に付いたメダルに視線を向けた。
「おねえさま、かってにいってごめんなさい」
「ふふ、こうしてお揃いの素敵な外套を得られましたもの。これもお導きですわ。でも、次からはお姉ちゃんと一緒に行くようにしてくださいね。約束ですよ」
「アリシア、そのときは、わたくしにもこえをかけなさい」
お姉様の言葉に、シャーリーも鼻をツンと上に向けてこちらを見ている。
「もう、ひとりでいかないです。ちゃんと、そうだんします」
今回は運が良かったのだ……こんな所で迷子になったら……と、考えると……。冷静になればなるほど、背よりも高い棚や宝物が見える宝物庫の薄暗さに恐ろしさを感じ、おしっこがちびれた。
本当に、何も起こらなくて良かったよ。下半身に生暖かさを感じながら、足元に気をつけて王様の元へ戻った。
「おぉ、其方等、まるで聖騎士のようではないか。そのような物がこの部屋に合ったとは、驚いたぞ」
王様は自分達の姿を見ながら、感慨深げに感想を述べ始めた。沢山の宝物が詰まった部屋だから、王様でも何が置いてあるのか把握しきれていない様子です。
「アリシアがみつけたのですよ、おとうさま」
「なるほど、さすが聖女様であるな。これも神のお導きであろう。其方等の褒美は、その外套で良いか? とは言え、それ以上に相応しい物が、ここにあるとは思えぬがな」
顎髭を撫でながら、こちらを見る王様。
このマントが何やら凄い価値のある物らしく聞こえるけど、効果とか全然分からないのですけどねぇ。
王様は、執事から紙の束を受け取ると、捲りながら何かを確認し始めた。
「ふむぅ、やはりか……。其方等、よく聞くがよいぞ。その宝具は、この国、サントブリュッセルを建国に力を尽くした十賢者の物である。まさか、この時代に再び現れるとは、まさに神の導き。それ以外、考えられぬ」
おぉ? なんか凄い話ですね、王様! という事は、何か凄い力がこの
マントにありそうですよ!
「おうさま、このぬのには、とくしゅなこうかもあるのですか?」
「うむ、どれどれ……」
あの紙は所蔵品の目録なのかな? 王様は、嫌な顔ひとつ見せず、寧ろ嬉々として紙を捲りながら確認してくれている。
「アリシア、どうやらこの書類には詳細は書かれていないようである。十賢者の伝説を調べれば、外套について何か分かるやもしれぬ」
「おうさま、わたくしのためにしらべていただき、ありがとうぞんじます」
十賢者の道具……お姉様はともかく、自分に相応しいかは……正直、自身ありせんけどね。
「其方の祖父母に聞いてみるが良い。我よりも見識は深く、数多の書物を持っていよう。では、聖女エルステア、聖女アリシア、そして、シャルロット。其方等に、この十賢者の外套を授ける。この国のためによく尽くすが良いぞ」
お姉様は、王様の言葉に合わせて、少し屈んで御礼を告げる。自分とシャーリーは一歩遅れて王様に頭を下げて感謝の気持ちを伝えた。
「あらあらー、エルステア、アリシアちゃん。良い物を見つけられましたのねー。ふふ、とても似合ってますわよ」
「おかあさま、おかえりなさい!」
うーん、やっぱりあの誘いの声は、お母様の声に似ている……けど、なんかちょっと違う気がした。
お母様の姿が目にはっきりと映ると、堪らず足下に飛びつく。
「おかあさま、おかあさまのこえがきこえて……そしたら、このぬの……じゅっけんじゃの、がいとうが……」
「まぁ、そうでしたのね。ふふふ」
足下に抱きつきながら、マントを入手した経緯を説明する自分。黙っていたら、後で怒られるかもしれないと思い、勝手に奥へ行った事を弁解した。
必死に喋る自分に、口元に指を付けて微笑むお母様。
そのまま、脇に手を入れ抱き上げられ、顔を向ける。
「アリシアちゃん、その声はきっと神様ですわ」
おっ、お母様も皆んなと同じ事を? でも、お母様の言葉だし疑いようがない……。
神様の声は、お母様にそっくりだった。
少し複雑な気持ちで、手元のマントに視線を下ろす。
どうして、これを神様がわざわざ手に取らせようとしたのか?
別の問題が新たに生まれ、疑問符がたくさん頭上に現れた。
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