第44話 とうとう!

「お嬢様、もうお昼ですが、起きられますか?」


 辺境伯別邸に戻ってきたキャロラインは、結局次の日も学園に登校することは叶わなかった。


「……ロベルト様は?」

「ちゃんと朝起きられて、学園に行かれましたよ」

「そう……。アンリ……凄かったわ。夫婦はみんなあんな凄いことを毎晩営んでいるね」


 キャロラインは、昨日の出来事を思い出し、放心したようにつぶやいた。


「お嬢様!ということは昨日は?!」


 前のめりになって聞いてくるアンリに、キャロラインは頬を赤くしながらも頷く。


 そう、とうとうロベルトとキャロラインは最後の一線を越えた。かなり長い道のりだったと思う。

 案ずるより産むが易しとはよく言ったもので、痛さよりも……だったのは、今までロベルトが我慢に我慢を重ねてキャロラインを慣らしてくれていたからなのか、それとも……。


 ★★★


「キャロライン、話がある」


 辺境伯別邸に戻り、入浴も済ませて部屋でくつろいでいた時、固い表情のロベルトが部屋にやってきた。


 ロベルトはテーブルにピンクの小瓶を置いた。


「それは?」


 可愛らしい小瓶は、ロベルトが持つと凄く小さく見えるが、テーブルに置かれると香水瓶よりは少し大きめに見えた。ピンクなのは中の液体の色で、瓶自体は無色透明みたいだった。


「媚薬だ」

「媚薬?!」


 話には聞いたことがある媚薬。前世の記憶では、その手の小説や漫画にはちょこちょこ出てきていた。飲んだら理性がなくなるとか、男子も女子も達しないと効果が抜けないとかなんとか……。

 実際にそこまでの媚薬はないんじゃないかって思ったが、使用したことがないから効き目がどれくらいかなんかわからない。


「初めて見ました」

「俺もだ」

「ちなみに、どれくらい効果が?」

「したくてたまらなくなるらしい」

「別に、元からロベルト様としたいですけど」

「俺もだ。それと……感度が上がるらしい」

「え!あれ以上ですか?私、毎回気絶するくらいなんですけど。すぐに気絶しちゃいません?」

「それは困るな」


 媚薬を目の前に、二人してこれを使う利点を思いつけなかった。


「これ……いります?」

「いる……んじゃないか?そう!痛みも快感に変換されるって言っていたぞ。これを飲めば初めてでも痛くないとか」

「痛みを快感にって、変な性癖が開いたら困るじゃないですか。それに、ロベルト様が今まで頑張ってくれたから……その……大丈夫な気ががします!」

「しかし、キャロラインに痛い思いをさせるのは……」


 キャロラインはロベルトの手を握ってロベルトを見上げた。


「もし痛くて無理なようなら使うかもしれないけど、まずはちゃんと素でロベルト様を感じたいです」

「キャロライン」


 ロベルトはキャロラインを抱き上げるとベッドに運び、素早く自分の衣服を脱ぎ捨てた。


 見慣れることはないロベルトの素晴らしい肉体美に、キャロラインの脈拍が一気に上がる。


「愛してる」

「私も……愛して」


 キャロラインはそれ以上言葉にできなかった。ロベルトの熱のこもったキスに遮られたからだ。


 そして……。


 ★★★


「お嬢様、この可愛らしい瓶はなんですか?」


 まだベッドから起き上がることのできないキャロラインは、ベッドで朝食兼昼食をとり、その間にアンリは部屋の片付けをしていた。


 アンリが手に取ったのはロベルトが持ってきた媚薬の小瓶で、中身は……全く手つかずである。


 そう、昨日媚薬の出番はなかった。なかったにも関わらず、ちゃんと至すことができたのは、キャロラインの反射の無属性の特性のおかげだった。


 交わる……ぶっちゃけ、男性の精を取り込むことで、その中にある魔力を男性に反射する性質があるのは知っていた。しかし、まさか反射する行為が最高の快感をキャロラインに与えるなんて、キャロラインすら知らなかった。

 以前にロベルトのロベルト君を口でナニしただけで達してしまったのは、口からロベルトの精を取り込んで魔力を反射していたからだったのだ。もしかすると、R18バージョンの乙女ゲーム設定なのかもしれないが、精を取り込む→最高のエクスタシーを感じる→魔力を男性に倍増して反射する……なんてことが、相手の魔力をカンストさせる要因になっていたなんて。


 ロベルトの男性の沽券の為にも、破瓜の痛みは反射の無属性の特性のおかげでなくなった……とだけお伝えしよう。まぁ、ロベルトも初めてであったがゆえの……ということで。キャロライン的には媚薬以上に快感が痛みを凌駕したのだから、結果オーライである。


 そんな訳で、媚薬の小瓶は開けられることなく、テーブルに鎮座していた。それをアンリは蓋を開けて匂いを嗅いだ。


「香水……ではないんですか?」

「駄目、駄目!嗅いだら多分駄目なやつ」

「なんですか?!まさか毒?」


 アンリは慌てて蓋を閉めたが、その際に手に軽く中身がかかってしまう。


「毒ではないんだけど……」

「なんだ、脅かさないでください」


 アンリはホッとして、手にかかった液体の匂いを嗅ぎ、ペロッと舐めてしまう。


「少し甘い……ですか?」

「ウワーッ!舐めた?舐めたよね。それ、媚薬なんだけど」

「媚薬?!……媚薬ってなんですか?」


 男女関係に疎いアンリは、媚薬の存在もしらないようだった。


「Hな気分になる薬!すぐに口をゆすいで!それとも水分を取って薄めた方がいい?!とにかく水!!」

「えーェ?!」


 キャロラインはよろける足を踏ん張りベッドから下りると、全身筋肉痛と腰痛で変な歩き方になりつつも、水指しから水をくみアンリに手渡す。


「すぐ口をゆすいで!」


 アンリは言われたままに口をゆすぎ、ゴックンと飲んでしまう。


「まずはペッでしょ。飲むのはその後」

「すみません。出す場所がなかったので」

「ウワーッ、そうだよね。私が悪かった。じゃあ、とりあえず沢山水飲んで」


 アンリに水指しごと渡す。


「これ全部ですか?」

「全部!」


 アンリは途中休み休みだが、水を全部飲みきる。


「お嬢様……」

「なに?!身体が火照ってきた?変な気分になった?」

「いえ……若干身体が熱い気がしますが、それよりも」

「それよりも?」

「お水の飲み過ぎでおトイレに」

「いってらっしゃい!飲んで出す!代謝しないとだから」


 アンリはトイレに走り、キャロラインはその場に崩れ落ちた。


 こんな筋肉痛、今まで経験したことなかった。

 けれど、昨日のことが嫌だったとは全く思わない。多分、半分以上は意識朦朧としていた(媚薬不使用で)気もするけれど、凄く幸せな時間であったことは覚えている。


「……体力つけよう」


 キャロラインは今日から筋トレをする決心を固めた。

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