第16話 ここ掘れわんわん

 暖かい日差しが窓から差す。


 日差しの差す方を見上げると、青い空に緑と茶色の物体と白い雲が浮かんでる。


 多分、上が緑で下が茶色って島かなんかじゃないかな。


 ははは、マジで幻想世界ですわ。


 自分の背丈では窓の外から見えるのは空だけ。


 一度、白狼のガイアの背中から立ち上がり窓から外を見ようとしたら、メリリアに止められた。


 外の世界はどうなってるのかね。間違いなく見た事もない世界が広がっていると思うんだ




 今日は、グレイを四つん這いにさせて踏み台にしてようと試みたが、自分が乗っただけで不甲斐なく、その場でぐしゃりと潰れてしまった。あれれ? メリリアさん、それは止めないんですか?


「おそと、みたいな」


 お母さんが部屋にいない間、ジッと自分たちの様子を見ていたメリリアに窓枠を指差す。

 始めっからお願いすれば良かった……と、自分に潰され泣いているグレイに視線を向ける。


「グレイがんばった! えらいよ! よしよし」


 結果はダメだったが君は良くやったよ……。かわいそうなので、グレイの頭を撫でてあげた。


「アリシア様、お外が見たいのですか?」


 そう、見てみたいんですよメリリアさん、理解してくれたようで何よりです。自分は彼女に期待を込めて頷いてみせた。


「外の世界に興味を持つのは良い事です。グレイ様もご覧になりますか?」

「うん。ぼくもみます」


 メリリアは両腕に自分とグレイを抱えてくれた。


 窓から差す日差しが強く一瞬目を伏せ、光に慣れてから目を開ける。


 窓越しの風景は、青々とした芝が一面に広がっていて、家のちょうど中心辺りから一本の道が長く続いている。道の先には石のような壁が横に延びている。壁の向こうには、木々が生い茂っているようだ。


 芝生の所々に太い幹の木や、剪定されて何かを表している木がいくつか点在していた。


 どこかのお金持ちのような庭だな。幻想的な世界って感じじゃなくて期待外れだ。


「んー、んー。んー?」


 いや、もしかするとあの太い木がトレントだったりして動くんじゃないか。とか、何処かに動く石像とかあるかもと、見える範囲をじっくり観察してみた。


 結果、何も動かないし変わった物を見つける事は出来ませんでした。結構、残念なのですよ。


「あれ、うごく?」

「あちらの木ですか?」

「風に吹かれると葉っぱは動きますよ、アリシア様」

「んー」

「アリシア、アリシア、きはうごかないよ?」


 はい、そうですね。動きませんね。道行く人を襲って枝がしゅるしゅる動いて逆さづりにされちゃうようなモンスターなんていませんね。何を期待している訳じゃないけど、しょんぼりですよー。


「アリシア様、グレイ様、ここにはおりませんが、深い森に入ると木のように動く魔獣はおります」

「えっ! うごくの?」

「はい。森に迷い込んだ者を枝で吊るし上げて、丸呑みしてしまうのです」


 思わずメリリアの顔を見た。マジか動く木はいるんだん、待てよ木のように動く魔獣だから木じゃないのか。まぁ、どっちでもいい。実際に、ゲームにいるような魔物がいるのだ! すごいね!


「みれる?」

「そうですね、アリシア様がもっと大きくなったら、目にする機会もあると思います」

「そっかー。はやくおおきくなりたいなー」


 これは冒険者とかそんな仕事に就いて、モンスターハンターとかになるフラグじゃない? そんな職業がこの世界にあるかは知らないけどね!


 しばらくメリリアに外の世界を教えて貰った。


 空を飛ぶ船とか、大きい翼を持ったドラゴンがいて火を噴くとか、エルフ以外にも獣の耳と尻尾が付いた獣族、自分のよく知る人族、人族を小さくした姿だけど力持ちな小人族など、それぞれ特徴のある種族がこの世界にはいるらしい。さらに、魔族もいるそうだ。すごいよこの世界!


 そんな話を聞いていると、お母さんが部屋に戻ってこられた。


「アリシアちゃん、楽しく遊んでますかー?」


 お母さんは、自分を見るや良い笑顔で近づいてきた。


「おそとみてます!」

「そうなのー、お外に面白い物あったかなー?」

「メリリア、おもしろい」

「奥様、アリシア様はお外の世界に興味がおありのようですよ」

「あらー、まだ小さいのにお利口さんですねー」

「誰に似たのかしらー。ふふふ」


 実際、知らない世界に来たわけなので興味をそそる訳ですよ。浮ついてしまうのは仕方がないのです。


「それじゃー、今日は、みんなでお外で遊びましょうか」

「いく!」

「ぼくもいきたいです」


 おぉ! 外いけるのですか。これは行くしかないでしょー。


「それじゃー、フレイ様にお願いしてお外でお茶会しましょう」

「リンナ、フレイ様の都合を伺ってきてくださる」

「エルステアも誘ってあげてくださいね」

「はい。奥様」

「ラフィアは厨房に行って、お茶会の支度をするように伝えてくださいね」

「かしこまりました奥様」


 メイドさん達はお母さんの指示で動きだした。準備が出来るまで、お母さんとメリリアにお締めを代えてもらい、絵本を読んでもらって過ごす。絵本がこの世界にはあるのですよ。たぶん、すげぇ高いはず。表紙の周りがゴテゴテに飾られているし、紙はたぶん羊皮紙ってのだと思う。




 リンナが戻ってきてメリリアに報告する。


「奥様、フレイ様、エルステア様もお茶会に参加しますとの事です」

「準備が済みましたのでご案内いたします」

「ありがとうメリリア」

「アリシアちゃん、グレイくん、お外にいきますよー」

「はーい」


 やっふー! 外に行くぞー! 見たこともない何か探し出すぞー!!


 一階の玄関扉までお母さんに抱っこしてもらい移動する。まだ二階から一階の階段をひとりで降りられないのだ。這いつくばって一段一段なら、この身体でも降りられますよ? めちゃくちゃ怖いけど、ちびったりしないですよ……たぶん。


 執事のウェインが玄関の扉前で待っていた。


 自分たちを見るや、ウェインはすっと玄関を開けてくれた。


 開けられた扉から強い光が差し込む。思わず目を瞑ってしまう。この目を開けた瞬間に二階から見た景色が広がっているはずなのだ。


「うにぉあぁぁっ!」


 気合いを入れて目を開けようとしたら変な声がでた。


「ふぁっ。」


 眼前にはさっきまで部屋で見ていた光景よりも、奥行きを感じる景色が広がった。青い空はどこまでも遠く、芝生が光に当たって輝く様にそよいでいる。


 気持ちい。外の空気を目一杯吸い込むと身体が少しひんやりとした。


「みんな、あそこの木の下にあるテーブルまで移動しますよー」


 お母さんが指差す方向には、大きな木の下におしゃれなテーブルとイスが備えられている。側にはメイドが既に待機してた。


「アリシアちゃん、お姉ちゃんといっしょに行きましょうね」


 お姉ちゃんが自分の手を取って誘ってくれた。


 みんなが自分の歩く速度に合わせてゆっくり移動してくれる。脚が小さく短いので早くあるけないので申し訳ないです。ガイアは自分が途中で倒れないように後ろからピッタと付いてきてくれる。みんな優しいね。


 テーブルに到着すると、お母さんとママ母は椅子に腰かける。自分はお母さんの膝の上に座らされ、お姉さんがその横に座る。グレイは、ママ母の横に座面が高い椅子にメイドのメルティに担がれて座る。


 メリリアとマチルダがお茶をカップに注いでくれる。自分はまだお茶をいただくことはできないようで、お母さんのお乳をいただくことにした。


「今日は、風もちょうど良く吹いて気持ちがいいですね」

「そうですわね。太陽の女神シュレスの情熱を風の女神エンリエータが冷ましているようですわ」


 お母さんとママ母の謎の会話に聞き耳を立てながらお乳を堪能する。


「ママ、ぼくも欲しいです」

「こちらにいらっしゃいな、グレイサス」


 どうやら自分の姿をみてグレイはママ母に甘えたくなったようだな。


「おなかいっぱい」

「はい、アリシアちゃんごちそうさまでした」

「ガイアー。おいでーあそぶよー」


 木陰で伏せた状態で待機していたガイアが、尻尾を振りながらこちらに来る。


「んー! んふー!」


 ママ母のお乳を飲み始めたグレイが何か言ってくるが、そちらの都合に合わせる気はないのだよ。いっしょに遊びたければ、そのいっぱいを手放すのだな、ふふふふ。


 ガイアの背中によじ登って芝生を散歩する事にした。お姉さんは自分がガイアから落ちないように一緒に付いてきてくれた。


「アリシアちゃんはガイアの背中に乗るのが上手になったねー」

「ガイアやさしいです」

「ガウッ!」


 とりあえず、ガイアに行き先を委ねて歩いてもらった。よそ見をするとガイアの背中からずり落ちるので、前に映る物で怪しいところを探索する事にした。


 しばらくうろちょろ庭を周ってもらうが、何も怪しい物がなかった。普通に手入れの行き届いた庭なのだ。まだだ、まだ何かあるはずだ! と思い、お母さんのいる場所へ戻る。


 お茶会が開かれている場所の側にある木に注目した。「もしかしたら、この下に何かあるのかもしれない」と、考え掘ってみようと試みる。


 スコップみたいな上等な物は無いし、そもそもそんな物まだ使えないので、手でちょいちょいと石やら土の塊を撫でる。んー、ガイアなら犬っぽいから掘れたりするかな?


「ガイアー。ここほれわんわん!」


 手で掘るような仕草をしてガイアに聞いてみた。


「ガウッ!」


 通じた!? ここは俺に任せろ! って言ってると受け止めた!


 ガイアは、木の根元を爪を出して掘り出す。おーさすがガイア! 頼もしい!!


 少し掘り出したところでガイアは堀った穴に鼻から頭を入れる。と思ったら口に何かを咥えている。あれ?もしかしてモグラでも捕まえちゃった?さすがにお母さん達がいるところで泥だらけの動物をみせたら怒られないか?


「ガイア? それなーに?」


 ガイアが怒られる前に口に咥えた物を先に見ておこう。


「ガウゥッ!」


 ガイアは咥えている物を自分の前に置いてくれた。


 それは、透き通った緑色に輝く宝石みたいな形をしていた。


「ガイア、すごい!」


 ここ掘れワンワンしたら本当に何か見つけてきちゃったよこの子! ちょっと嬉しくなってガイアの頭や身体を撫でまわしてあげた。


「おねえちゃん、これきれい」

「あらっ、ガイア凄いのねー。緑王石じゃない」

「ガイアえらい?」

「うんうん。ガイアは貴重な魔法石を見つけたの」


 そう言ったお姉ちゃんもガイアを撫でてくれた。


「おかあさん、ガイアいしみつけた」

「あらぁ、立派な緑王石」

「我が家の庭でこんな緑王石が見つかるなんて初めてですわ」

「珍しい事もあるものですわねー」


 お母さんもママ母も見つけた石に驚いているようですよ。どうやら何かあるという勘が当たった?


「おかあさん、ママ、ガイアえらいでしょ」

「うんうん、ガイアはとても偉いですよーアリシアちゃん」

「そうよー。とっても良い事をしてくれたのよ」


 みんなすごい良い笑顔で自分を見ている。あれ?なんか恥ずかしいんだけど。見つけたのはガイアなんですけどー。と思いガイアのふわふわの毛に顔を突っ込んで視線をかわした。

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