第20話 初めての朝(事後ではありません)

 鳥の鳴く声が聞こえだし、朝日が窓から差し込んで部屋がうっすら明るくなってきた頃、キャロラインは身体に巻き付く熱によって目が冷めた。


 身動きが取れないくらいギューギューに抱きしめられ、最初は金縛りか何かかと慌てたが、ロベルトに腕も足も抱き込まれて寝ているだけだとわかり……さらにパニックに陥った。ロベルトはトラウザーだけを身に着けているものの、キャロラインは見事にスッポンポンで、上も下も何も身に着けていなかったからだ。


 昨日の記憶はバッチリある。二十歳になったとはいえ、まだお酒を飲んでいないし、酔っぱらった勢いとかではなく、その……色々見られたし触られたし、〇〇られたり✕✕れたり……18禁な体験をしてしまった。


 興味本位で自分で触ったことがないわけじゃない。怖くてちょこっとだけだけど。

 それとは全く違った。


 あんな……。


 キャロラインは昨日の痴態を思い出して、身体まで真っ赤に染める。


 ただ、最後までは至していない。かなりギリギリなラインまではした気もするが、物理的に無理(なこともないのだが、キャロラインは無理だと思ってしまった)なのと、キャロラインがひたすら怖がってしまった為、最後までは至らなかった。


 男性の身体だった前世でも、性的に好きなのは男子だったが、プラトニックならまだしも、身体の関係を持つことは怖過ぎて無理で、だからこそ恋愛は諦めていたのだ。

 しかし女の子に生まれたからには、普通に恋愛して好きな人と結婚して、子供ができる行為だってできるんだ……って思っていた。


 初めてHする時とか、赤ん坊が出てくるくらいなんだから絶対に入るとか聞いたことあるけれど、よくよく考えてみれば出産って凄い激痛でしかも裂けちゃうとか言うでしょ?それって大丈夫じゃないよね?大惨事じゃん。


 ……という感じでキャロラインは怖気づいてしまったわけだ。


 せめて前世の自分レベルのモノだったら頑張れたのかもしれないが、ロベルトのは……ちょっと規格外過ぎた。

 今も抱きつかれて腰辺りに当たるロベルトのモノは、元気過ぎるくらい元気になっているようで、なんとも恥ずかしくて居心地が悪い。


 男の生理はわかっている。一般の貴族令嬢ではありえないくらいに。

 だから、今のロベルトの状態も理解はしている。

 

 朝だからね、仕方ないよね。

 ロベルトが起きる前に、せめてガウンくらいは着たいんだけど……。


 キャロラインはモゾモゾと動き、なんとかロベルトの拘束を解こうとするが、ロベルトにしっかり抱き締められている為、なかなか腕の中から抜け出せない。それでもなんとかロベルトの腕と足を解いて、キャロラインの代わりに大きな枕を抱かせておく。


 キャロラインはベッドから下りると、まずは床に脱ぎ散らかされている昨日のドレスや下着類を拾った。床にパンティが落ちてるとか、かなり恥ずかしいんですが……。

 ドレスは椅子にかけ、下着は後で洗濯物に出そうと、ドレスの下に隠すように置く。


 新しい下着は……、正直どこにあるかわからない。いつもはアンリが用意してくれ、入浴の時に置いておいてくれるからだ。しかし、今の状態でアンリを呼ぶことはできない。


 一度履いた下着を着るのも嫌だし、キャロラインは下着は諦めてガウンを探した。しかし、ガウンは見つからず、あったのは昨日ロベルトが来ていたシャツのみ。

 広げてみるとかなり大きい。丈もキャロラインの太腿まで隠れてしまいそうだ。


 彼シャツ。


 この世界にそんな言葉があるかわからないが、ちょっと憧れもあった。シャツに顔を埋めると、かすかにロベルトの匂いがする。


 キャロラインはロベルトのシャツを羽織ってみた。


 背の高いキャロラインが着ても、ダボッと大きく、袖から手の先が見えるか見えないかぐらいだ。まさに彼シャツだ。


「やっぱ大きい」


 キャロラインはシャツのボタンを第三ボタンまで閉め、クルリと回ってみた。

 そして、ベッドから起き上がってキャロラインを見ていたロベルトとバッチリ目が合う。


「キャッ!いつから見てたの?!」

「あぁ……いや、キャロラインが俺の腕を剥がしてた時だな」


 ということは、素っ裸で歩き回っていたのも見られたということだ。


「もう!声かけてくれればいいのに」

「ハハハ、あまりにキャロラインの身体が綺麗で、見惚れてたら声をかけるのを忘れた」


 逆光の中、キャロラインのスレンダーな身体のラインは、まるで一枚の絵みたいに美しかった。そのキャロラインが自分のシャツを拾ってどうするのか見ていれば、愛おしそうにシャツを抱き締めて羽織ったではないか。白いシャツに黒く抜けるシルエットに目を奪われ、ロベルトはただ見惚れるしかなかったのだ。


「もう!冗談ばっか」

「冗談ではないのだが……」


 ロベルトはベッドから起き上がると、逞しい半裸をさらしながらキャロラインに近付くと、抱き上げるようにしてキスをしてきた。


「おはよう、キャロライン」

「ロベルト様、おはようございます」

「さて、そろそろ俺のシャツを返してくれるか?」

「今は駄目です!着る物がないからちょっと支障が……」

「ふむ。この格好も魅力的なんだが……ちょっと俺の我慢が限界突破しそうだな」

「え?なんて?」


 最後の方はつぶやくように言った為、キャロラインの耳には入ってこなかった。


「いや、なんでもない。ちょっと布団に包まって。キャロラインのこんな煽情的な姿、誰にも見せたくないからな。」

「煽情的って……」


 背だけ高くて、胸もお尻も薄めの自分の身体になど、誰も欲情しないから……と思いながら、自分の姿に視線を落とす。こんな身体でも、ロベルトは劣情を感じてくれているんだろうか?


「ロベルト様は……あの……私の身体で大丈夫でしたか?」


 上から見下ろす形になるロベルトには、大きく開いた襟ぐりからキャロラインの女性だと主張しているなだらかな膨らみも、引き締まった細い腰つきも丸見えだった。


 ロベルトは喉を小さく鳴らすと、キャロラインを抱き上げたままベッドに運び、押し倒してのしかかった。


「大丈夫だったかどうかすぐにでも証明できるが……、次は我慢できる気がしないな。丸々一日かければなんとかなりそうだから、キャロラインの時間を一日貰えれば証明するのは容易いな」

「一日……。一日頑張らないとその気になれないくらい、私には魅力がないってことなんですね」


 そこまでか……。


 ロベルトがやる気になるには一日かかるくらい自分に魅力がないとか、せっかく女子に生まれたのにどうなのこれ?だから昨日も最後までしなくても、ロベルトは普通に寝れたのか?!男子だった記憶があるから、そういう状態になったのを鎮めるのは大変だって知っているキャロラインは、自分の女子としての魅力の低さに愕然とする。


「何か勘違いをしていないか?一日頑張るのはキャロラインだぞ」

「私?」

「ああ。俺はまぁ……いつでも準備万端だ」


 キャロラインが視線を下に向けると、朝の状態よりもさらに雄々しくズボンを押し上げるロベルトの……が目に入る。


 え?今朝のあれより大きくなるの?


「キャロラインが俺のを受け入れるには、一日かけて解さないと無理だろうからな」

「一日……」


 昨日の恥ずかしい行為を丸々一日……。


 昨日は無我夢中というか、ロベルトに翻弄されてアレやコレやされるがまま受け入れたが、思い返してみるとあまりに恥ずかしいことをされていた気がする。


「今日は学校だしな。それとも、二人でサボるか?別に俺はかまわんが」


 厳つい男性の流し目、けっこう心臓に悪いです。


 キャロラインは布団を手繰り寄せて抱き締めると、片言のような口調で叫んだ。


「いえ!学校大事!行きましょう、学校!」


 すみません!決意がまだ足りません!


 ロベルトは、フッと微笑むとキャロラインの額にキスを落とした。


「じゃあ、俺はもう帰る。アンリ嬢に声をかけておくな。では、後で学園で」

「はい」


 ロベルトはベッドから下りると、素肌に上着を羽織り、ボタンを首元まで閉めると軽く手を上げて出て行った。


「ロベルト様……」


 キャロラインはアンリが部屋にやってくるまで、ベッドの中に残るロベルトの香りにジタバタと悶えていた。

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