第37話 朝の会話
身体の調子がすこぶる良い……。昨日ロベルトにストレッチしてもらったおかげか、キャロラインは素晴らしく良い目覚めをむかえた。
結局、昨日もできなかった……。
昨日は大胆にもロベルトのロベルト君を口で☓☓☓して、顎が壊れるかと思ったけれど、手と口を使って前世の記憶を辿りながらかなり頑張った。
ロベルトのアレを飲み込んだ時、身体がカッと熱くなり、何故か何もされてないのにハテてしまい……気がついたら朝だった。
涎でベトベトだった口の周りや手は清められていて、いつものようにロベルトが綺麗にしてくれたのだろう。
何で気絶しちゃうかなぁ、自分。というか、何であんな状態になったのかわからない。
「起きたか?」
「はい。ロベルト様も起きてたんですか?」
「少し前にな。……ところでキャロラインに聞きたいことがあるんだが」
「はい?」
ロベルトは起き上がると、惜しげもなく筋肉美をさらし、素っ裸のままベッドを下りた。逆三角形に引き締まった後ろ姿は称賛に値する。逞しい広背筋も魅力的だが、プリッと上がった大殿筋の完成度も捨て難い。
ロベルトの後ろ姿をウットリと見つめつていると、ロベルトは椅子の背にかけていた普段着を着込んで戻ってきた。キャロラインには、頭からかぶれるロングワンピースを持って戻ってきてくれた。
そのワンピースを素肌の上から着込み、ベッドを下りてロベルトの座るソファーに座った。
「聞きたいことって?」
「昨日の手技……いったいどこで覚えたんだ」
「え?」
ロベルトの眉間に皺がより、キャロラインの手を強く握りしめた。
昨日の手技とは……、ロベルトのロベルト君に施したアレのことだろうか?
「……ごめんなさい。下手でしたよね?」
二生の中でも、あんなことをしたのは初めてだ。触り方や力加減なんかは、前世の自分にもついていたモノだからなんとなくわかるが、ロベルト的には拙い愛撫だったのかもしれない。
「逆だ。うますぎて……いや、比べる対象がないからアレが普通にできることなのかもわからないが……、誰かに手ほどきをうけたのかと思ったら……」
ロベルトの表情が苦悩したように歪み、キャロラインの手を自分の額に持ってきて、祈るようなの形になる。
「ないないないです!その、なんとなく見様見真似……」
「誰かのを見たのか?!」
ロベルトの目がカッと見開かれた。ロベルトから溢れ出る威圧感に、さすがのキャロラインも、魔力の塊に押し潰されそうになり、顔色を悪くする。
「悪い!キャロラインに怒りを感じている訳じゃないんだ。ちょっと待ってくれ、気持ちを落ち着ける」
ロベルトは深い呼吸をして覇気を収めた。
「……誰のも見たことはないです(前世の自分の以外は)。その……閨の仕方を書物で読んで、それで……あの……」
まさか、前世の記憶で……なんて言えないし、そこまで正確なやり方は書いていなかったが、閨本の教科書には、旦那様の相手を出来ない時期は男性器を手や口で扱うこともあるとだけ書いてあった。
貴族子女が勉強する教材は、前世の保健体育の教科書レベルで、名称とか受精の仕組み、また魔力交換の方法としての性行為についてなどがほとんでで、ペラペラの小冊子くらいの厚みしかない。男性に任せていれば大丈夫的な、「本当にそれだけでいいの?」という内容の本だった。
「……そうか。侯爵家の閨教育は進んでいるんだな」
ロベルトに勘違いさせてしまったようだが、とりあえず曖昧に頷いておく。
「ウウンッ!まぁ、キャロラインのことを疑ったわけじゃないんだが、力加減やら舌づかいが……いやなんでもない。変なことを聞いて悪かった。あとだな、俺のをアレ……した後にキャロラインが気絶したんだが、その理由を知りたい。もしや、反射の無属性は体内に魔力を取り込むと気絶するのか?そういう体質なのか?痛かったり苦しかったりするんだろうか?それと、俺の魔力が少し上がったような気がするんだが、それも何か関係あるか?」
反射の無属性が魔力を反射する存在であることは周知の事実だ。しかし、繋がることにより相手の魔力を増幅させ、度重なる行為により魔力をカンストさせるということは、王家と教会だけが知る事実だ。
キャロラインがそのことを知ったのは、乙女ゲームの設定にそう書いてあったからで、この世界の知識としてではない。
「よくわからないんですけど、身体の中に魔力が巡るような気がして、それが凄く……気持ちよくてですね……」
「気持ち良い?」
ハテちゃいましたとか自己申告するとか、どんな罰ゲームなんだろうか?
キャロラインはモジモジしながら視線をそらす。
そんなキャロラインの頬を両手で挟み、ロベルトは覗き込むようにキャロラインの目を見つめた。
「そうです!昨日はなんとしてでもロベルト様と最後までしたかったから、体力を温存する為にロベルト様のアレをナニしたんです!それなのに、何故かロベルト様の子だねを飲み込んだら、いきなり気持ち良い波に飲み込まれてハテちゃったんですよ!私もなんでそんなことになったのかはわかりません。ただ、ハテる直前に身体を巡った魔力が放出されるような感覚があったんで、ロベルト様の魔力をお返ししたんじゃないんでしょうか!!」
もう!!
恥ずかしすぎる!
というか、このことよりも、キャロラインの手技の上手さの原因が気になるロベルトっていったい……。
「そうか……。いや、痛いとか気持ち悪いとかじゃなければ良かった。最初はあまりの不味さに気絶したのかと……」
「もう!朝からこの話題は止めましょう。爽やかな朝の会話に不適切ですから」
「いや、うん。まぁ、そうだな。では、今夜その話の続きを」
それは、今夜もするぞという意思表示だろうか?ほぼ毎晩、軽い触れ合いからガッツリした触れ合いまで、何かしらの触れ合いのある二人なのだが。
それともして欲しいということか?
「はい……頑張ります?」
「いやいや、頑張らなくていい。アレはたまにじゃないと癖になりそうだ……じゃなくて、毎回その後気絶されるのもちょっと……いやそれも違くて!」
ロベルトが珍しくワタワタと慌てた様子で表情を崩したので、キャロラインはクスクスと笑ってしまった。
「たまにですね、わかりました」
そこでアンリが朝食の用意ができたことを知らせに来たので、この話は一旦持ち越しになった。朝の支度(とりあえずは下着をつけないと)をする為に、ロベルトには先に食堂へ行ってもらう。
「お嬢様、今日はいつもにも増してお肌が艶々ですけれど、何か夜中にお肌に良い果物でもお召し上がりになりました?」
キャロラインの髪の毛をとかしながら、アンリが鏡越しに聞いてくる。
「お召し上がり……って、夜中に食べる訳ないじゃない」
良質なタンパク質を少々(もしかして下品?!)……とも言えず、キャロラインはアンリの問いに食い気味に答えた。
「ですよね。食べ物を食べた形跡もないですし」
「当たり前でしょ。夜中に食べるなんてお行儀の悪いことしないわ」
「クスクス、どの口が言うんでしょうね。夜中、二人でベッドに潜り込んでクッキー食べて、奥様にしこたま怒られたじゃないですか」
「そんな昔の話しないでよ」
「お嬢様、最近虫刺されが多いですね。ほら、首の後ろのところとか、胸元とか。髪の毛は下ろしたほうが良いですね」
「虫刺され?」
鏡で確認すると、確かに鎖骨の下辺りに赤い跡が。首の後ろは見えないが、ワンピースの襟首を開いて中を見てみると、胸元だけでなくおなかや内腿などにも点々とついていた。
キスマーク?
今まで、ロベルトは人に気が付かれない場所、例えば背中やお尻などにキスマークをつけていたからキャロライン本人も気がついていなかった。今日はわざと目立つ場所につけたらしく、キャロラインも初めて目にするキスマークをマジマジと見てしまう。
「シーツも毎日替えてますし、布団も干してもらっているんですけどね。干している時に虫でもついたんでしょうか?」
キャロラインの姉的存在のしっかり者のアンリだったが、彼女が唯一疎いのが恋愛関係だった。一生をキャロラインと共にあると決めているので、恋愛や結婚は自分とは無関係なものだと意識から除外されており、閨の知識などは自分には無関係だとはなから勉強するつもりもなかった。唇と唇をくっつけることをキスと言うらしい……くらいの知識しかアンリにはない。
「そ……うかもしれないわね」
「お薬塗ります?痒いですか?」
「大丈夫!全然痒くないから」
キャロラインはきっちりワンピースのボタンを上までしめ、首元にはスカーフをまいた。
今日、ロベルト様に言わなくちゃ。「私にもキスマークつけさせて」って。
ロベルトの逞しい筋肉に自分のキスマークがつくところを想像し、キャロラインはニマニマと笑みを浮かべた。
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