第27話 カラクリ屋敷

 いつも通りお母様のお乳をいただき、まったりとおっぱいを両手でぷにぷに。


 今日は、お家探索をどこから行こうか思案した。


 メリリアが、厚手のカーテンをシャッと開けると、部屋の中は朝の陽射しで明るくなった。このまま着替えたら、外から丸見えになるんじゃないかなと思ったけど、そうはならないみたいです。


「おかあさま、おきがえがみえちゃう?」

「大丈夫よー、アリシアちゃん。お外からは、窓には見えなくて、壁が立っているように見えるのよ。ふふふ、アリシアちゃんも、女の子ですもの、お外から見えたら恥ずかしいと思いますわよね」


 いや、そういう訳じゃなくてですね……外からお母様やお姉様のあられもない姿が見えちゃうのを心配してる訳で……。自分のこの幼児体型の寸胴ボディを見られたところで何も困らないのですよ。


「ぱんぱん膨らんだおしめと、お洋服に着替えしましょうね、アリシアちゃん」


 昨晩はとても気持ち良く寝られたせいか、自分の排泄物でおむつがモコモコになっている。ちょっと下半身の感触が気持ち悪かったから、ありがたいです。お母様の問いかけに黙って頷き、身を任せる事にした。


 メリリアにお尻を拭いてもらい、スッキリ爽やか!


 晴れ晴れとした気分に浸り、お母様と着替えをしていると、お姉様が部屋を訪ねて来た。


「おはようございます、お母様、アリシアちゃん」

「おはよう、エルステア。新しいお部屋でゆっくり眠れましたか?」

「はい、お母様。以前より広いお部屋で戸惑いましたけど、新しいベッドが以前よりふかふかでとても良く眠れましたわ」


 昨日までの疲れを感じさせないくらい、お姉様の顔は笑顔で輝いている。ぐっすり寝て元気になってくれて良かったです。


「新しいお家は、以前より雰囲気が明るくなった気がして、とても過ごしやすくなった気がしますわ」

「そうね。前のお家は、古いままにしていたところが多くて、所々傷んでましたからね。貴女達の事を考えると、改装する時期としては丁度良かったのかもしれませんわ」


 もしかして、将来のために自分の部屋も用意されてたりするのかな?


「おかあさま、わたしのへやもあるの?」

「あらー、アリシアちゃんはもう自立しちゃいますの? アリシアちゃんは、まだまだお母さんと一緒にいましょうねー。離れちゃうと、お母さんしくしくしちゃいますよ」


 お母様が微笑みながら、泣き真似をして自分を見る。そう言う訳じゃないのだけど、離れるって言葉に不安を感じて、咄嗟にお母様に抱きついた。


「はなれない!」


 抱きついた自分に、お母様が優しく頭を撫でてくれる。お姉様も、その様子を見て、自分とお母様に抱きついてきた。


「私も離れませんわ」

「そうよー。皆んな、いっしょですよ。ふふふ」


 自分の後ろから抱きつくお姉様の顔を見て笑顔を向ける。お姉様も可愛い笑顔を自分に向けてくれた。お母様も、自分達を微笑みながら目を細めて見つめている。そのまましばらく、おしくらまんじゅうをするように、三人で団子になって笑いあっていると、身体だけなく心もほんのりと温かくなっていった。


 メリリアもリリアも、その様子を見て微笑んでいる。新しい家には、幸せの空気で満ち溢れているように感じた。


「奥様、間も無く朝食のお時間でございます」


 お母様の部屋から誰も出てこない事を心配に思ったのか、家に仕えるメイドのひとり、リンナが迎えに来た。


「あら、もうそんな時間なのね。ディオスが、お腹空かせて倒れちゃうかもしれませんわ。エルステア、アリシアちゃん行きましょう」

「はい。お母様。アリシアちゃん、一緒に行きましょう」


 お姉様が自分の手を引いてくれる。促されるまま、朝食が用意されている一階の部屋へと向かった。


「ユステア、顔色が良さそうであるな。よく眠れたか?」


 お父様は、お母様を心配するように声をかける。誰が一番って訳でも無いけど、お母様を一番に心配するところを見ると、いまだにお母様にベタ惚れのようですね。夫婦仲が良いのは、自分にとっても嬉しい事です。


「ええ、ご心配おかけしました。旅の疲れはございませんよ」

「ふむ。ならば良い。エルステア、アリシア、其方達も疲れは取れたか?」

「はい。新しいベッドを用意してくれましたので、よく眠れましたわ。お父様、ありがとう存じます」

「いっぱいねれました」


 お姉様と自分が笑顔でお父様に返事をすると、お父様は嬉しそうに笑って見せた。


「さぁ、朝食にしようか。今日は、皆に新しくなった家の中を紹介したいからな。楽しみにしているがよい」

「危ない仕掛けを教えてはダメですよ、ディオス」

「心配無いぞ、ユステア。魔力を使う仕掛けは教えぬ」


 魔力を使う仕掛けは危険。覚えました。この身体で危ないところに触れてしまうと大怪我しそうなので……痛いのはゴメンなのですよ。


 皆んなお腹が空いていたようで、朝食がいつもよりすすんでいる。自分もお乳をたらふくいただいたけど、ご飯の味付けが叔父様のところでいただいたご飯と少し違ったせいか、いつもより食べた気がする。うぬ、なかなかに美味でございました。


 皆んなで食休みを兼ね、隣の部屋でまったりする。ちょっとお高そうなワイン色のソファに、凝った飾りが彫り込まれている棚や本棚が置いてある。そして、叔父様の家から運び出した巨大なぬいぐるみが鎮座していた。


 お姉様と二人で、ぬいぐるみに抱きついてもふもふして寛いだ。これ、やっぱり持ってきて正解だったわ。もふもふ気持ち良い! 油断するともふもふに埋もれて眠ってしまいそうだけど、この後のお家探索が待っているので、深追いしないように気をつけた。


「よし! 皆の衆、我が家を探索しようではないか。準備は良いか?」

「はい! お父様!」

「いきます!」


 お父様の号令でお姉様と一緒にビシッと立った。いよいよですね、どんな仕掛けがあるのだろう。身体は女の子だけど、心の男の子が興奮しだした。


「アリシアちゃんは、お母さんといっしょにいきましょうね」

「はい。おかあさま、ありがとうぞんじます」


 優しく微笑むお母様に抱かれて、お父様に着いて行く。


 まず一階の部屋を案内される。お父様の執務室や書庫、談話室や応接室に通された。空室も六つもあって特に今は使う用途がないそうだ。お客さんが来た時用に寝室も三つもあった。既に部屋だけでどんだけあんの……。


 お父様の使う部屋はとてもガッシリした作りの家具が置いてあって、お父様らしい無骨さを感じる。


 一階には、メイノアールの執事が使う部屋に、下働き達の部屋、厨房や料理人の部屋があった。


「きょうのごはんとてもおいしかったです。ありがとう」


 厨房を覗いた時に料理人達が昼食の下拵えをしていたので、美味しかったご飯の御礼を言っておいた。こうやって、自分の為に何かしてくれる人にちゃんと御礼を言うことは大事なのだ。自分が社会人生活で学んだ、円滑なコミュニケーションを形成する手段のひとつである。


 気遣い出来ない奴は、大抵誰からも助けて貰えず何処かで失敗するのだよ。


「はわぁぁ、お嬢様勿体ないお言葉でございます」

「何てお優しいお嬢様でございましょう」


 何か知らんが畏まられて、泣いてる料理人さんとかいますけど。おかしいな……自分、余計な事をしちゃったかな?


 厨房で騒ぎになったのを尻目に、次の場所へ移動した。


 通された部屋、というか広場? 射的場? 凄く広いけど壁しかない。


「ここが稽古場だ。隣に魔法の演習場、地下には武器庫がある。今日は其方らには案内できぬがあるのだ」


 どうやら、この先は危険地域のようだ。武器庫とか胸熱なんだけど。いつか入れるようになると良いなぁ。剣とか槍とか、もしかしてハルバードとかロングソードとかあるのかな? 気になるなぁ……。


「一階はこのくらいだな。次は二階へ行くぞ。着いて参れ」


 お父様を先頭にぞろぞろ着いて行く。お母様に抱っこされて移動している自分。ちょっと楽をしているので、どこまででも着いていけますよ!


 階段を登って右側が男性で、左側が女性専用の部屋になる。今日は特別なのでお父様の寝室に案内された。


 お父様の寝室は、漢の部屋って感じで、特筆すべき物が何もなかった。強いて取り上げるとすれば、ベッドの大きさがダブルベッドより更に大きい、巨大なベッドくらいだった事くらいかな。お父様の体格を考えると、これくらい大きくないと収まらないだろうねと思ったくらい。


 お父様がおもむろにクローゼットを開けると、奥に階段が見えた。お父様は、少し屈んで入って行くので、皆んなで後ろを付いて行った。


 クローゼットの階段から抜けた先は、一階のお父様の執務室に出た。成る程、隠し通路ですね! この仕掛けは面白いです、さすがお父様!


「これがからくりのひとつだな!」


 すぐ様、もと来た階段を登る。お父様の寝室に着いたら、次はただの壁を押す。


 くるりんと壁が回転して、お父様が消えた。おぉ! 回転扉ですか! お父様! 忍者屋敷のからくりまで作ったのですか!


 何食わぬ顔で、お父様が壁から戻ってくると、腕を腰に当ててこちらを見る。


「どうだ! 凄かろう!」


 お父様は自信満々の笑みで自分達を見つめる。お姉様も自分も、キラキラした憧れの目でお父様を見た。たが、その期待の視線を余所に、回転扉は危ないので体験させてもらえなかった……悲しいです。


 向かいの部屋は男性の護衛騎士の部屋だそうだ。家には、護衛騎士がいないので空き部屋だ。今後、雇う予定も無いそうです。


 一番奥の部屋は男性用のお風呂らしいが、女性に見せても面白みも何もないとお父様が言い放ち通過するだけだった。自分達が使う女性用のお風呂を簡素にした造りらしいですよ。


 男性側の部屋の案内が終わって、自分達の部屋に移動する。こっちの部屋にもからくりがあるらしい。


 お母様の寝室に案内されると、お父様は壁に隠されたノブを回す。すると、壁がドアのように開いた。隣の部屋はお姉様の部屋だ。これはコネクティングルームってやつじゃない? ふむふむ、有事の際に、どちらかに避難できるように作ったのですね。さすがお父様です。自分達が危ない目に合わないように、考えてくれたわけだ。


「エルステアは何か起きた時には、すぐにユステアの部屋に入るのだぞ。よいな?」

「ありがとう存じます、お父様。お母様の部屋と繋がっているなんて、とても安心できますわ」

「我の大事な娘であるからな。いざという時を考えて付けたのだ」


 お母様、お姉様の部屋を案内された後は、向かいの部屋に案内される。この部屋は護衛でついてきていた、レイチェルとロアーナが使うそうです。レイチェルはお姉様の護衛騎士を担当し、ロアーナは自分の護衛騎士として就くそうだ。まだ正式に就任していないので、交代で自分とお姉様を護衛するそうだ。ちゃんと、女性の護衛騎士にぴったりな、女の子が好みそうな装飾が施された家具やベッドが整えられている。


 お姉様の部屋から二つ空き室を過ぎて、勉強用の部屋に入った。担当する教師がまだ家に着いていないので、ここを使用するのはまだ先になるそうだ。主にお姉様が使うようで、自分はお母様の部屋で、お作法や書き取りの勉強をするんだって。


 女性用の通路の一番奥がお風呂だそうだ。お父様はお風呂の前の扉まで案内して、一階に戻っていった。


「ここからは、其方達で見てくるがよい」


 お母様から降ろされて、お姉様に手を繋いでもらって中に入った。


 扉を開けると広い脱衣所がある。叔父様の家と同じで長い鏡が壁に付いていて化粧台も完備されている。この家ではメイドもお風呂に入って良いそうで、リリアも嬉しそうにしている。やっぱり皆でお風呂入った方が気持ち良いし!


 脱衣所を抜けると、正面と天井がガラス張りになっていて木枠で囲われた大きなお風呂があった。天井もガラス張りってすごいな、こんなお洒落なお風呂ホテルでも見た事ないですわ。星五つのお高いリゾートホテルですか?木枠も白木っぽいし、良い感じじゃないのですか。


「すてきなお風呂ですね、お母様」

「ええ、夜空が見えるお風呂になっているのね。素敵ですわ」


 お母様もお姉様も皆んな喜んでいる。自分も見たことのないお風呂に喜んだ。当然ながらガラス張りの部分は外からはただの壁にしか見えないそうだ。いったいどういうからくりなんですかね。これも魔法の類なのだろうか。謎すぎる。


 お風呂場を堪能した自分達はお父様のいる一階の部屋に戻った。


「どうだ、お風呂はなかなかの出来栄えだろう。ドワーフのバウスが、我に娘がいると知って驚かせたいと張り切って工夫してくれたのだ。ちょっとお金がかかったが、納得の造りだと思うぞ」

「とても素敵なお風呂でしたよ、ディオス」

「お父様、ありがとう存じます。夢のように素敵なお風呂で、入るのが楽しみですわ」

「おとうさま、おふろすてきでした」


 皆んなの喜ぶ顔を見て、お父様はとてもとても誇らしげに胸を張っていた。


「そうだろう。そうだろう。其方達が住みやすい家を考えに考え抜いて作らせたからな。皆が喜んでくれて我も安心したぞ」


 ここまでお母様やお姉様、自分が過ごしやすくなるようにいろいろ考えてくれるお父様に尊敬を覚えた。うん、うん、こんなに出来るお父さんを見せられちゃうと、男でも惚れちゃいますわ。


 皆から尊敬の眼差しを受けたお父様は、この後も、嬉々として家の中に隠されているからくりを紹介し、一日が終わった。隠し部屋やら、隠し宝物庫、地下室から外に抜ける通路やらと、この家が忍者屋敷化していて、お姉様も自分も驚きの連続で興奮が冷めることはなかったのだ。


 まじ、お父様は凄いです……その言葉に尽きる一日でした。

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