第12話 デートの申し込み
「ロベルト様!」
キャロラインは生徒会サロンでの昼食会の後、昼休みも残りわずかな中
ロベルトを探して駆け回っていた。
昼休みは図書館にいることが多いと聞いたから図書館に行ってみたがいなくて、教室に行ってロベルトの所在をランデルに訪ねたら鍛錬場にいると聞いて急いで向かった。
鍛錬場につくと、上半身裸で剣を振るうロベルトがそこにいた。
逞しい筋肉はさらに盛り上がり、身体からは湯気がたつほどに上気していた。
キャロラインは、思わずロベルトに見惚れてしまう。
私の婚約者(仮)、
「キャロライン?」
タオルで汗を拭きながらキャロラインに気がついてくれたロベルトは、すぐにキャロラインの側に来てくれる。
「ロベルト様、お疲れ様です。今日は図書館ではないんですね」
「あぁ、今日はなんとなく身体を動かしたくてな」
実は生徒会に呼び出されたキャロラインが気になりすぎて、本を読んでいる場合じゃなかったのだ。
「あ、髪も濡れてますよ」
キャロラインは背伸びをしてロベルトの髪の毛を拭く。その近さにロベルトはドキドキしているのだが、全く表情に表れていない。
「ありがとう。で、どうだった?生徒会」
「それ!それでお話が!」
クワッと目を見開き、頭を拭いていたタオルの端を握りしめて、ロベルトの頭をタオルでグイッと引き寄せた。もちろん、キャロラインの力なんかで動く柔なロベルトではないのだが、引っ張られるままにキャロラインに顔を寄せる。
背を丸め、近くなった距離のせいか、キャロラインから微かに百合のような清純な匂いが漂う。
一瞬フラフラと引き寄せられそうになったが、ここは鍛錬場であったことをすぐに思い出した。そして自分が鍛錬の後で汗臭いことも。
ロベルトがこんなに精神力を費やして足を踏ん張ったことがあっただろうか?
「キャロライン、その……距離が少し近い。汗臭いから」
「あ!ごめんなさい」
キャロラインはあと数センチくらいの距離まで近寄ったロベルトの顔に見惚れていたが、困ったようなロベルトの口調に気がついて、パッとタオルから手を離した。つい話すことも忘れて、貴族令嬢としてはあるまじき距離まで近寄ってしまっていた。
ロベルトは頭にかかっていたタオルを首元にかけ、鍛錬場の隅にあるベンチを指し示し、二人で並んで座った。
「それで話とは?」
「そう!大変なんです!婚約ができないかもしれなくて」
「は?……それはハンメル侯爵に反対されて……ではないな。まだ、昨日早馬を出したばかりだ。ハンメル領にもついていないか。では何で?」
「第一王子が言ってたんです。王子の婚約者が決まっていないから、王子と年頃の合う伯爵か侯爵以上の令嬢の婚約は認められないだろうって」
「そんな話聞いていないが……」
今まさに、ハンメル侯爵家とシュバルツ辺境伯家の婚約を阻止しようと動いているのだから、ロベルトが知らないのも無理はない。
「私……、できれば来年ロベルト様が卒業する時に、ロベルト様と結婚して辺境に行きたいんです。一年間も遠距離なんて嫌だもの」
「そりゃ、俺もキャロラインについてきて欲しいとは思う。でも、そうすると学園を停学することになるだろう。それはキャロラインの勉学の可能性を奪うことになる」
その前に、学園に残ってゲームの強制力が働いたら、勉学の可能性どころか人生の可能性が奪われかねないのですよ!
「もしそうだとしても!私はロベルト様の側で生きていたいです!」
「キャロライン……」
ロベルトは感極まったように、キャロラインを抱き締めた。
ロベルトの生雄っぱいの弾力に、鼻血が……。いや、鼻血を出している場合じゃない!
「とりあえず、婚約届けを出してみましょう!今すぐ。もしかしたら、第一王子が大袈裟に言っただけかもしれないし」
「いや、しかし、ご両親の承諾がまだ」
「もしかして、ロベルト様のご両親は反対しそうですか?私、昨日も言いましたが身体は丈夫です。過酷な辺境な生活にも耐えられると思います。体力も……これから鍛えます」
「うちは、嫁に来てくれるだけで万々歳だと思うぞ。それに、辺境の生活はそこまで過酷ではないと思う。確かに北に位置するから寒さは厳しいが、その分暖房系魔導具は発展してるしな」
「寒さなら任せてください!」
自信満々、ない胸をドンと叩くキャロラインだ。
「それは頼もしいな。でも、問題はうちじゃなくて侯爵家の方だろう。大切な娘を、辺境伯なんて田舎貴族の元に嫁がせたくはないだろうから」
「それは、秘策があります」
「秘策?」
「はい、私も実家に手紙を書きましたから。母を味方につければ問題なしなんです。父は母にベダ惚れですから、母がロベルト様を推せば、父は絶対に落ちます!」
「それにしても、やはりちゃんと承諾を受けてからでないとな」
「そう……ですよね」
キャロラインは、シュンと項垂れてしまう。そんなキャロラインの頭に、大きな分厚い手がのせられた。
「それだけ俺との婚約を真剣に考えていてくれて嬉しいよ。大丈夫、もし王家の理由でしばらく婚約できなくても、俺はキャロラインを諦めることはないから」
「ロベルト様……」
二人で見つめ合い、ロベルトの手がキャロラインの肩に添えられた。
この流れはもしや初チュー?!
キャロラインは頬を染め、ゆっくりと目を閉じた。ロベルトの熱が近づいてくるのが目を閉じていてもわかり、そして……。
「ロベルト!もう午後の授業始まるぞ!」
生徒達が多数、ドカドカと鍛錬場に入ってきてロベルトに声をかけた。どうやらロベルトのクラスメイトらしく、午後一の授業はここで行なわれるようだ。キャロラインの姿はロベルトの大きな背中のせいで見えていなかったのか、「ロベルト!整列しとかないとどやされるぞ!」などと叫んでいる。
「……クソッ」
目を開くと、顔を赤くして横を向いて悪態をつくロベルトがいた。その表情が可愛くて、思わずキャロラインはクスクス笑ってしまった。アンリ以外の前で、こんなに表情を崩して笑ったのは初めてかもしれない。
「……可愛いな」
愛おしそうにキャロラインの頬を指の背で撫でるロベルトに、キャロラインはキュンキュンしてしまう。
むしろ可愛いのはロベルトの方だ。
厳つい顔が自分にだけ緩むとか、これを可愛いと言わずに何を可愛いと言うのか?!
乙女ゲームのイケメンに萌えていた前世の自分に言いたい!
男は顔じゃない!筋肉だ!!……違った。真実の萌えは、厳つい男子が自分にだけ見せる蕩けるような笑顔だ。
午後の授業が始まってしまった為、キャロラインは後ろ髪を引かれる思いで戻ることを告げた。
ロベルトの陰から立ち上がったキャロラインに、初めてキャロラインの存在を知ったロベルトのクラスメイト達は、「なんだ?誰だ?」とざわめいている。
「キャロライン、放課後用事はあるだろうか?」
「ないですよ」
「じゃあ、お茶でも……その、どうだろうか?」
もしかして、初デート?!
「もちろん!……ぃぇ、喜んで」
思わず大きな声で答えてしまったキャロラインは、恥ずかしそうに頬を染め、小さな声で続けた。
そのキャロラインの恋する乙女が醸し出す甘い雰囲気と、いつもは厳つい表情を崩さないロベルトのデレた表情に、ロベルトのクラスメイト達のザワメキはピークをむかえた。
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