第30話 お姉様といっしょ
ゆらゆら身体が右、左に揺れている。なんとも気持ちのいい揺れを感じる。
あれ? いつのまにか眠ってた?
はっ! と、気がついて薄目を開ける。
「ふほっ!」
メリリアの顔がとても近くて、思わず驚いてしまった。
多分、お姉様の魔法の練習中に寝落ちしたのを見て、メリリアが抱っこしてくれていたのか……。揺れ心地が最適です! 快適な睡眠をありがとう!
メリリアは、自分が起きたのに気がついて微笑みを向けた。
「良くお眠りになられてございました。アリシア様」
「ありがとうぞんじます」
家で働いているメイドの中では最年長のメリリア。シュッとした目元に、黄緑色の髪を纏めた美人なエルフさんだ。スカートの中から、マシンガンとかショットガン、ナイフが出てきそうな雰囲気をしているのが特徴。
かなりの美人さんなので、見つめられるとこちらが照れてしまいます。
少し視線を逸らして、しばらく揺られていると、少し離れたところから、お母様の声が聞こえてきた。
「次は、魔力で身体を強化する方法を練習してみましょう。魔力を引き出す方法と似てますから、貴女なら出来ると思いますわ」
どのくらい眠っていたか分からないけど、眠っている間に、お姉様は次のステップに進んでいるようです。さすが、お姉様です! 習熟が早いですね!
あっ、その前に……眠っていた時におしっこしてしまったのです。
「おはようございます、おかあさま。おしっこでちゃった。ごめんなさい」
「良く眠れましたか? アリシアちゃん。おしっこ教えてくれて偉いわー。お母さんと、おしめを交換しに行きましょうね」
お姉様の練習に水をさす形になってしまった。漏らしたまま、我慢しておけば良かったかもしれない……。
「おねえさま、ごめんない。れんしゅうとめちゃって……」
「大丈夫ですわよ、アリシアちゃん。さっき程おしえていただいた、魔力を魔石に込める練習をして待ってますから、安心してくださいまし」
「エルステアは妹思いで良い子ですね。お母さん、とても嬉しいわ」
「アリシアちゃんが困っているのですもの当然ですわ、お母様」
お母様は、お姉様の言葉を聞いてすごく嬉しそうです。
ちょっと申し訳ない気持ちになっていたけど、お姉様が優しい表情で自分を見てくれているので、不安な気持ちは消えてなくなりました。
お姉様は、本当に優しい……自分は幸せ者です……。
「メリリア、準備はよろしいかしら?」
「こちらにご用意いたしましたので、お使いくださいませ」
演習場に隣接している部屋のひとつに案内され、お母様に抱えられ一緒に入っていく。その部屋には、大人が横になっても余裕がありそうな、ロングソファが置いてあった。メリリアは代えのおむつをお母様に渡して、演習場に戻って行った。
ロングソファに寝かされて、ドレスを捲ってドロワーズを脱がされる。おしめを固定している布を解いて、自分の両脚をちょっと持ち上げてから、おしっこ塗れのおむつが引っ張り出された。
魔法で水を出してタオルを濡らし、お尻を丁寧に拭いてくれる。即席で、濡れタオルを作るお母様の手際の良さ……。お母様は本当に魔法を自在に扱えるのだ。日常的に便利に使うので、見ているだけで感心してしまいます。
「あら? 少しお股がかゆいかゆいになってますわね。今日は、これも使ってあげますわ」
お母様は円形の缶の蓋を開けて、自分の下半身をぽんぽんと優しく数回叩いてくれた。感じからして、これはシッカロール? この世界でそう呼ばれているか知らないけど、そんな感じの物を付けてくれたようです。子供って体温高いから、汗疹出来やすいのだ。すぐに被れちゃうから、シッカロールのような汗を吸ってくれる物が重宝されるんですよね。
「おかあさま、ありがとうぞんじます」
「どういたしまして。アリシアちゃん、痒くなったらちゃんとお母さんに教えてくださいね」
「はい、おかあさま」
おむつの交換が終わったので、直ぐにお母様と演習場に戻った。お姉様は魔力を込めている最中で、すごく真剣な表情を見せている。
「お母様、魔石にここまで魔力が込められましたわ」
お姉様は、魔力の溜まっている場所を指で示し笑顔を向けた。
「立派ですわエルステア。貴女には、魔力を上手に扱える才能がありますわ。沢山魔法を覚えても安心ですわね」
「おねえさま、すごいです」
「ええ、お嬢様は、魔法の扱いに関して筋がよろしいようです」
皆んなに褒められて、お姉様の耳が紅く染まっていく。
「イヤだわ、皆んなして……。煽てないでくださいまし。たまたま上手くいってるだけですわ」
謙遜しつつも顔を紅くするお姉様が、ちょー可愛いのですけど! 美少女エルフが悶えてるのを目の当たりにして、ちょっと興奮してしまった。
「謙虚なのは良い事ですよ、エルステア。その気持ちを忘れないように励みなさい」
「はい。お母様」
「エルステア、そのまま身体強化をやってみましょう」
身体強化とは、魔力を身体の一部に纏わせて肉体を強化する方法なんだとか。魔法とは違って魔力を操作する一環で使うことが出来るそうだ。
「では、私が実演いたしますね。魔力の流れをよく見ているのですよ」
お姉様と自分は、お母様に視線を固定しジッと見つめた。
すると、お母様の身体からほんのり光りが発せられる。とても神々しく輝いてオーラを纏っているみたいです。
「おかあさま、めがみさまです」
「お美しいですわ、お母様。そちらの纏っている光が魔力なのですか?」
「エルステアは察しが良いですわね。そうよ、これが身体強化で魔力を纏っている状態になりますの」
まるで、スーパーで強い、へっちゃらな人みたい。
「奥様、案山子のセットは完了しております」
「エルステア、アリシアちゃんを下がらせてくださいね」
メリリアに誘導されてお母様から距離を取る。メリリアの手には大きな鋼鉄の盾が握られていて、自分達の前に立ち塞がり構えた。
「奥様、いつでもどうぞ」
「エルステア、アリシアちゃん。メリリアの後ろでちゃんと見てるのですよ」
設置された案山子で実演するようだ。これから起こる事に期待して、手から汗が出てくる。お姉様もスカートをギュと握りしめて、視線をお母様に向け続けた。
「お嬢様方。もう少し私の近くにお寄りください」
メリリアの指示を聞いて、自分達は一歩側に寄った。
その直後、ドゴォッン! と大きな音が演習場に響くと、お母様のいた場所から衝撃波がこちらに迫ってくる。咄嗟に身を守るように頭を抱え、小さく蹲って目をつぶってしまう自分。ゴォッ! と、衝撃波が近づいてくると、恐怖を感じさらに身体を縮こまらせた。
パンッ! と、破裂音が聞こえる。
一瞬の出来事だった。
大きな音が聞こえなくなり、何事も無かったように静寂が戻る。
「お嬢様方、もう大丈夫ですよ」
身体を縮こまらせていた自分に、メリリアが声をかけてくれる。ちょっと顔を上げると、お姉様も蹲っていたようで目が合った。そろりとメリリアが持つ盾から、お母様のいた場所を覗き見る。
そこには、お母様がちゃんといるのだけど、相対していた案山子は、固定されていた支柱を残して、木っ端微塵に吹き飛んでいて跡形もなかった。
あの衝撃波はお母様が……。とんでもない破壊力ですよ! お姉様も自分もその光景に目を丸くしてしまった。
「おかしいですわねー。軽くしたつもりでしたのに。ねぇ、メリリア?」
「はい、奥様。今の当て身は、軽くの領域です。案山子が脆くなっていた可能性がございます」
自分はお姉様の手を取り、跡形も無くなった案山子の支柱に近づいてみる。支柱の真ん中には太い鋼鉄の芯が入っていたのが確認できた。うん、脆いって……なんだろうね……ははは。
乾いた笑いが口から出てくる。
とりあえず、お母様の軽くは、お父様並みに危険ですね! 怒らしたら絶対ダメだと認識しました!
お姉様と目が合い、お互いヒクヒクと顔を引きつらせ無言で理解しあった。
「エルステア、それでは練習をしてみましょうね。先ずは右腕の強化をしていきましょう。身体強化を覚えるためには、まず部分から強化をできるようにして徐々に勘どころを掴んでいくのよ」
「はっ、はい。お母様」
凄いものを見せられたけど、お母様の域に達するのに、どれだけ修練が必要なんだろうね……。
お姉様は、お母様にポイントを教えてもらいながら、右腕に魔力を集中し始める。たまに右腕に光が纏っているような状態になるのだけど、すぐに消えてしまった。
「うんうん。初めてにしては、上手く魔力が流れてますわ。魔力を均一に流し続けられると、安定した強化を維持できますのよ」
「均一に魔力を流すのが難しいですね。でも、頑張りますわ、お母様」
魔力を引き出すだけじゃなくて、調節もしないといけないのか、これはなかなか難しそうですね。
「今日はここまでにしておきましょう。魔力を使いすぎると、疲労に似た疲れがでてしまいますの。酷いときは、三日以上起き上がれなくなってしまいますから。エルステア、身体強化はお母さんがいる時のみ使用を許可します。無断で練習してはいけませんよ。いいですか?」
「はい、お母様。約束しますわ」
今日の感じでお姉様が練習していくと、身体強化をマスターするのもそこまで時間が掛からない気がした。お姉様は、すごく優秀なんだね。ますます自分は大丈夫なのだろうか心配になってきた。
――魔法の練習を終えた時には、もう夕食の時間が迫っていた。
お父様に、今日のお姉様の活躍が報告されると、とても嬉しそうな顔を見せ、お姉様に褒め言葉を並べ出す。お父様のはしゃぎように、お姉様は変わらず謙虚は姿勢を見せ、その姿を見てお父様は感心してしまったようです。
夕食後、皆んなで談話室でひと休みしてから、お母様とお姉様、メイドのリリアとお風呂に入る。
お姉様の側使えを担当しているリリアとお風呂に入るのは初めてです。胸の大きさは、お母様と比較して少し小さいのくらいだけど、立派に大きい……。
「アリシアちゃん、今日はお姉ちゃんが洗ってあげますわね」
「はい。わたしもおねえさまをあらってもいいですか?」
ついノリでお姉様を洗ってあげたいと返事を返してしまった。何という事を言ってしまったのか。美少女エルフを洗うなんて大それた事だ。
美少女の柔肌に触れ続ける行為に、自分の心が耐えられなくなる気がする。
急いで訂正せねば……。
「うれしいわアリシアちゃん。お願いしますわね」
「あら、エルステアうらやましいこと。貴方達は仲が良くて嬉しいわ」
メリリアに服と下着を脱がされ素っ裸にされると、裸のお姉様が自分の手を取りお風呂場へ導いていく。床が滑るので、下を向いて行くしかないのだけど、お姉様の可愛くて小さいお尻がぷりんぷりんと前後しているのが視界に入ってくるのだ。
これも慣れるしかない、早く慣れるのだ、自分。
「アリシアちゃん、こちらにどうぞ」
お姉様の誘いに従って、湯舟の側に座った。
「頭からお湯をかけますから、目をちゃんと瞑ってるのですよ」
しっかりお湯を掛けてもらった後は、石鹸で泡立った手で身体を洗われた。お姉様の柔らかい手が耳の後ろから首筋、脇の下、腕が洗われていく。そして、胸からぽっこりお腹とどんどん下へとお姉様の手が滑り落ちていくのだ。
おへそを洗われ始めてから、くすぐったさを我慢するのが辛くなってきた。おしっこの出るところとお尻を洗われていく時には身悶えしまくってしまった。
うん、メリリアとかお母様に洗われるのはもう慣れて我慢できたけど、お姉様の柔らかくて小さな手に慣れるのはちょっと難しい気がする。細かいところまでサイズが合いすぎるのだ。
なんとか悶えながらも、お姉様に全身を洗ってもらい綺麗になった。
「おねえさま、ありがとうぞんじます。すごくきれいになりました」
「どういたしまして、アリシアちゃん。それじゃ、今度は私を洗ってもらおうかしら」
攻守交替である。
お姉様は私の前に座って洗われるのを待っている。お姉様とのスキンシップをやめる訳にはいかない! 意を決して、自分はお姉様を丸洗いする事にした。
「おゆをかけまーす」
「はい。お願いしますわ」
お湯が重くて湯舟に浸けた桶が持ち上がらない。何度もトライしたけど、まったく微動だにしないのだ。側にいたリリアがお湯を掛けるのを助けてくれる。ありがとうリリア!
全身にお湯を掛けた後は、石鹸を泡立てて手に付ける。自分が洗ってもらった手順でお姉様を洗っていく。自分の小さい手ではお姉様を洗いきれないので、リリアにも手伝ってもらい洗った。
耳の後ろから、首筋、脇の下、腕と順番に洗っていく。自分はお姉様の前面で、リリアが背中から分担して洗う事になった。うん、前だ、後ろだ、と言っていてもしょうがない。
無心、心を無にしてお姉様をしっかり洗うのだ。
胸からお腹、おへそにおしっこを出すところまで徹底的に洗った。
「キャッ。アリシアちゃんそこを洗われるとくすぐったいですわ。ンンッ」
お姉様もやはり悶えだした。だが、自分は無心である悟りの境地を開いたように洗い続ける。メイド達に洗われるときはくすぐったいとか感じないのだけど、もしかして洗い方にコツでもあるのだろうか。
自分とお姉様で洗いっこするとくすぐったいのです。
「おねえさま、あらいました!きれいになりましたー」
「エルステア様、アリシア様がしっかり洗うのをお手伝いできたようです」
「アリシアちゃん洗ってくれてありがとう。おかげ様ですごくお肌が綺麗になりましたよ」
お姉様をしっかり洗ったので、ちょっと頬が紅くなっている。うんうん、美少女エルフを洗う機会をいただいてありがとうございます。
何とか興奮せずに、乗り切れましたよ!
「また洗いっこしましょうね」
「はい、おねえさま」
次もあるのですね。ふふふ、次はひとりで洗ってあげられるように腕を磨いておきます!
「貴女達も洗い終わったようですね。今日も寒いから早くお湯に浸かりましょうね」
お母様に促されてお風呂に皆で浸かった。湯舟には、メリリアが用意してくれた色とりどりの可愛い花がたくさん浮いています。
「うわぁ、おふろがきれいです」
「すてきですわ。おふろがお花畑になったみたい」
浮いている花からとても甘い匂いが漂ってきて、気持ちが落ちついてくる。メリリアが用意してくれたこの花は、お湯に入れると蕾から花開いて鎮静効果と美肌効果がある匂いを発するのだ。冬の間にしか採れないうえに見つけるのがかなり難しい超稀少植物と教えてくれた。
レア植物というのは一般論だそうで、家の裏庭が群生地になっていて採り放題なんだとか。お父様が昔持って帰って来た種を蒔いたら環境の条件が良かったのか沢山生息するようになったそうだ。
皆、しっかりお風呂に浸かったので、お風呂からあがった時には肌がツヤッツヤになっていた。
「すごく気持ちの良いお風呂に入れたので幸せでしたわ。メリリアありがとう」
「私は、旦那様より申し使っておりましたので、御礼は旦那様にお伝えするとよろしいですよ」
「あら、ディオスがこんな気の利いた事を知っているなんて意外でしたわ。明日御礼を言っておきますわね」
「旦那様も奥様からお声いただければ喜ばれると思います」
お父様の行動が結果として、皆に幸せなひと時を提供してくれたのだ。自分もお花風呂を満喫したので、ちゃんと御礼を言おうと思う。
お花風呂と石鹸の匂いを身体に纏いながらお母様とお姉様ひとつの布団に入った。既に意識が飛びかけているけど、もう少し皆と話をしたいので寝るのを我慢した。
もう時期、本格的な冬がやってくるそうで、お母様は自分とお姉様が寒くないように抱き寄せる。
皆の温もりを感じながら、二人より先に眠りに落ちた。
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