第5話 赤ちゃん生活

 起きてー飲んでー。


 美少女と遊んでー。


 飲んでー寝てー。


 起きてー飲んでー。


 寝てー起きてー。


 以下ループする日常。


 これが自分の赤ちゃん生活だ。起きている時間より、寝ている時間の方が多い気がするが、すぐ眠くなる体質みたいでしょうがないのだ。


 ここ最近は、自力で座り込む事まで出来るようになった。天井をガン見していた生活とは、おさらば出来たおかげで、前よりも視野が広がっている。


 まだお座りが安定してはいないので、バランスを崩して転がった後に、座り直すのに時間がかかってしまう。


 とは言え、まぁ、なんとか自分は成長しているのだよ。


 美少女さんとも、対面で遊べるようになったけど、何故か事あるごとに抱っこしてくれる。


 まぁ、この美少女さんから香る匂いで、無性に心が穏やかになるので文句なんて全くないのだ。むしろ、ウェルカム! 多分、この姿になってから、ずっと側にいてくれていた人なのかもしれない。だから、ずっと側にいて欲しいと思ってしまっている。


 抱っこされている時は、美少女さんの顔がとても近い。近すぎて、こちらが緊張してしまうほどだ。本当に目もぱっちりしていて可愛い!


 彼女の愛らしい顔にしばし見入ってしまっていたが、今日はある真実を確かめるために事を起こさねばならぬと思い出し意識を変えた。


 まず彼女の柔らかいほっぺたをぺたぺた触り、ぷるんとした唇、可愛らしいお鼻に手を掛ける。ここまでは計画通りだ。そこから金色でサラサラの前髪を堪能する。そして、今回じっと気になっていた彼女の先の尖った耳に手を掛けた。


 シリコンのような柔らかく、ふにっとした感触と細部まで作りこまれた造形。リアリティを追求するコスプレイヤーさんであれば、このくらい再現度が高くても不思議ではない。ひと肌を感じさせる温かみまで再現されているので、さすがにこれは驚いてしまった。


 造形の素晴らしさに感嘆しながらも、追及する手は止めない。耳の先端から付け根になぞるように移動させ、指先で丁寧に接着箇所を弄り探す。


「んんっ」

「あぁっ」


 美少女さんが突然声を出した。


 あれ? ここは神経があるのかな? とすると、もう少し耳の先端に繋ぎ目があるのかなと考えながら、指先でくまなく弄ってみた。


「あはっ」

「■■■x■■■。■■■■■x■」


 彼女が何か訴えかけるような視線を自分に向けるが、触っても、触っても、繋ぎ目がまったく見つからないので、さらに丁寧かつ入念に弄ってみた。美少女さんの顔がだんだん紅潮していき、身体を捩らせ始める。


 ん~? これはもしかしてくすぐったい?


 徹底的に指で感触を確かめ続けていたら、彼女の耳先まで赤く染まってしまった。


 どうやらこれは……本物の耳のようです。はい。


 検証を重ねた結果、事実が分かった事に自分は満足を覚えた。


 彼女の可愛い口から吐息出たと同時に、耳を触っていた自分の指は離されてしまった。ぷるぷるした耳をもう少し触っていたかったが、紅潮した彼女の目尻に涙が溜まっている様子をみて、これ以上やってはいけない気がして諦める事にした。


 今日のところはこの辺で勘弁してやろう。ふふん。


 それよりも、彼女の耳がモノホンのエルフ耳なのだ。


 生まれ変わった世界は、自分のいた世界と別物であると認識を改めねばならない。西洋風の衣装もコスプレではなくこの世界では普通と考えると、どの程度文明が発達しているのか気になった。


 ただ、いま自分に目の前に移っている人や景色だけでは情報量が少なすぎて、文明の発達具合を知る事はできない。


 とりあえず、エルフがいる世界なんだ……ここは……。ヨーロッパの神話みたいな世界に自分は生まれたのだ。と結論を出した。


 いいじゃん、楽しそうな世界じゃない。と、勝手に理解し興奮を覚える。


 その瞬間、下半身がスーッと気持ちの良い感覚が通り抜けていった。


 気持ち良く身体を抜ける感覚に、思わず目を閉じてしまう。


 あーなんか、水の中で浮かんでいるような気分ですよ……気持ちい良い……。


 さっきまで安定しなかったお尻に、重りが載ったような感覚を覚え、しっかりと身体が固定されたような気がした。


 うん、これは良いね! エルフの美少女と恙なく遊んでいる間も、数回、全身を何かが抜けていく感覚があり、時には身体がブルっと震える事もあったが、お構いなく過ごした。


 しばらく、エルフの美少女とはしゃいで、電池切れの時が訪れる。


 うむ、そろそろお乳をいただいて寝よう! だが、また哺乳瓶を出されては堪らないので、大きい方のエルフ美女さんが来るのを待った。


「そろそろ眠たいので、お乳を貰えますか~?」


 とエルフの美少女に視線を向けずに、大きく声をだして呼びかけた。一度の呼びかけでは来てくれない気がしたので、何度か心の底から声を出し呼び続けた。


 自分の呼びかけに、目の前の少女が狼狽えていた。すいません。別に貴方をディスっているわけじゃないんですよ……。母乳じゃないと自分飲めないので。ほんとすいません。と、心で思いながらエルフの美女さんを待った。


 しばらく呼びかけていたが、一向にエルフの美女さんは来ない。


「お願い早くきてください! もうお腹がからっぽなんです! お願いします!」


 何故か、涙が頬を伝って流れてきました。なんだか顔も熱くなっています。熱くなってきたせいで思考がぐちゃぐちゃになってきて、この後、自分がどんな行動をしていたのか覚えていない……冷静な思考はどこかに飛んでいったようです。


 熱が冷めた時には、自分の口にはエルフの美女さんの母乳で満たされていました。


「あぁ、お乳が美味しい。今日も、最高のお乳有難うございます!」


 幸せの授乳タイムに没頭していた時、自分の顔を押して飲むのを阻害する圧力を感じます。


「ちょっと、何か物を当てないでくれますか? 貴重で甘美な時間を邪魔しないでくださいよ」


 と、圧力に対して苦言を言い放つ。だが、一向に圧力は弱まらない。むしろ、さらに押してくる力が強くなり、お乳を吸う事すらままならなくなった。


「ちょ! 誰っすか!」


 圧力をかけてくる方へ睨みつけた。視線の先には、エルフの美女のもう片方の房に吸い付く輩が、ジッとこっちを見ている。


「お前か、邪魔していたのは!」


 とっさに、怒りの抗議を輩に投げかけます。その言葉はむなしく、輩の耳には届かず、さらに自分を足蹴りして排除しようとするではありませんか。


 このままではお乳にありつけなくなる。危機感を感じた自分は立ち向かうため、輩の向けられた手と足を払おうと試みた。払っても、払っても、しつこく手と足で小突いてきて、ゆっくりお乳がいただけない。


「ほんと、ほんとに、やめろって! マジでどういうつもりなんだって。コラッ!」


 お腹がすいているイライラも相まって、段々語気が荒くなる。しかし、輩の妨害は一向に止まない。


 こうなったら実力行使しかあるまい。


 自分がされたように輩の頬に手をグッと押し込んで対抗する。


「ははは、これで貴様も満足に吸えまい! 吸いたければ、邪魔をするな!」


 したり顔で輩を見ると、輩の目から涙が溢れだし、縋るようにエルフの美女を見つめる。


「ママァ! 邪魔するー!」


 えっ、こいつ喋れるのか? 確かに自分より体格いいし、喋れても不思議じゃない。そして奴の話している言葉が理解できる。初めて言葉が聞き取れたのだ。


 それはそれですごい驚きだが、そんな事よりもエルフの美女がこいつのママだと? マジか? んんん、という事は? こいつとおっぱいの取り合いをしている自分は何だ?


 この美女は自分の母親でもある?


 生まれ変わって赤ちゃんからのスタートと考えれば、確かに親がいる。今までどうしてその発想にならなかったのか。毎日母乳をあげる人が他人と思っていたのは、前世からこの体になる経緯がはっきりしなかったというのもあるが、考えてみれば母親から乳をもらっているのは何ら不自然ではない。


 なるほどなぁ、このエルフの美女が母親か。なんか生まれ変わって、エルフが母親なんて最高すぎる。二度目人生……あぁ、これマジ最高だった。輩が隣で、ぎゃー、ぎゃーと騒いでいるが、正直どうでも良くなって新しい事実に胸がときめいた。


「おいっ、お前!」


 そう輩に告げて、エルフの美女に視線を向ける。


「ママ!」


 輩の言葉をそのまま拝借して、自分はエルフの美女に話しかけた。


 その瞬間、エルフの美女も側にいたエルフの美少女さんも、メイドエルフもざわっとして、途端に全員笑顔になった。その後、皆んなが一斉にテンションの高い声で自分に話しかけてくる。


 ひとりその状況を見て、ぽかんとした顔で自分を見ている輩。


 周囲の視線を自分に向けさせた自分は、ドヤ顔で輩を見る。同時に、輩の手が緩んだ隙に母親のおっぱいに食らいついてお乳を一心不乱に吸い出した。


「今日の勝負はどうやら勝ちのようだな。出直してくるといい。」


 輩に指さしそう告げるさらに、ぎゃーすか喚きだしたが、そんな事には我関せず、勝利の美酒に酔いしれた。

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