第10話 義体は愛の夢を求める
日曜の午前の明かりが、カーテンの間から漏れている。その部屋に入って反射した光が香織の裸身を浮かび上がらせていた。
「私、どうですか。醜くありませんか」」
その言葉は何処か頼り無げでか細かった。しかし、俺の目の前にあるのは、作り物とは思えない美しく魅力的な裸身だった。
「綺麗だよ。とても魅力的だよ」
ふくよかな胸は適度な大きさでしかも均整は取れていて上を向いている。先端は僅かに赤味を帯びていた。
ウエストは美しいカーブを描いていて、長い脚に連なっていた。その花芯は僅かな茂りで覆われていた。
「本当ですか。この躰を見て抱きたいと思いますか?」
そう言った言葉は嘘偽りの無いものに思えた。また、その眼差しは真剣だった。
「おいで」
俺は香織の手を取って引き寄せた。バランンスを崩した香織は静かに俺の膝の上に倒れて来た。
「あ、私重いから」
咄嗟の事で香織も何も出来ずにそのまま俺の腕の中に収まった。確かに普通の女性より重いが、俺がソファーに座ってるからその分楽だった。
俺の腕の中の香織を思い切り抱きしめる。その感触は普通の女性を抱き締めた時と変わらなかった。只、暖かみは感じられなかった。
香織も俺を抱き締めて
「どうですか。冷たくて駄目ですか?」
俺は返事の代わりに目の前の香織の口に自分の口を重ねた。その感触はやはり暖かみ以外は普通の女性と変わりは無かった。
「私どうですか」
もう一度尋ねる。俺は、その返事の代わりにソファーの上に畳んで置いてあった、大きめの膝がけを手に取り、香織の背中に掛けてやって、その上からもう一度抱きしめる
「冷たいなら俺が温めてやるよ」
その言に香織は
「今度新しい義体になって温くなったら抱いてくれますか。それとも義体じゃ嫌ですか」
そう言って俺の胸におでこをつけて泣くような声で言った。俺は
「本気なのか?」
「はい本気です。実は私バイトの頃に数回、高梨さんのお店にヘルプで仕事をしたことがあるんです。その時に素敵な人だと思ったのです。だから今回本当は私、別な店に配属される予定だったのですが、私が新しい店に配属してくださいとお願いしたのです」
そんな事だったとは知らなかった。普通は臨時にヘルプで入ったバイトの子までは覚えていない。
「俺みたいなのが良いなんて、趣味が悪いと言われてなかったか」
「そんなことはありません」
香織はそう言って俺を抱きしめる。
「ほどほどにしてくれよ。本気なら俺が死んじまうからな」
そんな冗談を言うと香織は
「いけずです!」
そう言って泣き笑いの表情になった。
「ベッドに行くか」
そう言うと香織は黙って頷いた。本当なら男が女性をお嬢様抱っこをしてベッドに連れて行くのだが、香織の場合はそうは行かない。逆に俺が抱っこされそうだった。
それでも抱き合ったままベッドに倒れ込む。今回もベッドは持ちこたえてくれた。
俺も生まれたままの姿になり、毛布を被って香織と抱き合う
「無理しなくても良いです」
「うん?」
「だって、その状態になっていません。この次に新しい義体になって、素の私を見て高梨さんがその気になってくれたら嬉しいです」
何とも健気だと思い、愛しさが増して来る。
「でも今日はこのまま私を抱き締めてください。私、愛しい人とこんな事するの初めてなんです」
「事故前でもか?」
「はい。恋人はいませんでしたから」
それは正直意外だった。昔の写真を見せて貰ったが、今の状態が少し幼くなった感じで、可愛い高校生という感じだったからだ。あれならモテたと思う。
「告白は沢山貰いましたが、私がどうしても、その気になりませんでした」
ずっと抱き合ってると、段々と俺の体温が香織の義体に移って来て、取り敢えず冷たくは無くなって来ていた。ふくよかな胸を弄ると
「物凄く感じるんです。そこは良く出来ているんです」
そう言って瞳の焦点がぼやけていた。
表情はそんな感じなのだが、手は俺の下半身を弄っている。
「うふふ固くなって来ました。見てもいいですか?」
「は、見るのか? 普通はそんな事言わないぞ」
「私、男の人の固くなったのを見た事が無いんです。後学の為に見せてください。駄目ですか?」
ベッドで裸で抱き合ってるのだ、嫌とは言えない。仕方なく頷くと
「嬉しいです」
そう言って頭を毛布に潜らせた。そうか暗くても見えるのだと気がついた。そして
「思っていたより、またデータベースの情報より大きかったです。今度はあれが私の中に入るのですね」
そんな事を口にするので
「あのなぁ。普通の女の子はそんな事は思っても口にはしないぞ」
そう言うと。驚きの表情を浮かべ
「そうなのですか。日本の女性は奥ゆかしいのですね」
そんな事を言うのだった。
その後、起き上がって俺の前に跪きあれを口に含もうとしたが、口が触れた瞬間の冷たい感触に一瞬で萎えてしまった。
「普通の恋人は口に含んで男の人を喜ばせるのですね。でも今の私には無理なんですね。これも次の宿題にします」
義体が新しくなったら、どのような事をされるのか少し憂鬱になった。
その日は結局、一日中裸で抱き合っていた。そして数え切れない程キスをした。夕方帰る時に駅まで送って行った。名残り惜しそうな顔が印象的だった。
その後、数週間は何もなく過ぎた。香織の義体も変わった感じは無かった。だがある日、店に行く前に俺の部屋に来て
「今日から新しい義体になりました」
そう言っていきなりキスをして来た。暖かみのあるその感触は、人間と変わらなかった。
「新しい義体に変わったのを知っているのは、会社でも一部の人だけです。甘利店長も知りません。だから」
「判った。口外はしないよ」
そう言ったら嬉しそうな顔をして俺に抱きついて来た。
「バッテリーが義体から無くなったので軽くなりました」
その言葉を信じて持ち上げたら、確かに少し重たい女の子ぐらいだった。
「今度はお姫様抱っこしてください。それが夢になりました」
そんな事を言うので
「今度の休みの前の夜だな」
そう言ったら
「約束ですよ」
そう言って指切りをさせられた。
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