第20話 1歳のハッピーバースディ
ボケーっとした頭で、お母さんのお乳を貪りながら、昨日起きた事を振り返る。
みんなで湖に遊びに行くのに付き合ったら、まさか妖精に出会えるとは思わなかった。
おまけに、なんか凄い歓迎の演出と、祝福なるものまで貰えたし驚きの連続だ。
まぁ、自分、エルフ族みたいだし、世界には獣耳の人がいたり魔獣もいるらしいから、妖精が出てきても不思議じゃないね。
でも、やっぱり見た事のない種族に出会えたというのは、なかなか驚いてしまう。
いつか、まだ見ぬ生き物をこの目にしていきたいと欲が出てしまったよ。
「おはよう、アリシアちゃん。今日も元気にお乳吸ってえらいですねー。いっぱいお飲みなさい」
自分は、遠慮なくお母さんのおっぱいに吸い付いて、お腹を満たそうと頑張った。
右、左、右、左、交互に…。
「メリリア、そちらの用意は出来ているかしら?」
「はい、奥様。こちらのテーブルに並べさせていただきました」
「ありがとう。助かるわ」
今日は、お姉さんのメイドのリリア以外のメイドが揃って部屋に来ている。
とても騒々しい感じがするのは……気のせいではない。
「アリシアちゃん、今日は貴方のために新しいお洋服を用意したのよー。おっぱい飲むのが終わったらお着替えしましょうねー」
「んーっ!」
吸いながら、自分は了解の返答する。
通じてるか分からないけど、もうちょっと飲ませてもらいますね!
なるほど、今日は新しく服を着せるために皆んないるようだ。
それだけにしては人が多い気がするんだけど……。
自分も貫頭衣みたいな服に帯だけした服から卒業して、グレイのような貴族のお坊ちゃんみたいな服を着ることになるかね。
でも、おむつはまだ外せないんだよね。
膀胱の制御が全然出来ないし、飲み過ぎのせいかおしっこの頻度が高いので……。
こればっかりはもうちょっと大きくならないとね。
それよりも、上から服を着たら、おむつのせいで腰周りがもっこりしてダサそうだ。
新しい装いを纏った姿を妄想しながら、お母さんのお乳を満足いくまで吸った。
「メリリア、アリシアちゃんは満足してくれた様ですから、先に着替えさせてちょうだい」
お母さんはサッと寝台を出ると、メイド達に着替えてもらう。
今日の服装はいつもより豪華に感じる。
淡い青色に緑色の花や蔓が全体に刺繍され、青い襟元にも惜しみなく金色の刺繍が施されたドレスを纏っている。
これも新しく新調されたドレスなんだろうか。
服や刺繍の技術が発展しているだろうね。
うんうん、そんなお母さんの美貌をさらに引き立てていて、本当に何を着てもお綺麗です。
眼福でございますよ!
「それじゃー、アリシアちゃんもお着替えしましょうねー。あっその前におむつを交換しましょう。下がびちょびちょじゃ気持ち悪いでしょー」
「はい、いい子ですねー。そのままじっとしてるのですよー」
ふふふ、もうおむつ交換に羞恥心なぞもう感じませぬ。
いくらでも交換してください、自分抵抗しませんよ!
お母さんはメリリアと一緒にテキパキとおむつを交換してくれる。
自分の汚物処理をこうしてやってくれるなんて何とも申し訳がありませぬ。
早くおむつ取れるように頑張りますね! ふんふん!
「はい、出来ましたよー。アリシアちゃんはお利口さんでしたねー」
そう告げると、お母さんは、自分の着替えが置いてあるであろうテーブルまで抱っこして運んでくれた。
テーブルには青色のラインに金色の刺繍が施された白い生地の豪華な服や、青い生地に青い刺繍がされて裾に金色のラインで飾られた凝った服などがいくつも置いてある。
いくつかの服をお母さんとメイド達が相談しながら楽しそうに選定している。
どの服も本当に高そうなんだけど、自分にそんなお金かけて貰って良いのだろうか……。
そんな考えを他所に、メイドさん達に下着を着せられた。
これは裾の短いモモヒキ? それにしては、裾にもお尻にもフリルが満載ですね。
肌触りがとても滑らかで、履き心地がとても良いですね! ははは。
履かせられた下着に自分は抵抗しませんよ。
余計な事は考えたくないけど、まっまさかね...。
次にシルクのような光沢があり肌触りがとても良いワンピースを着させられた。
さっき履いたモモヒキみたいな下着と素材が似てますね。
胸元には可愛いピンクのリボンとレースが付いてますね。
うんうん、可愛いと思いますよ。
でも、あぁーんん?
これ女物ではないですかね?
お母さんの趣味なのですか?
そう言えば、昔のヨーロッパのお貴族様は、魔除けに男の子に女の子の服を着せる話があった気がする。
もしかしてその習慣がこちらの世界でもあるのかな? そうであれば受け入れるしかないよね、自分長生きしてみたいし! うんうん。
肌着を纏ったら、メリリア達にちょっと長めの靴下から、白い豪華なワンピースのようなドレス、その上にレースがしっかり付いている可愛らしいケープと次から次に服を着せて貰った。
あーうん、完璧にこの格好は女の子ですわ……。
習慣とは言え、この格好で今日は生活するのか。
グレイに見られて、笑われるまでが想像できて癪に障るなぁ。
服を着せてもらうと、次は髪を結って髪飾りを付けてもらう。
とりあえず身動ぎせずジッと成り行きを見守る。
所々で、お母さんが、「まぁ可愛い! まぁ可愛い!」と嬉しそうにしている。
お母さん孝行のために、自分は耐えるしかないのだ。
「奥様、アリシア様のお召替えが済みました。いかがでしょう」
「きゃー、アリシアちゃん可愛いわぁー。こんなに小さくて可愛い女の子、私は見た事ございませんわ。私の周りに天使が増えちゃって、もうお母さん感激で涙が出そうですわ。エルステアにアリシアちゃん、私の元にこんなに可愛い天使が舞い降りて来てしまって幸せ過ぎます」
お母さんは興奮しながら自分を抱きしめる。
いつもより強い抱擁に、胸の圧力で押し潰されそうになる。
今日は激しいですね……ぐふっ。
「アリシア様も顔立ちが奥様に似ておりますので、とてもお美しくございます」
「ふふ、やっぱり女の子はこうやって着飾ると、一段と輝きますわね」
んー?あー女の子……あぁーぁ? 直視したくないけど、自分はいつから女の子になっちゃいました? 聞き間違えかな……?
「おんなのこ?」
思わず、口にするのを恐れていた言葉が出てしまった。
「そうよー。アリシアちゃんは私の大事な大事な娘ですよー。こんなに小ちゃくて可愛い女の子が私の娘なんてお母さんはとっても幸せよー!」
「アリシア様は間違いなく将来美人になられますよ。今日も一段と華やいだ輝きで大変麗しくございます」
今まで気にしないようにしていたけど、こう何度も連呼されてしまうと観念せざるを得ないか。
原因はよく分からないけど性別が変わってしまっている。
徐にガッっと服の裾を掴み、股間に手を当てて弄った。
はい、あるものが無いですね。
おむつ越しだけど確かに存在していないわ。
コロッとしたビー玉達が当たるような感触が……間違いなく無い!
マジか!、これはなかなか衝撃だ……。
「アリシア様、女の子はそのような事をしてはなりませんよ」
「あう、ごめんなさい」
「アリシアちゃん! めっだよー。もうしちゃダメですからねー」
「はい」
んー、まーよく分かった。
魔除けのために、女装させられたという考えは消え去ったよ。
まごう事無き、自分は女の子です。
まず、落ち着こうか、落ち着いていこうぜ。
こうなっちゃったとは言え、性別が変わっても今すぐ何がどうなる訳でも無いだろう。
今まで通りにすれば良いっすよね……。
どこかで、解決の糸口が見つかるかもしれないし!
そもそも、この身体になったからって、この先どうなるかも分かんないからな……。
自分、女の子でニューライフを謳歌してみるのも一興じゃない?
と、ポジティブに考えてみたけど……なんかしっくりこないな。
「それじゃー着替えも出来たしアリシアちゃん! みんなにもお披露目しましょう! みんな待ち焦がれてますわー」
お母さんがウキウキで自分をさっと抱えて部屋を出る。
うわー! この格好で人前に出るのか……超恥ずかしいんですけど。
どんな身なりになっているのか、見せてもらってないのですが?
ちょ、マジで一回でいいから鏡で見せて! と、心で叫ぶ。
お母さんに抱かれているので、駄々をこねても無駄な抵抗なのがツライ。
さっきから心臓がバクバクして息が詰まりそう。
顔が火照ってきた気がする。
どうすんだこれ?
「皆さーん! お待たせしましたー。アリシアちゃんですよ!」
「きゃー、アリシアちゃんすごく可愛くなってますわー。この家に天使が舞い降りて来ましたわー」
「ふふ、エルステアも私と同じ事をおっしゃりますのね。同感ですわー」
このお母さんに、この娘ありです。
可愛い=天使というのは共通言語なんですね。
あー顔が燃えるー恥ずかしい。
とりあえずお母さんの肩に顔を隠そう。
「うむー! なんて可愛いのだうちの娘はー! 我にもその可愛い顔を見せておくれ」
もうね、恥ずかし過ぎて顔を見せられないのですよ。
羞恥プレイですか。マジで!
周りにいる皆んなが可愛い、天使と連呼しまくるので最早顔を向ける事は自分には出来なかった。
なんか恥ずかしさから目がウルウルしてきてるし!
これが、女の子作用なのですか?
「皆様、それでは、アリシア様のご生誕1周年のお祝いを執り行わさせていただきます。どうぞお席におつきくださいませ」
ウェインの言葉で、皆んなそれぞれの席につき始める。
自分はお母さんとお父さんの間にある小さい椅子に座らされた。
でも、恥ずすぎるのでお母さんの袖をぎゅっとすがるように握った。
「お祝いの前に、我等からレオナール、それにフレイに礼言わねばならぬ。我等の窮地にエルステア、そしてアリシアを匿ってくれて本当に助かった。其方らの助力無しでこの日は迎えられなかったと思っている。ありがとう」
お父さんは、レオナールに向かって深々と頭を下げる。
お母さんもお姉さんも続いて頭を下げるので、自分も頭を下げた。
この家に来たのは何か事情があったんだね。
何が起こってここに居るのかは知らないけど、叔父様もママ母も命の恩人だと理解しました!
「ディオス、その様な礼は要らぬぞ。我と其方の関係ではないか。同じ一族として当たり前の事をしたまでだ。我等も其方に過去に何度助けられたか分からぬからな、はははは」
「レオナール、やはり其方は一番の親友だ。これからもよろしく頼む」
「あぁ任せておけ」
お父さんと叔父様はニッと笑い合って、自分の胸をドンドンと叩いた。
いいねー漢の友情。
羨ましいわ……本当に……。
「そして、バハムート、其方にも礼を言わねばならぬ。先の事件で騎士団を率いて我の元に馳せ参じてくれた。今日も、其方がアリシアの服を届けてくれなければ、美しくなった娘を見る事は叶わなかった! 恩にきるぞ」
「ディオス様の為であれば火の中、水の中いつでも馳せ参じます! 何なりとお申し付けください!」
「うむ、其方にも迷惑をかける。我だけでなく、娘達もよろしく頼むな」
「はっ! この身が朽ち果てようとも、お護り申し上げます!」
お父さんを見る目がキラキラしてる、バハムートの忠義が眩しい!
いいよねー上司と部下の信頼感。うぅ羨ましいなぁ……。
「さぁ、お礼は述べたぞ! 今日はアリシアの為に祝おうではないか!」
皆んながグラスを手に取り少し上に掲げる。
「1歳を迎えたアリシアに、我等の始祖ユグドゥラシルと最高神ハルヴェスマールの祝福があらんことを!」
皆んなが一斉に復唱する。
何だか胸がジーンとして、さっきとは違った涙で目が潤んだ。
嬉しいんだろうね、こんな風に祝われる事が。
遠い昔に同じ事をしてもらった、朧気な記憶をちょっとだけ思い出した。
自分はこの世界に来てもう1年経ったんだ。
一年が三百六十五日なのかは知らないけど、この世界で一年か。
毎日新しい事ばかりで、あっという間だね。
まぁ、ほとんど寝てる時間の方が長い気がするけど……。
目に映る光景は、自分が知っている世界じゃない不安もあったけど、お父さんがいてお母さんもいる、お姉さんも温かく支えてくれている。
前世で忘れていた、懐かしく温かい生活がここにまたあるんだ。
性別が違う上に、赤ちゃんからスタート。
いろいろと、ままならないこともたくさんあるけど……こまけーこた、どうでも良くなってきたわ。
やり直しじゃないね、新しい人生が始まってるんだ。
この記憶も、いつかこの生活に染まって、忘れてしまうかもしれないけど……自分らしく俺らしく生きていけばいいか……。
「おとうさま、おかあさま、おねえさま、そして、きょうをいわってくれるみなさま。ありがとうございます」
拙い喋りだけど心の底から喋り、皆んなに頭を深々と下げた。
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