第14話 初デートと貪欲ヒロイン2

「ロベルト先輩、去年の武術大会ステキでした。剣、槍、格闘の三冠なんて、史上初じゃないですか?しかも、二年連続三冠、一年の時から剣と格闘の二冠なんですよね?無茶苦茶カッコイイです!今年は出場するんですか?もはや殿堂入りとか?」

「いや、まぁ、もう最終学年になるからな、今年は……」


 秋終盤になると、カザン王立魔法学園では文化祭を、カザン王立魔法騎士学園では武術大会を同時に開催する。文化祭、武術大会を合わせて学園祭としているのだが、もちろんお互いに見学自由で、保護者も冬の社交界が始まる時期なので、少し早く王都入りして学園祭を楽しみ、ちょっとした王都のイベントの一つとなっている。


 キャロラインは今まで騎士学園には関わらないようにしていたから、武術大会の方は見に行くこともなかったが、もし一年の時から武術大会を見に行っていれば、もっと早くにロベルトを知るきっかけになったかもしれないと思うと残念でならなかった。


「ロベルト様、凄いです。私、武術大会は見に行ったことなかったんですが、ロベルト様が勝つところ、見てみたかったな」


 キャロラインが残念そうに言うと、ロベルトはさっきまで出場はしないような雰囲気を出していたのが一転して、軽く咳払いしてから出場する意向を示した。


「出る。出場する。キャロラインが見に来てくれるならな」

「もちろん行きます!差し入れもしちゃいますよ」

「それは楽しみだ」


 ロベルトがキャロラインに向けて眼光を緩めると、リーゼロッテは明らかに不機嫌そうな表情を見せる。

 どうやら、自分がいつも会話の中心にいないと嫌なかまってちゃんタイプらしい。


「お二人は、どういったご関係ですか?いや、不躾に失礼しました。僕は魔法学園二年のミカエルです。教会出身なので家名はありません」

「ああ、君が。ロベルト・シュバルツだ。では、キャロラインとは同級生か」

「クラスは違いますが」

「ミカはA組だもんね」


 魔法学園だから、クラスは上級魔法もしくは複属性持ちのA組と中級以下で単属性持ちのB組に分かれる。キャロラインはB組だった。

 ちなみに、魔法騎士学園は魔法、技術、学力をトータルした成績順で一組から三組まである。ロベルトは一年から一組で、リーゼロッテは入学当初は三組だったが、二年は二組、三年生になれば一組になるだろう。学力、技術は今一だが、上級魔法を使えるロイドやアレクサンダー、特殊魔法のミカエルの魔力を吸収しているおかげで、魔法特性だけ極端に跳ね上がった結果だ。

 他人のおかげと言えばそれまでだが、それがリーゼロッテの魔法属性なのだから、ズルイとかそういう話にはなっていない。


 リーゼロッテは、ミカエルがA組なのを、自分のことのように誇らしげにしている。


「やぁね、ミカったら。たいした関係な訳ないじゃない」

「婚約を考えている。というか、現在ハンメル侯爵に打診をしているところだ」


 ハッキリと告げてくれたロベルトに、キャロラインはキュンとときめいてしまう。


「ま……まだ婚約してないなら、ただのお友達だよね。そんなことより、ロベルト先輩、光以外の全属性持ちって本当?」

「え?」


 魔法属性については、国には申告するし、学園に入学する時にも申告はするが、自分の属性をあまり大っぴらに公言することはない。学園生活を送っていると、授業とかの関係でおおよその予想はつくが、面と向かって尋ねるのは失礼にあたる。

 それを面と向かって尋ねるリーゼロッテにもビックリだが、ロベルトが王族にもめったにいない五属性持ちだということにも驚きだ。


「しかも、三属性の上級魔法を使えるって聞いたんだけど、さすがにそれはガセだよね」

「リーゼ!失礼だよ」

「だって、気になるじゃん。ミカだって気になるでしょ?」


 ミカエルに叱責されるも、リーゼロッテはあっけらかんとしていた。それどころか、ロベルトの腕にさり気なく触れ、「ねぇねぇ、どうなんですか?」とか言っている。


「それは本当だが、リーゼロッテ嬢には関係ない話だ」


 可愛らしいリーゼロッテに触られ緊張しているのか、それとも本当に不愉快なのか(キャロライン的には後者であって欲しいところだが)、ロベルトの眉間に深い皺が寄っている。


「えー?関係ありありだよー。私、吸収の無属性なの。有名だと思ってたんだけど、ロベルト先輩は知らなかった?」

「聞いたことはあるが、それがなんだ」


 リーゼロッテは上目使いでロベルトを見ながら、ロベルトの太腿に手を添える。


「魔力の高い人と触れ合うと、私の魔力も上がるんだよね。ラインハルト様の命令で、高位魔力の人達とバランス良く接触しないといけなくて、三属性も上級魔法が使えるロベルト先輩なら、バランスも取りやすいかなって。もちろん、キスでもいいんだけど、より効率良く接種するには、やっぱり……ね?」


 つまり、第一王子であるラインハルトの命令だから、ロベルトともキス以上の関係を持ちたいと、婚約者(仮)の前で堂々と言っている?!

 あまりの面の皮の厚さというか、破廉恥さに、キャロラインは怒るよりも先に唖然としてしまった。


「なんか、ロベルト先輩って怖いイメージがあったから敬遠してたんだけど、よく見たら硬派は感じで男前だし、ちょっとガタイが良過ぎるけど、そういうタイプ今までいなかったから逆に新鮮って感じ?ミカみたいにいかにも美男子ってのばっかだと飽きちゃうじゃん。たまにはザ・漢みたいなのもいいかなって」

「それは、俺と閨を共にしたいと言っているのか?」


 エッ?!もしかしてヤる気満々?


 キャロラインはショックのあまりに、無表情になってしまっていた。硬直して口も挟めないキャロラインに、隣に座るミカエルが同情するように声をかける。


「リーゼの魔力の底上げは、殿下の命令みたいなものだ。吸収の無属性に魔力を提供するのは、国民の義務と考えればいい。それに、魔力の器がいっぱいにならなければ孕むこともないから心配はいらない」


 いやいやいや、浮気は駄目でしょ?国民の義務で浮気が認められるとか、意味がわからないからね。


 なによりも、ロベルトにリーゼロッテとの浮気の意思ありということならば、いくらキャロラインに気持ちがあろうとも、この結婚を進める訳にはいかなかった。


 無属性の特色故にだ。


 反射の無属性持ちは、身体を繋げた相手から与えられる精から、魔力のみを反射して返す特性もある。その為に、パートナーの魔力は一時的にブースト状態になり、さらに身体を繋げれば、魔力はカンストする。その状態でパートナーが吸収の無属性持ちと交われば、それこそ魔力の器が溢れ返る程の魔力を吸収の無属性持ちに与えることができる。

 つまり、無敵状態の出来上がりだ。


 吸収と反射の無属性持ちを妃に迎えた王は、世界の覇者にもなれる。大袈裟な話ではなく事実であった。


 ロベルトがリーゼロッテと関係を持つことを義務だと受け入れるのならば、……キャロラインはこの国を出ようと覚悟する。側にいて、ロベルトとリーゼロッテの関係を見続けるのは地獄だろうから。


「やだァッ!そんなはっきり言われたら恥ずかしいからぁ。でも、まぁそういうことかな。ミカもロイもアレクも、みんな魔力提供者なんだ。だから、ロベルト先輩の相手をしても多分壊れないと思うな。ロベルト先輩のって規格外っぽいから、初めての娘とかじゃ絶対に無理じゃん。私となら楽しめるよ」

「なるほどな」


 リーゼロッテは可愛らしい顔を一変、艶めかしい女の笑みを浮かべた。


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