第21話 誕生日プレゼント

 女の子な自分である事実を皆から伝えられ……終始、緊張しっぱなしだった。


 だけど、家族や叔父様たちに、一歳の誕生日を祝ってもらえた嬉しさは、忘れられない。


 女の子で生きていく……覚悟は……。


 少し肩の力が抜けたようで、お母様の腕の中でお乳を吸いながら休憩。


 お祝いに、甘くて小さいお菓子がたくさん出てきたけど、おっぱいは別腹なんで。


 そして、おっぱいを吸っていると、いつものように睡魔が襲ってきた。


 今日は、いつもより心地良く眠りに落ちてしまいそうです。


 では、皆さんお休みなさいませ――。


「あの時の子が、もうこんなに大きなったのか。随分と可愛らしくなったもんだ」

「あら、貴方が小さい時も可愛らしかったのですよ。小さい時の貴方は、すぐ癇癪を起こして大変でしたわ」

「むっ、その頃の記憶は私には無いな。エルグレスの事じゃないか?」


 近くで、ママ母達の会話が聞こえる。


 若い声の男の声も聞こえるな。


 グレイの声をちょっと低くした感じでよく似ている……。


 薄目で周りの様子を伺う。


 金色の短髪に細身の顔、スポーツマンで明朗活発みたいな雰囲気のエルフの男と、赤毛で後ろで髪を束ねていて、シュッとした目をした賢そうなエルフの男がいた。


 共に黒い服を纏っていて、なかなかの美男子だ。


「ほらほら、起きたっぽいぞ。薄目で我らを見てるよ」

「兄上が騒ぐから起こしてしまったのではないか? かわいそうに」


 赤毛のエルフ男子が、呆れた顔で金髪のエルフ男子を見ている。


 金髪のエルフ男子はそんな事を気にせず、自分の様子を物珍しそうな顔で伺っている。


 イケメンにガン見されてるんですけど……この状況は?


「おはよう。アリシアちゃん。気持ちよく寝てるところを起こしてごめんなさいね」


 ママ母が申し訳なさそうな顔で、自分の様子を見ている。


「ママさま、おはようです」


 愛想良く、ママ母に挨拶を返した。


 起こしたのは、そこのイケメンエルフ男子達なので、ママ母は悪くないのだ。


 ジッとイケメン達に抗議の視線を向ける。


「おはよう、アリシア。ご機嫌は......良くないのかな?」

「兄上は少し反省しようか。アリシア、起こしてしまってすまない。君の成長した姿を見て兄上も喜ばしかったのだ、許してくれないかな?」

「そうそう、俺たちが見たときはまだこーんなに小さかったのに、1年見ない間に可愛らしい女の子なっててちょっとはしゃぎ過ぎてしまったのだ。許せ」


 このイケメンエルフ男子は、どうやら自分の知らないところで面識があるようだ。


 自分の成長を喜んでの事であれば、許さなくちゃいけないよな。


「だいじょうぶです。おにいさま、ごきげんよう」


 イケメンエルフ男子達にも笑顔で挨拶をしたので、二人とも少し腑抜けた顔になっている。


 イケメンが台無しになりますよ?


 ふむ、幼女スマイルの破壊力はイケメンにも効果があるようです。


 自分、学びました!


「ご機嫌ようアリシア。私の名はランドグリスだ。レオナールの長男でこの国の騎士団所属している。君の従兄弟になる。ランドグリス兄様と呼んでもらって構わないぞ」


 金髪のエルフ男子は自分の従兄弟なのね。


 ランドグリスお兄様と、呼ばねばならない圧力を感じるぞ。


 うまく喋れるかは分からないが……努力しよう。


「アリシア、私はエルグレス。そこの落ち着きの無いエルフの弟にあたる。私もこの国の騎士団に所属している。兄上同様によろしくな。私のこともエルグレス兄様と呼んで構わないから、困ったときはいつもで頼ってくれ」


 赤毛のエルフ男子も従兄弟なのか。


 ランドグリスお兄様に、エルグレスお兄様。


 一気に、二人のイケメンエルフ男子が親戚になってしまったよ……。


 グレイには申し訳ないけど、この二人はとても頼り甲斐がありそうです。


「アリシア、ぼくも将来は騎士団に入るから、頼ってくれていいぞ!」

「ははは、グレイアスも男らしいところを見せに来たな。もう3歳だ、騎士団に入るためにしっかり勉強と修行に励め」

「はい! お兄様のような立派な騎士にぼくもなります!」

「うむ、その意気だ。妹達を護れる立派な騎士を目指すのだぞ。」


 ランドグリスお兄様は、グレイの頭をくしゃくしゃに撫でながら笑っている。


 二人のお兄様はグレイのお兄様でもあるのか。


 と言う事は、将来はグレイもイケメンエルフになるのかね。

 

 想像がつかぬ……。


「アリシアも起きたしちょうどいい。今日は、我々も君にプレゼントを用意して来たのだ。受け取ってくれるかな?」

「あら、貴方達でも気が利くのね。ちゃんとアリシアちゃんが喜びそうなプレゼントですの?」

「兄上の女性に贈るプレゼントは、センスが絶望的ですので、私が選んでおきましたよ」

「エルグレスであれば安心ですね。ランドグリスが選ぶ物はグレッグオークの眼球だったり、バルスギールの血とか貴重な素材ですけど喜ぶ人は少ないわね」


 うん、眼球とか血をもらってどうしろといった感じですね。


 センスが良いのは、エルグレイスお兄様ですか。


 覚えました。


 エルグレイスお兄様に指示され、ウェインとレオナールが二人掛りで大きな箱を持ってくる。


 大人二人で持ってくるって、一体、中に何が入ってるの?


 気合い入れすぎなのでは無いだろうか……。


「アリシア、驚くなよー」


「じゃーんっ!」


 ランドグリスお兄様が大きな木箱の蓋を開く。


 そこには、巨大なクマのぬいぐるみが愛くるしい顔をして鎮座している。


 女の子にはぬいぐるみがよく似合いますね。


 でも、これちょっとデカすぎじゃないか?


「どうだ? アリシア、可愛いだろう?」

「兄上、これをいつ運び込んだんですか! 大き過ぎるから、今回は小さい方にと話をしませんでしたか?」

「んー? そうだったか? 忘れたわ」


 ランドグリスお兄様は、してやったり顔でエルグレスお兄様を見る。


 エルグレスお兄様は、眉間に皺を寄せてランドグリスお兄様を睨んでいた。


 ここで兄弟喧嘩はよろしくないよ……。


「ランドグリスおにいさま、ありがとうございます。さわってもいい?」


 すかさず、自分はランドグリスお兄様をフォローした。


 いやはや、本当に凄いデカイね、このぬいぐるみ。


 お母さんの身長くらいあるんじゃないかな?


 こんなデカイぬいぐるみ見た事ないよ。


 デカイけど手触りはとてもふわふわで、自分の身体がどんどん吸い込まれていきます!


 この世界のぬいぐるみ職人は凄いですね。


 この選択は、ランドグリスお兄様は正解でしたと言わざるを得ないです。


「アリシア、私からはこれを君にプレゼントしよう」


 クマのぬいぐるみに一心不乱に埋もれている自分に、エルグレスお兄様は小さな箱を開けて渡してくれた。


 そこには、深く赤い宝石の付いた大きな白いリボンの髪飾りだった。


 赤い宝石が日の光に照らされると中の粒子がキラキラと輝く。


 まだまだ超お子様の自分には、これは高価過ぎる気がするんだけど……。


 この世界の常識は分からないので、ここは、ありがたく貰っておこう。


 やはり、女の子向けのプレゼントはエルグレスお兄様が一枚上手のようですね。


「とてもきれい。ありがとうございます、エルグレスおにいさま」

「アリシアちゃんよかったねー。お兄様達に素敵なプレゼントをいただけて。その髪飾り付けて差し上げますわ」


 お姉様がいつのまにか側にいたようで、声を掛けてくれた。


 デカイぬいぐるみのもふもふ感に気を取られて、気配に気がつかなかったわ。


 もふもふ……マジで恐るべし!


「ありがとう、おねえさま」

「どういたしまして、アリシアちゃん。とてもお似合いですわよ。鏡でご覧なって」


 お姉様は鏡のある方を指差す。


 この部屋には、鏡があるのか!


 いつも遊んでいる部屋じゃないから、あっても不思議じゃないか……。


 さっそくだけど、自分の今の姿を見せてもらおうじゃない!


 自分の姿を、早く見たい気持ちで心が逸る。


 女の子になってしまった事は物理的に理解しているけど……容姿がどうなっているのか、まだ一回も見たことがないのだ! 


 未確認なのだよ!


 絶世の美幼女とか望んでないけど、人並みであって欲しいとは思う。


 期待混じりでそっと鏡を覗く。


 こっこれは……。


 目の前に映る自分の姿に、固まった。


 大きなエメラルドグリーンの瞳に艶々に輝く金色の髪。


 結った髪には、お兄様がくれた大きな白のリボンが揺れている。


 お母様が選んでくれた、青いラインに金の刺繍が施された純白ドレスがふわっと揺れると、愛くるしさがさらに引き立てられた。


 これが……自分?


 鏡に映る自分に見つめられ、頬が赤くなってしまった。


 可愛い……可愛いよ……この女の子。


 間違いなく、将来美人が約束されていると感じるほどだ。


 あまりの姿に、自分はその場に座り込んでしまった。


「アリシアちゃん大丈夫? ケガしちゃったの?」


 お姉様が心配そうに駆け寄る。


 グレイも続いて自分の側に来た。


「だいじょうぶ」

「そうなの? 無理しちゃダメよ? 痛かったらお姉ちゃんちゃんと言ってね」

「ありがとう、おねえさま」


 こんな姿になってしまった事実に胸が痛いです。


 とは言えない……。


 差し出してくれたお姉様の手を取って、お兄様達の元に戻ろうとした。


 脚がカクカクするけど、頑張って歩いた!

 

 本当、びっくりしたわ。


 自分がここまで可愛い女の子なってしまったなんて。


 真の姿に、何故か顔がにやけてしまった。


 側から見たら、相当不気味なんじゃないだろうか?


「お兄様達のプレゼントのおかげで、アリシアちゃんの笑顔がいっぱい見られましたわ。素敵なプレゼントありがとうございます」

「うむ、幼いから喜ばれるか心配だったが、アリシアは立派に女の子のようだな。贈った甲斐があったよ」

「あぁ、ここまで喜んで貰えて嬉しいよ」


 二人のお兄様は誇らしげに微笑んだ。


「アリシアちゃんはこらからどんどん女の子らしく成長していくから、貴方達はしっかりしてくださいね」

「ははは、任せてくださいお母様。不埒な奴は一歩も近づけさせませんよ」


 おー頼もしい!


 非力な幼女ですが……何卒。


「お二方、ありがとう存じます。私からもお願いいたします。目の届かないところで娘達を支えてくださいまし」


 お母様は二人のお兄様に軽く頭を下げた。


「ユステア様、ご安心ください。騎士団の名にかけてお護りいたします」


 これから先でどんだけ交流あるかわからないけど、頼れるお兄さんがいるって心強いね。


 頼りにしてますよお兄様。


「ランドグリス、エルグレス、そこにおったか」

「お父様、ご無沙汰しております」

「よく戻ったな、其方らがここに来て騎士団は問題無いか?」

「はい、団長がおりますので問題ないかと」

「バハムートも昨日からこっちに居てな、今日には戻るが挨拶して参れ」


 そう言えば居ましたね、バハムートさん。


 すっかり忘れてましたよ。


「副団長にはいつも顔を合わせてますし、後でゆっくりと」

「そうか、ならば良い。其方らが来たついでに頼もうと思ってた事がある。ひと月くらいはゆっくり出来そうか?」

「バハムート様のお許しがいただけるのであれば可能です、お父様」


 叔父様とお兄様達は……体格は全く違うけど似てますね。


 エルフって、年取るとマッチョになるのかな?


 それはそれで面白すぎるんだけど。


 やばい……お兄様達の成れの果てを想像したら吹き出しそうになる。


 スリムマッチョはイケメンだけど、筋肉ゴリラになったと考えたら……ぷふっ笑ってはならない! 堪えろ自分!


「うむ、ではバハムートに許可は得ておこう」

「ふんっ! ふふふふーふんっ!」


 叔父様が何故か無意味なポージングをした。


 いや、今それはやめてください。


 そして、何故お兄様もポーズを取り始める?


「ふんっ! ふぉーー! ふんっ!」

「はっ! はぁぁぁぁぁぁ! はっ!」

「ふんふんふんふん! ふんっぉ!」


 叔父様とお兄様が、変な掛け声で無意味なポージングを取り始め、徐々にノッてきたのかエスカレートしていく。


 だんだんと三人の動きがシンクロし始めていく……。


 あぁ、もうダメ……です……。


「ぐぶほぉ」


 唐突に起きたマッチョダンスに吹いた。


 口で抑えたけど、奇妙な光景が目から離れなくて、吹き出すのを止められなかった。


 この親子は何なん?


 顔が似てるけどマッチョと相対して、ヒョロいイケメンがポージングし始めるとか……意味がわからないから!


「アリシアちゃんだいじょうぶ? やっぱり、何か悪い物食べちゃたのかしら。お母様のもとに行きましょう」

「メリリア、アリシアちゃんを連れて行きますわよ」


 お姉様は顔を真っ青にして、自分を抱いて部屋を出る。


 部屋を出るときには変なダンスは終わっていた。


 どこかのアニメで筋肉を讃え合い挨拶するシーンあったよねぇ……叔父様達は、きっとそう言う趣向なんだと理解した。


「お母様、アリシアちゃんが叔父様達を見て吐いちゃいました」

「あらー。あれを見ちゃったのねぇ。アリシアちゃん大丈夫?」


 お母様が優しく背中をさすってくれる。


 呼吸が整い始め息が通ってきた。


 あれで脱ぎ始めたら、呼吸困難になってたかもしれない。


「おぉっ、アリシア大事ないか?」


 もう一人マッチョがきたー!


 違った、いや違ってない、お父様が心配そうに顔を覗き込んできた。


 あぁトドメ刺しにきましたよ。


 フラッシュバック! マッチョ! もうむり……。


「きゃはっー! あははっ!」


 もう笑いを堪えるのは無理なんです。


 ただでさえ、エルフがマッチョなんですよ?


 腹筋がよじれるほど笑ってしまった。


「おぉ、我の顔を見てアリシアが笑ってくれたぞ! どうじゃーお父さんは楽しいだろうー!」


 お父様がポジティブに捉えてくれて申し訳ないです。


 さっきの光景が重なって笑いが止まらないです。


 一頻り笑ったところでスタミナが切れてしまった。


 お父様がすごい笑顔で見つめているのを余所に、お母様に抱かれてまた眠ることにした。


 日常ですら、面白い事が待ち受けている家って楽しいね。


 起きたらまた何かが起こるのかも?


 と、期待しながら眠りに落ちた。

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