第31話 お母様のお友達
いつも通り午前中はお勉強して過ごし、皆揃って一階でお昼ご飯をいただいてお昼寝をする予定。
今日は、昼食にお父様もいた。
午後にお客様が来られるそうで、お父様自らお迎えするためだそうだ。自分には関係なさそうなので、軽く話を聞き流した。それよりも、ご飯中に寝落ちしそうなので、何とか落ちないように堪えるので精一杯なのだ。
「アリシアちゃん、もうお眠ですのね。昼食が終わったら、お母さんとお昼寝しましょう。エルステアも魔法の練習をし過ぎて、少し疲労の色が見えますわ。魔力の成長には休息も必要ですの。今日は一緒にお昼しましょうね」
「はい、お母様。あの、ひとつ教えていただきたいのです。お母様がおっしゃったお昼寝は、魔力の成長にどのような関係がございますの?」
「良い質問ですね、エルステア。魔力の消費すると、消費した魔力を回復しようとするのは分かりますね?」
むむ、お母様とお姉様が魔法の話をしています……。この話は、聞いておきたい。そう思い、眠い瞼をカッと開いてお母様の口に視線を向けた。まだ魔法を使わせては貰えないけど、先に知っておいて損はないのだ。
「魔法を覚えたての時は、魔力量も魔力の回復量も定まってませんの。貴女のように成長途中であれば、消費した魔力より少し多めに魔力が回復されますから、増えた分だけ魔力を貯める器が大きくなりますのよ。ですので、魔力を使った後には、しっかり身体を休めて、魔力の総量を出来るだけ増やすと良いのです」
よく動いて、よく眠る。何だか筋トレに似た感じですね。自分も今から魔法使ってよく眠ったら、魔力量が増えると思うのだけど……。
お母様とお姉様の会話がしばらく続き、眠い目を擦りながら何とか話を最後まで聞いた。
お母様の話によると、魔力量は、身体強化の持続時間とか魔法の使用回数が増えたりと結構重要なことみたいだ。大人になると逆に消費した魔力を回復する時間が遅くなるみたいで、満タンになっても増える事はないらしい。若い時に、魔力を使い、回復させる。それを繰り返し魔力量を増やせるかで、将来付ける職業や魔法の種類にも影響があるらしい。
ギリギリまで魔力使って回復したらどんどん量が増えるんじゃないと思ったら、眠って回復できる量は人によってばらばらなので、必ず増えるとは断言出来ないみたいです。
ふむ、そんなに都合よく出来ないってようですね。
お姉様はお母様の話に頷き納得したようなのです。お母様に促されるまま、三人仲良くお昼寝。かろうじて眠気に耐えていた自分は、お母様のすべすべで暖かい肌に触れ意識を閉じて眠りについた。
お昼寝から目を覚まし、窓のある方向に顔を向けると、雪がぱらぱらと降っていた。ガイアがまた雪の中を駆け回っているのかなと、気になり、寝ているお母様達を起こさないようにそっとベッドを出る。
暖かそうな羽織物をリンナがそっと肩にかけてくれる。
「ありがとう、リンナ」
お礼を言うと、リンナはにっこりと微笑んでくれた。気配り上手なリリア、その優しさに心が温かくなる。
部屋の中と外の気温の違いで窓が白い。キュッキュッと手で窓を擦って外を覗いて見る。
雪に覆われた庭が一面広がっている。「ガイアはどこで遊んでるのかなぁ」と、視線を巡らせていると、遠くに置かれているゴーレムが何体も動いている? その側で、飛び跳ねている四本足の物体はガイアじゃない?
ガイアと思われる物体の機敏な動きと、少しぎこちない動きのゴーレムに目が釘付けになった。
「リリア、ゴーレムうごいてるよ!」
リリアは自分の声を聞いて、すぐさま自分のところに駆け寄る。彼女は自分の頭の上から窓の外を一瞥すると、すぐ様お母様のところに踵を返した。
「奥様、ゴーレムが反応したようです。急ぎ旦那様に確認する必要がございます」
「ええ、そうですわね。メリリアを呼んでちょうだい」
リリアは部屋の扉を開けて、ベルを三回鳴らす。
「お待たせしました、奥様。旦那様は既に城門に向かっておられます。奥様方にはこちらでお待ちいただくよう、申し使っております」
「ご苦労様、メリリア。ディオスが向かっているのであれば大丈夫でしょう」
すぐ駆けつけてきたメリリアの報告に、お母様は納得しているようです。「動いているゴーレムを近くで見てみたいなぁ」と思ったけど、あれが動くって事は、不審人物とか魔獣が侵入して来たって事だよね。結構まずいって言ってなかったっけ?
でも、お父様が向かってるみたいだから心配いらないのかな……。
しばらくして、外からガイアの吠える声が聞こえてきた。もう騒ぎも収まったのかな? さっきまで眠っていたお姉様も起きてきたので、一緒に窓から外の様子を伺った。
「お母様、見慣れない方がお父様とこちらに向かってきてますわ」
「ガイアもいます!」
お父様の隣にいる人は誰だろう? もしかして、今日来られると言っていたお客様かな? でも、お客様なのに、どうしてゴーレムが動いたり、ガイアが吠えてるのか……。
「ふふ、やっぱりあの方ですわね。相変わらず、怖いもの知らずだこと」
自分とお姉様の頭上から、お母様が外を眺めて微笑んでいる。
「お母様、お父様の隣の方はご存知なのですか?」
「ええ、よく知ってる方ですわ。本日来られるお客様ですから、二人とも、お上品にご挨拶してくださいね」
「はい、お母様。お客様でしたのね。失礼のないようにいたしますわ」
「ちゃんと、あいさつします」
お母様に約束すると、皆んなでお客様を出迎えるため一階に降りた。ゴーレムが動いちゃうお客様に、勝手に期待が膨らむ自分。殺気が勝手に出ちゃうほど強い人とか、ゴーレムをうっかり何かして動かしちゃった、好奇心旺盛な人なのか? 家にいる人達とはちょっと違う感じがして、ワクワクが止まらない。
メイノワールが玄関の扉を開くと、お父様にエスコートされたお客様が姿を見せた。
黒く大きな翼を背中に背負って、鮮血のように赤く綺麗なロングヘアーに、頭に羊のように曲がった黒いツノが付いている? 少しつり上がった目尻に青い瞳、そして、胸元が強調された黒いドレスを纏った妖艶な雰囲気の女性だ。
「なんて物を庭に置いておくんですか! 本当に貴方達は私を殺す気ですか?」
「いや、其方が城門を無視して飛んで降りてくるのが悪かろう?」
「何を当たり前の事を言ってらっしゃるのかしら? もー! これだから飛べない種族は困りますわ!」
えーと、不機嫌そうなお客様が自分達に目もくれず、お父様と言い争ってるのですけど……ゴーレム達の事を怒ってるのかな?
「ナーグローア、もうその辺にしましょう。ご紹介しますわ、私の娘のエルステアとアリシアよ」
二人のやり取りに気を奪われていた自分とお姉様は、ハッと気がついて挨拶をする。
「ご機嫌よう。私、ディオスの娘、エルステアと申します。今日は起こしいただきありがとう存じます」
「あら、小さいのに挨拶が立派ですわね。エルステア、よろしくね。私はナーグローアですわ。良きに計らいなさい」
目つきが鋭くてキツイ感じの性格を持った美人さんかと思ったけど、気さくな感じで話すのでちょっと拍子抜けした。とは言え、初対面のお客様との挨拶だからちゃんとしないとね。挨拶はどこの世界でも第一印象を決める大事な儀式ですから!
「ごきげんよう。わたしは、ディオスのむすめ、アリシアともうします。」
「あらー、こんなに小さいのに凄いですわね。この娘、どこから攫って来たのかしら? さすが悪名高き英雄ディオス。酷い人ですわね!」
「おいおい、ナーグローア! この子等は、まごう事なき我の娘だ。不穏な事を申すでないわ!」
ナーグローア様とお父様は仲が良いのか悪いのか、さっきからずっとこの調子なんですけど。
「ふふ、ナーグローアはお変わりないようですわね。この娘は私の娘ですよ」
「久しぶりですわね、ユステア。相変わらず美しいままで安心しましたわ。んん? またお胸が大きくなってませんこと? どういう事かしら」
お母様と挨拶を交わすと、徐にナーグローア様はお母様の胸を揉みしだき始めた。
ちょ、お母様のおっぱいは自分のものなんですけど! 勝手に触れないでください!
「だめです! おかあさまはあげません!」
とっさに、お母様とナーグローア様の間に入り止めようとする。
「あら、可愛いことをおっしゃって。ユステアはずるいですわね。こんな可愛い娘を二人も授かっているなんて。多すぎますでしょ? ひとり私が預かりますの」
「おいっ! さっき我に言った言葉を忘れたのか。其方が言ってどうする。」
「何の事でした? もう過去の事は忘れましたわ。ディオスは歳を取り過ぎて神経質になったんじゃありませんこと。老いは嫌ですわねー、おほほほほ」
ナーグローア様はお母様には優しいのに、お父様にはマジで冷たいですね。何か因縁の関係とかそんな感じなのでしょうか。変にお互い刺激し合っていて、何か起きないかハラハラしてしまいます。
「メリリア、メイノワール。貴方達も元気そうですわね。ディオスに愛想が尽きたらいつでも私の所にいらっしゃいな。歓迎しますわよ」
「ナーグローア様、お元気そうで何よりでございます。勿体ないお言葉ありがとう存じます」
メイノワールが挨拶をして会釈すると、メリリアも同じように簡単に挨拶を交わした。
「こんな場所で客人をもてなす訳にはいかぬからな。メリリア、案内を頼む」
「ちょっとお待ちなさい、ディオス! 貴方のおかげで髪はバサバサになるわ、服はボロボロにされるわ、そこの幻獣には羽を噛まれるわで、散々な目にあってますのよ! お風呂くらい使わせてもらいたいわ」
確かに、ナーグローア様はよく見ると服も髪も乱れている。ゴーレムとガイアに寄ってたかって攻撃されたっぽい雰囲気だ。さすがにボロボロの姿で夕食を招くのもどうかと思いますね。
「ディオス、私が案内いたしますわね。メリリア、ナーグローアをお風呂に案内してさしあげてくださいな」
メリリアはナーグローア様をお風呂に連れていく。お父様はちょっと疲れた表情で彼女を見送った。なかなか強烈なお客様だったので、その相手はしんどそうですね。でも、楽しそうな人で良かった。
「あら、ユステア。貴方はいらっしゃいませんの? せっかくの友達が来たのに寂しいですわね」
「安心してナーグローア。こちらの用が済んだら伺いますわ」
ナーグローア様はお母様の返事に満足したのか笑顔で返してお風呂に向かった。
「ユステア、ナーグローアを頼む。我は、奴が置いて行った従者たちが到着するのをここで待つことにする。今頃慌ててこっちに向かっているであろう」
「分かりましたわ。エルステア、アリシアちゃん、ちょっと早いけどお風呂に行きますわよ。よろしくて」
「はい、おかあさま」
自分もお姉様もナーグローア様とお風呂をいっしょするんですね。ちょっと百合っぽい感じがするので、お母様ひとりでは危険な気もするので、ついて行こう。お母様を守らないといけませんね!
ちょっと鼻息を荒くし意気込む自分。
お母様とお姉様に連れられお風呂へ向かって行った。
「お母様、ナーグローア様はどちらのお国の方なのですか?」
お風呂に向かう途中でお姉様はお母様に質問した。エルフ族の人では無いのは一目瞭然だ。角があったり、羽が生えている種族って何だろうね。見た感じ、獣族とかドラゴンとかかな?
「ナーグローアは、魔族が治めるヴェルシュットシュテルン王国の王様ですのよ」
「えっ?」
お姉様と驚きの声がハモる。王様ですと? えっ、何で王様がここに来てるの? あのゴーレムにめちゃくちゃにされた人が王様って……。何がどうして……。
「まぞくのおうさまですか?」
「アリシアちゃんせーかーいですわ。そうよ! 人間族には魔王とも呼ばれているわ」
「魔王様が、どうして私達のお家に来られたのですか?」
そうだ、どうして違う国の王様が、わざわざここに来たのですかね……気になります!
「うーん、困ったわ。もう少しナーグローアがここに馴染んで、落ち着いたら教えてあげますわね。それまでは秘密ですわ」
お母様は、悪戯っ子みたいな茶目っ気のある顔を自分達に向けた。はうっ! お母様、その顔はずるいです。可愛すぎます! 時々、お母様は可愛い仕草で話しをするので、対応に非常に困る。
「あぅぅ。ざんねんです」
「それでしたら、私、ナーグローア様が居心地良く過ごせるように努めて、早く馴染んでいただけるように頑張りますの」
「うんうん、そうしてあげて頂戴。エルステアもアリシアちゃんもよろしく頼みますね」
さすがお姉様です。条件を提示されているのだから、早くクリア出来るようにすれば良いだけなのだ。よーし、自分もナーグローア様をしっかりもてなしちゃうぞ!
「アリシアちゃん、一緒に頑張りましょうね!」
「はい! おねえさま。がんばります!」
お姉様と目を合わせて、同じ目標に向かって頑張る事を誓った。目標達成の目的は些細な事かもしれないけど、姉妹の共同作業なのだ。頑張らない訳にはいかないよね!
「その意気よ、二人とも。お母さんも応援してますわ」
自分とお姉様を見ているお母様は、とっても嬉しそうな顔をしている。自分もお母様に笑顔で返して、足取りを弾ませてナーグローア様のいるお風呂に向かって行った。
「皆、遅いわ! 待ちくたびれてしまいましたわ! ほら、早くドレスを脱いでお風呂に入りなさい!」
ナーグローア様は、一糸纏わぬ姿で腰に手を当て仁王立ちで自分達を待っていた。はわわ、魔王なのにそんな明け透けで良いんですか? なまじ美人なので目のやり場に困るのですけど……。
と言っても、毎日お母様やメリリア、お姉様の裸を日常的に目にして肥えてるから、すぐ見慣れてしまうのですけどね。
「お待たせしてごめんなさいね、ナーグローア。皆、お洋服を脱いで入りますわよ」
ナーグローア様は待ちきれなくなったのか、先にお風呂の扉を開けて入っていく。お尻付近についている尻尾がフリフリと揺れていることに、自分は見逃さなかった。
角、翼、そして尻尾もあるのね! 魔族の身体的特徴をしっかり把握いたしました!
ナーグローア様は、魔王なんだよね。自分が生前に本や漫画で知っている魔王と身体的特徴は似ていても、中身が別物過ぎる……。
このまま一緒にお風呂に入ってからお食事だ。たぶん、あのテンションのまま話をすると、ますますイメージとかけ離れていくような気がします。
とりあえず、お母様とはとても仲が良いみたいだし、自分達には害はないと感じたので、魔王でも何でも良いや……。怒らせたら怖そうだし、さっさとお風呂入りましょう!
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