第17話 なんでもない日
この世界には、神様がたくさんいる。
お母さんやお姉さんが、何度も読み聞かせをしてくれる絵本に載っていたので、まだ全てではないが覚えつつある。
神話の話はだいたいこんな感じだ。
――火の神様が、神様達のいる世界を脱走。
地上を百年間燃やし、好き放題に暴れ回った。
その行為に怒った一番偉い神様が、土の神様と水の神様に火の神様を止めるように命令する。風の神様と太陽の神様も手伝ってくれて、なんとか地上を元のように直した。
最後に月の神様が、地上に祈りを捧げて新しい命が誕生した。
まぁ、よくある創世神話みたいな物だな。
「この槍を持っている男の人は、火の神様アーバルヴィシュアで、大きな水瓶で川や海を作っている人は水の神様エノシガウスだよ。アー、バル、ヴィシュ、ア、アリシアちゃんは、上手に言えるかなぁ?」
「アーバルヴィンユア!」
「うん、上手! アリシアちゃん、もうちょっとですわね」
神様の名前長過ぎる……完全に覚えきる自信ないぞ。
お母さんもお姉さんも、皆んな暗唱できるようだ。何の役に立つのかは分からないけど……すごいな。
「エノシガスス!」
「エノ、シガウ、ス」
「エノシガウス!」
「すごーい。アリシアちゃん、ちゃんと言えましたわね。じゃぁ、次は、このページにいるこの人!」
お姉さんが笑顔で頭を撫でながら、次の神様の名前を教えてくれた。
「風の神様エンリエータ」
「エンリ、エータ」
「エンリータ!」
「おしいですわ! エンリ、エータ」
絵本に載っている神様を一通り教えてくれてはいるけれど、馴染みのない名前ばかりだ。
神話の物語やゲームで出てくるような、オーディンとかゼウス、アマテラスなら分かるけど、初めて聞く神様の名前を覚えていくのは、なかなか骨が折れる。
まぁ、ゆっくり覚えていけばいいかな? 身の回りの物の名前は結構把握できただけで十分じゃない。必要最低限にしておかないと、キャパオーバーしてしまいそうだ。
スプーンとフォークをまとめて、カトラリーって言うらしい。あとカップやソーサー、トングとか、道具はまぁだいたい自分の知っていた知識と変らない。
ちなみに、馴染みのある箸はない……。
食べ物は、自分のご飯はまだ離乳食っぽいので、ミルクにパンを浸したような何かと、果物をトッピングされたデザートしか見ていない。パンみたいな物を食べさせてもらった事もあるが、ものすごく固いフランスパン……むしろ乾パン?
とてもじゃないけど噛めなかった。
どうやら、スープやミルクに浸して、ふやかして食べる物らしい。
「おねえちゃん、そのたべものなーに?」
「これはね、ギュリスゴーの肉にプッポロの粉末をまぶして焼いたものだよー。そこにヘッタの実のソースをかけて食べると美味しいの。アリシアちゃんも、もうちょっとしたら同じお料理が食べられるようになるよ」
「アリシア、僕はコルツァウスのやわらか煮がすきなんだ」
「我は、グリーンドラゴンの内臓の燻製がすきだぞ!」
ちょっと質問すると、みんながワッと会話に参加してくるので、ご飯の時はなかなか賑やかだ。
出てくる料理の名前や、食材の名前をみんな一生懸命教えてくれるのだけど、料理も素材の名前もちんぷんかんぷんなのだ。
ギュリスゴーとかコルツァウスは豚とか牛の肉なのかな? プッポロは胡椒か塩? ヘッタの実は全くわからん。
グリーンドラゴンって……ドラゴンの肉、食べられるんですか!お父さんは豪快だなぁ。
あと、やっぱりお米っぽいのはなさそうだ。目にした事はない。
生きていく環境がガラッと変わったけれど、生活習慣も食文化も違う外国で暮らし始めたと思えば、案外どうにでもなる気がした。次から次へと耳に飛び込んでくる、聞いた事も無い言葉や名前がとても新鮮なのだ。
夕食後は、お母さんとママ母とお姉さんと、お茶を飲んでのんびり過ごす。
お母さんとママ母の話は、だいたいが、どこの誰が成人を迎えたけど、風の女神のご縁がないとか、どこそこの誰の娘がもうすぐ入学だとか、そんな雰囲気の話をしている。
いつも二人とも家にいるはずなのに、ネタはどこから仕入れているのだろう。
不思議過ぎる……。
お母さん達が話をしている時は、お姉さんとグレイの三人で、部屋の中をバタバタと追いかけっこしたり、積木や輪投げをして遊んだりするのが定番だ。
稀に、お姉さんが横笛を出して、覚えたての曲を披露してくれる。
美少女エルフさんの笛を吹く姿が拝めるのだ……。
絵になる光景と音色を、妹ポジションという特等席で堪能させてもらっている。
「おねえちゃんじょうず! もっとききたいです」
「ありがとう、アリシアちゃん。お姉ちゃんもっとがんばって、いろんな曲を聞かせてあげますわね」
ふふふ、こう言っておけば、また演奏を聞かせてもらえるはず! 打算ではあるが、美少女エルフさんの演奏会なんて、この世界じゃなければ一生遭遇することはなかった。
何度でもお願いしたいくらいだ!
「奥様、アリシア様の湯あみの用意ができました」
「ありがとう、メリリア。アリシアちゃん、お風呂に入る時間ですよー」
「はーい! おふろにはいります」
「みなさん、ごきげんよう」
「アリシアちゃん、ごきげんよう。また明日、遊ぼうね」
きちんと皆んなに挨拶して、メリリアに抱えられいつもの寝室に移動した。部屋には、銀の桶にお湯が張ってあり、自分専用のお風呂が用意されているのだ。
メリリアとリンナに、服とおむつを脱がされ丸裸にされ、そのまま身体を温かい布で拭いてもらう。
お風呂といっても、浸かるものでは無いらし……桶の中に入ろうとしたら、メリリアに止められた。
そうですよね、桶で入浴とか無いですよね……。
身体を拭いてもらって、メリリアに抱えられながら髪を洗ってもらう。メリリアは凄く髪を洗うのが上手。とても気持ちが良いのです。うっかり眠ってしまいそうになるのだけど、まだ眠ってはいけないのだ。
濡れた髪と身体は、リンナが魔法を使って乾かしてくれる。自分の周りに、ふわっと風が舞い、気が付くと髪も身体も乾いているのだ。
いやはや、魔法で乾かせるってすごい。水も、お湯を作るための火も、魔法でやっていると聞いた時には、さらに驚きです。
新生活は、魔法でエコライフなのだ。
お風呂の片づけが終わるくらいに、お母さんが部屋にやってきてくれる。一日の終わりは、必ずお母さんと一緒なのです。
お母さんに抱っこされてベッドに入ると、とても良い匂いがする。一日中遊んで疲労は限界だ。今にも瞼が落ちそうです。
だが、まだ耐えるのだ、自分!
ベッドに横になると、いつもの授乳ポジションを取るために、身体を寄せて体制を整えます。お母さんも、自分の動きにあわせるように、自然な流れで胸を出し準備してくれている。
数日前から、お母さんは子守歌だけでなく、桃太郎とか一寸法師のような、エルフ族に伝わる物語を語ってくれるようになった。
「大昔のお話です。とても賢いエルフの中で、ハイエルフと認められた二人の男と女がいました……」
エルフ族の中でも秀でた種族であるハイエルフの男女が、人間の誤った行いを正すために、獣族、竜族や精霊と力合わせる話だ。いつも、妖精と力を合わせて頑張ろうと言うところで、意識がなくなっている。
今日こそ! 最後まで話を聞こうと思っていたのだけど……目覚めたら朝でした。
お母さんが横で寝息をたてていらっしゃいます。なんて堪え性のない自分なんでしょうか。と、何度目かの悔しさを感じる。
「今日こそは、起きて最後まで聞くぞ!」
と、奮起しながら、寝ているお母さんの胸を弄り、おっぱいを頂戴する。
ふー、新しい一日が始まりました。今日は、何がまっているのかな?
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