第272話 香具師・ 鐘屋

龍一郎が店先への廊下を歩きながら言った。

「平太、其方の親父殿に馬喰町の香具師・ 鐘屋斬次郎について知っておる事を尋ねて参れ、雪、気配が隠し切れておらぬ、心の平静を精進せい」

「龍一郎様、平太殿と雪ちゃんが居られるので御座いますか」

「弥生、龍一郎様が独白を言う訳が無いでしょう、私たちの結界の力不足です、精進しましょう」

「はい、お姉様」

三人は店先で番頭を始め、奉公人たちに挨拶してお店を後にした。

三人がゆったりと物見遊山の様に馬喰町に歩いていると龍一郎の隣に清吉が寄ってきた。

「龍一郎様、ご苦労様に御座います、倅から聞きましたが馬喰町の香具師・鐘屋の事を知りたいとの言伝でしたが」

「佐紀の実家へ龍之介を連れて里帰りをしたのだが、またぞろ諸場代を取る輩がおる様でな、丁度、そ奴らが来たでな、後の姉妹が退治したが、此れからも迷惑を掛けそうでな、この際、始末をと思うのだが、退治して御法に触れる事は有るや無しやが知りとうてな」

「はい、阿漕な商いで南北の奉行所も目を付けて居りました、証拠も整いましたので手入れも間近で御座いました、手下を月番の南へ走らせて居ります、追っ付、十兵衛様が参る事でしょう、龍一郎様が出張って下さると知れば十兵衛様も喜んで参りますよ」

「それは良い知らせじゃ、あの世へ送る事は簡単なれど御法には反したくは無いでな、葉月、弥生、お上のお墨付はじゃ、存分に成敗致せ、但し、余り、血を見せるで無いぞ」

「血は駄目ですか、弥生、だそうですよ」

「龍一郎様の詰まらない処はそこね」

「何とも可愛い顔の娘子の言葉とは思えませんなぁ~」

清吉が後を歩く姉妹の非情さに驚きの言葉を漏らした。

「清吉殿、それだけ過酷な暮らしをしておったと言う事じゃ、慣れるに刻がいろう」


龍之介を葉月から渡された佐紀から滝が受け取った。

龍之介は上機嫌で「きゃ、きゃ」と何が嬉しいのか笑っていた。

「母上、私達が此処に参りますと何かが起こります、どうして、困り事がありましたなら知らせては貰えないのですか」

「お前は、小さかったから知らないでしょうねぇ~、こんな事は今に始まった事では無いのですよ、何時の世もあった事なのです」

「祭りの刻の小店の場所を決める刻、借りる刻、元締めの親分に場所の代金を払う事から始まったと言われてします、お店になっても土地の親分に守り金を払うのは習わしだったのです」

「お店の持ち主は、その親分でも無いのにでしょうか」

「そうじゃよ、守り金と言ったじゃろう、嫌がらせや悪さをする者が居たなら追っ払ってくれるのじゃ、じゃがな、金子を払わんとな、その守り役を申し出た親分が嫌がらせをするのじゃよ、払う事になる訳じゃよ、処が何時の頃か、用心棒を雇うお店が増え出し守り金を払わなくなったのじゃ、だがな、やくざの親分に払う守り金よりも用心棒代の方が金子が掛かるのじゃよ、まぁ、用心棒を雇い入れるお店は何かの悪さをしておるじゃろうのぉ~」

「では、私が住まいしていた頃は何処かの親分に守り金を払っていたのですか」

「そうじゃ、誰にかは親分が違う親分との勝負、力比べで決まる様じゃ」

「あぁ、それが縄張りと申すものなのですね」

「そうじゃ」

「辰三と申す者が居なくなり、今度はその香具師ですか」

「此処だけの話だが、刻には奉行所の役人もおった刻もあったな、これは、一番始末が悪い」

「訴える事も出来ませぬな、今の話ですか」

「いや、今では無い、その役人は捕縛された、読売にもなったで、其方も知っておると思うたがな」

「あぁ、あの方々ですか、今後は、是非にもお知らせ下さいな」

「願っても良いのか」

「はい、お待ちしております」

「待たれてもなぁ、何も無い方が良い」

「ごもっともです」


「清吉殿、その香具師の詳しい話を聞こうか」

「はい、馬喰町に店を構える先代からの香具師の元締めで御座います。

先代は祭りの場所割りを生業(なりわい)にするだけの地元の方々に慕われた親分でした。

先代から当代に代替わりしてからいろいろと手を広げまして店も大きく、奉公人も多くなりましたんで。

博打、下賤、諸場代、強請、たかり、人質身代金、無銭飲食、世の中の悪さの限りを尽くしている様です。

幾つかの証しは手にして居りますので、存分に仕置きをお願い申します」

「だそうだ、葉月、弥生、存分に致せ」

「血を見せても宜しいのですか、龍一郎様」

「構わぬ、但し、あの世には行かしてはならぬ、楽にあの世に送ってなるものか、この先の世を苦しんでもらう」

「成程、あの世に送るは楽なのですね、解りました、後悔の生き地獄を過ごして貰う事にしましょう」

「もう一つ、恨みをこの先、我らの仲間に向かぬ様にせねばな」

「・・・難しいですねぇ~、考えます」

姉妹は小声で話合いを始めた。

「当代の元締めは鐘屋斬次郎、腹心は頭の勘吉と申します。

地元の与太者ども、関八州から流れて来た与太者に浪人が多数おりまして、潰れた道場の主もおります。

皆で六十人を越える者たちがおります、他に賄いの女子衆(おなごし)が七人おります、この者たちは人質で御座います。

女子の中には他に二人おりますが、一人は斬次郎の女房、今、一人は勘吉の女房です。

幸いにも子供は居りません」

「聞いたな、葉月、弥生、七人の女子衆には手を出すで無いぞ」

「畏まりました、手向かいしなければ、手を出しませぬ、弥生、其方は熱くなってはなりませぬぞ」

「はい、葉月姉さん、私も龍一郎様にお会いして、少しは丸くなったと思います」


「さてと、あの仰々しい看板のお店(たな)で御座いますよ」

お店の玄関上には金色で縁取りされた大きな鐘屋と書かれた看板が掛かり、玄関の両側にも大きな金飾りの看板が縦書きに書かれて掛かっていた。

「何とも、何とも、仰々しい看板じゃな」

龍一郎と清吉はお店の前に着くと日陰で立ち止まり、後の姉妹も日陰に入り、眼を暗闇に慣らした。

「龍一郎様、お任せ頂けますか」

「任せよう」

「はい、ありがとう御座います」

「お任せ下さい」

姉妹は瞑っていた眼を薄く開けると玄関の敷居を跨いだ。

姉妹が中に入ったが龍一郎と清吉は玄関の外の両側に張り付いた。

「てめいら何の様だ・・・おぉ~、良い女じゃねーか、ありゃ、同じ顔じゃね~かよ」

「本当だ、武家娘の良い女が香具師に何の様だってんだよ~」

「はい、皆さまがたを成敗に参りました、親分さんは居られますか」

「何だと~、成敗だと~、誰が成敗するって言うんだよ」

「あら、私たちが全員を始末しますが、何か問題でも御座いますか」

「てめいに若い女が出来る訳無いだろうが、夜這い事も対外に仕上がれ」

「では、証しに一人だけ痛い目に合って貰います、もう一人が奥に知らせて下さいな」

弥生が言うや一人の若者が悲鳴を上げ、左腕が変な方向に向いて痛みに喚いていた。

「奥に知らせに行きなさい、と申しました、行かぬなら、其方も同じ眼に合いますか」

驚きに固まっていた男は「わぁ、わぁ、お・や・ぶ~ん」と叫びながら、奥へと走って行った。

弥生が右手を摩って言った。

「葉月、姉様、素手で骨を折ると手が少々痛みます、鍛錬が足りぬ様です」

「其方が力と速さの程度を考えぬからですよ」

左腕の骨を折られた男は土間で痛みに耐え兼ねて気を失ってしまった。

玄関の脇に佇む清吉が姉妹の会話を聞いて、笑いに吹き出しそうになっていた。


奥からどかどかと男達が現れ、その中の一人が脇の階段を「殴り込みだ~」と叫びながら駆け上って行った。

男達をかき分けて豪奢な着物を着た男が頭の勘吉を従えて現れた。

「殴り込みの奴らは何処へ行った、いねいじゃね~か、あ~あん」

「お・親分、あ・あの娘、二人の娘が辰巳屋で先生がたをやっつけたんですよ~」

不審がる親分に辰巳屋から逃げ戻った頭の勘吉が言った。

「勘吉、てめ~は、あんな小娘にやられやがったのか~、えぇ~」

「・・・」

「其方が馬喰町の香具師の元締め・鐘屋斬次郎ですね」

「皆を置いて逃げた頭の勘吉ではないですか、無事に逃げられたようですね」

葉月と弥生の挑発とも取れる言葉に苛立ちを募らせた親分が頭の勘吉を睨んだ。

「勘吉、てめ~、言った事と違うじゃね~か、仲間を置き去りにてめ~だけで逃げやがったのか、えぇ~」

「・・・」

その刻、二階の踊り場に武家が七人現れ後に呼びに言った男が従っていた。

「殴り込みの奴らは何処に行ったのだ、おい」

武家の中でも浪人とは違う頭分の男が呼びに来た男に言った。

「あの二人の娘なんですよ、お侍」

二階に呼びに行った男は、土間で伸びている男が骨を折られるのを見ていた男だった。

「何だと・・・あの可愛げな娘だと~、解った、片を付けて儂が可愛がったらお前らにやる、好きにしろ」

「へい、お願い申します」

「あらあら、私たちを可愛がって下さるそうですよ、弥生」

「はい、楽しみですね、お姉様、全員が一斉にですよね、久しぶりに楽しめそうです」

「儂が一人で十分じゃ、其方ら二人が相手かな」

階段から降りながら武家が言った。

「お姉様、私が相手して良いですよね」

「そうですね、任せましょう、くれぐれもやり過ぎない様にね、弥生」

「はい、お姉様」

「何~、一人で儂に対すると言うのか・・・本気の様だのぉ~、良かろう、後悔しても知らぬぞ」

「大丈夫ですかい、先生、偉く自信たっぷりですぜ」

「馬鹿にするで無い、儂を誰だと思っておる、元とは言え、鍛錬所の所長だった男である」

「へい、先生にお任せしますぜ」

親分は元・鍛錬所の所長の男に任せると言った。

「お姉様、龍一郎様の仰った通りですね、力量が下位の者は相手の力量が解らないのですね」

「回りの弱い者に強い、強いと言われ続ければ鼻も高くなり、その鼻に眼が着いて見下ろしているのでしょう、弥生、其方はあの者の弱みが見えますか、其方は本当に上位に居りますか」

「あの先生の階段の降り方と音で足腰の弱さ、鍛錬の怠りを感じます」

「それだけですか、弥生、確かに階段を降りる刻の音が大きい、即ち、体重移動が大き過ぎる、重心の振れと足腰の弱さの現れです、他には、刀の手入れが足りませぬし、手の蛸が消えております、鍛錬をしておらぬ、と言う事です」

「はい、お姉様、勉強になりました」

「何~、儂の足腰が弱っているだと~、刀の手入れが足りぬだと~、豆が無いから鍛錬を怠っているだと~、真に強い者は毎日の鍛錬など要らぬ」

階段を降り、板場に立った先生と呼ばれた武家が言った。

弥生一人が一歩前に出ると右手を後に回すと帯の間から小太刀の木刀を出して正眼に構えた。

「何~、儂を相手に木刀で、それも小太刀で対すると言うか~」

武家は暫く弥生を見詰めた後、刀を抜き前に出て構えた。

少し高い板場の武家と土間に立つ弥生一人の戦いとなった。

大勢の男たちが見守る中で武家が睨み、対戦する弥生はうっすらと笑みを浮かべていた。

「そちらが来ないのでしたら、私の方から参りますよ、せ・ん・せ・い」

「何を~、くそ~」

武家が剣を一度、胸に引き寄せ、弥生に向かって刀を振りかぶり、振り下ろしながら突進した。

弥生は振り下ろされる剣を眼で見、肌で感じながら、引き付けるだけ引き付けた。

次の瞬間、武家の振り下ろした剣が地面を抉り、弥生の小太刀様の木刀が武家の右上腕の骨を砕いていた。

「ぎゃ~」

武家の叫び声が土間と板場に響き、多くの男たちを震え上がらせた。

暫くの静寂の後、親分の怒鳴り声が響いた。

「みんなで掛かれ~、叩きのめせ~」

土間に左腕を折られ呻き苦しむ武家を眼にして男たちは尻込みした。

「え~い、てめいら、何で行かね~んだ、たかが小娘じゃね~かよ~、頭~、行け~」

振り返った親分は、其処にいるはずの頭が奥へと逃げたと知り驚いた。

「勘吉のやろう~、逃げやがったな~、行け~、行んなら儂がお前らを斬るぞ~」

元締め・鐘屋斬次郎が左手に下げ持っていた刀を右手で抜き、回りの配下の者たちを威嚇した。

回りの配下たちは、親分から離れて遠巻きにした。

「あらあら、香具師の元締めの鐘屋斬次郎さん、どうします、誰もいませんよ、どうです、親分の威厳を配下の皆さんの前で見せてわ」

葉月が親分に挑発の言葉を投げた。

「くそ~、てめいら~、後で痛い眼に合わせてやるから、覚えていやがれよ~」

怒鳴り散らす親分の元締め・鐘屋斬次郎にゆっくりと弥生が近づいて行った。

弥生が板場に片足を掛け様とした途端に親分が刀を振りかぶり打ち下ろした。

弥生は一歩、後に下がり剣を躱すと元締め・鐘屋斬次郎の両腕の上腕と両足の太腿の骨を叩き折った。

土間と板場に「ボキッ」っと言う音が何度も響き、親分の「ぎゃ~」と言う叫び声が響き、配下の者たちが、その場に腰を抜かして座り込み、中には、弥生に平伏す者もいるほどだった。

「弥生、どうしてくれるのよ、私の出番が無くなってしまったじゃ無いの~」

「だって、お姉様、こんなに、あぁ~、煩いわね」

弥生が二人の倒れ込み泣き叫ぶ親分と武家の二人に木刀で当身を放ち気を失わせた。

「葉月、お姉様、一人残っているのをご存じでしょう」

「そうね、其処の人達、後の戸棚から頭の勘吉さんを出しますか、それとも貴方たちが痛い思いをしますか」

葉月の言葉に一瞬、何事か解らなかった男たちが、一斉に立ち上がり、後の戸棚を開けた。

戸棚の中には頭の勘吉が刀を抱えて震えて丸くなっていた。

「ちぇ、何だよ、儂らよりだらしないじゃね~か、えばりくさっていやがったくせによ~」

一人が頭の刀をひったくり、三人が抱えて板場に放り投げ出した。

「こんな奴を・・・どうしようも無いわね」

「葉月、お姉様、駄目よ、きっと、この男は、勘弁してくれ、と嘆願している者も痛め付けたはずよ、どうなの」

「へい、頭はそんな奴程、痛め着けるのが楽しいと言っておりました」

「ほらね、お姉様、お姉様が嫌なら私がやります」

弥生が頭に近づいて行った。

「弥生、待ちなさい、その獲物は私のものよ」

葉月は回りを見渡し男たちに向かって、底冷えする様な声で言った。

「貴方たちの此れからの行いに寄っては同じ運命が待っています、良く眼に焼き付けて置きなさい」

葉月が弥生に近づき、弥生の木刀を受け取ると頭に近づき、ゆっくりと間を開けて両手両足の骨を叩き折った。

一本折る事に「ボキッ」と骨の折れる音と「ギャ~」と言う悲鳴が続き「勘弁して下さい」と嘆願の言葉が続いたが、葉月は容赦無く、無言で次々と折って行った。

終わった葉月が弥生に木刀を返すと、弥生は木刀を回りの一人の若者に投げた。

投げられた若者は思わず木刀を両手で受け取った。

「木刀を綺麗に洗って来て下さいな、悪を清めて下さいな、貴方が清い心になって居なければなりませぬよ」

「・・・はい」

青年は井戸のある裏庭へと走って行ったが、その後を同じ年頃の二人が追い掛けて行った。

葉月と弥生は元の敷居の側に戻り、板場に立つ男たちを見まわした。

「何方か戦いを望む者は居りますか、階段の武家の方々はどうなさいますか」

呼ばれた階段の途中で立ち止まっていた武士、浪人は無言で首を横に激しく振り戦いを拒んだ。

「兄貴分の方々は宜しいのですか、立場が無くなりますよ、全員で向かって来ても宜しいですよ」

葉月の後に弥生が追い打ちを掛けて挑発したが、誰も乗って来なかった。

「私たちの事をご存じ無いですよね、紹介を致しておりませんでした、失礼を致しました、私たち姉妹は先の天覧大試合で勝者となられた橘龍一郎様と橘佐紀様の弟子で御座います」

男たちの中から「うぉ~」「はひ~」「ひぇ~」などと奇声が上がった。

「仕返ししたければ、何時でも橘の道場にお越し下さい、お待ちして居ります」

「あぁ、言い忘れておりました、親分と頭は南町奉行所のお役人が捕縛に参りますので、ご安心下さい」

「兄貴分の方々の中には捕縛される方もいるでしょう、逃げるも良し、但し、我々が必ず居所を見つけ出します、その刻は捕縛だけとは思わない事です、私は大人しく捕縛に着き、会心し正直に答える事をお勧めします」

「告白致しますと、外に橘龍一郎様が控えておられるのです、私たちが不首尾でも貴方たちには逃げ場は無かったのです、私たちの余裕の意味がお分かり頂けましたか」

玄関から二人の男が顔を覗かせた。

「あぁ、清吉親分」

「おぉ、貞、てめえ~、堅気になったんじゃね~のかよ」

「親分、今度こそ、間違い無く堅気になります、もうこりごりです」

「良し、忘れるんじゃね~ぞ、ほかの者も良く考えな、他人様にご迷惑を掛ける様なら、橘の若先生が許さないと思う事だ、ここだけの話だ、銚子、行徳の悪人退治は誰だと思うかな・・・良く考えてみね~」

その刻、洗った木刀を持って三人の青年が戻って来て、恐る、恐る、木刀を姉妹に差出した。

青年は弥生に戻したかったが双子の区別が付かず、二人の間に差し出していた。

受け取った弥生は木刀を確かめて右手で後ろに回し帯の間に仕舞った。

「龍一郎様、何か御座いますでしょうか」

清吉が龍一郎の言葉を願った。

龍一郎は一言「無い」と言うと気を放った。

前の男たちの座っていた者たちは後に倒れ、階段にいた者たちは階段を滑り落ち、立っていた者たちは、腰砕けに座り込んで仕舞った。

そして、気付くと玄関には誰も居なくなっていた。

「・・・」

「・・・」

「何だったんだ、夢か・・・いや、三人がやられている・・・俺は堅気になるかな~」

「貞、俺も堅気になる、仕事を教えてくれ」

「俺も」

「俺も」

「貞さんは、あの男を清吉親分と言ってたよね」

「あぁ、十手持ちの親分だ、二足の草鞋の親分だがな、副業は船宿・駒清なんだぜ、すげいだろ」

「えぇ~、あの有名な船宿の主なんですかい」

「そうだ、立派だろ、あの人が橘の龍一郎さんの弟子だったんだなぁ~、悪い事が出来る訳も無いや」

「読売になってた、行徳と銚子の悪人退治も清吉親分の手柄なのかい」

「あの読売はさ、何だか奉行所の手柄にしちゃ可笑しい、何時もと違う気がしたんだよ、これで解ったと思ったね、清吉親分の仲間達の手柄なんだと思うね、俺は、あの親分の仲間に逆らう事はしたくねぇ、怖い、御免だね」

「あいつ等は、人じゃねぇ~、化け物か天狗の生まれ替わりだな、そんなもんに逆らえるものか、儂も堅気になろう」

その刻、玄関から南町奉行所の役人たちが入って来た。

無論、先頭は与力の十兵衛だった。

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