第262話 双角と慈恩の役目
最後の夜、集会所の建屋に双角、慈恩、仙太郎、律、次郎太、幸が龍一郎に呼ばれた。
無論、龍一郎の隣には佐紀が居た。
一旦、居間に集まったが、龍一郎が立ち上がり、佐紀が続いて立ち上がった。
「付いて参れ」
龍一郎はそう言うと炊事場に行き隅の扉を操作すると地下への階段が現れ、また何かを触ると階段に沿って火が灯った。
龍一郎が階段を下り始め六人が従い最後に佐紀が階段を降り始める後で扉が閉まった。
六人に取っては初めての場所でまさか何時もの集会所の地下に穴倉、それも木では無く見た事も無い赤い物で作られた処を見せられ、大いに驚いていた。
龍一郎は穴倉の畳の敷かれた一室に皆を入れ座らせた。
「此れから、其方らの役目を伝える。
これは私の願いであって其方らへの命令では無い、嫌ならば為さずとも良い。
私は、江戸の安寧、関八州の安寧、日乃本の安寧を願っている。
まずは江戸の安寧に取り掛かっている。
南北奉行所の粛清もその一つに過ぎぬ。
千代田の城にはまだ手が付けられておらぬ。
江戸の府中の安寧が叶えば、次は四宿、関八州と広げる。
幸い、此度、行徳、銚子との繋がりも出来た。
其方らに役目として願いたいのは、四宿の安寧じゃ。
仙太郎殿、四宿には幕府公認の吉原に取っては商売敵の幕府非公認の遊郭・岡場所があり、飯盛女を抱えた宿屋がある、道中奉行の定めではお客に給仕をする者は一宿に二名までと定めておる、定めの通り二名だけで宿の切り盛りが出来るはずも無い、この者たちが給仕だけでは無く春も売っている。
遊女を置いている色茶屋と呼ばれる茶屋もある。
吉原でも大店は商売敵には成らぬが、中店、小店は商売敵となろう。
裏店の者たちには夜鷹が商売敵となろう。
吉原を管理監督するを役目とする会所が四宿の情報を集めていると思うがどうだな、仙太郎殿」
「流石は龍一郎様、読みが鋭い、吉原の子飼いの情報屋が居ります」
「その者たちが何かを掴んだ刻はどの様に知らせるのですか」
「その者が会所に顔を出すか、文を貰い何処かで会うております」
「四宿に誰か親分を設け情報を集める様にとは考えなんだか」
「四郎兵衛様は考えて居られましたが適任者を見つけられなかった様で御座います」
「吉原が四宿を探索しておる、弾佐衛門殿は如何かな、次郎太殿」
「我らの仲間は江戸中を回っております、探索は江戸中と成りますが、特に四宿には眼を光らせており、四宿からの知らせも多くあります、我らも知らせを纏める者をと考えた様ですが、非人故と申しますか、何時までも定住するとは限りませぬ、親父も諦めた様です」
「そこでお二人にご相談です、此処におる双角と慈恩を吉原の配下の主、非人達の主に如何かと思います」
仙太郎たち四人は驚いたが名指しされた双角、慈恩ね驚いた。
「双角殿と慈恩殿のお二人をで御座いますか」
「本人たちにはまだ伝えてはおりませぬが、慈恩殿には料亭・揚羽亭で板前の修行をお願いしたい、双角殿には清吉殿の配下・正平の蕎麦屋で蕎麦打ちの修行をして貰いたいと思うております、その片手間に双角殿には
千住と板橋の取り纏め役、慈恩殿には品川と新宿の取り纏め役を願いたいのです」
「願っても無い話です、お二人なれば技量と言い体格と言い文句は御座いませぬ、誰もが指示に従う事でしょう」
「私もその様に思います、非人達は残念ですが見た目に心を動かされます、失礼ながら龍一郎様よりも双角殿、慈恩殿に従うでしょう」
「律殿、幸殿は如何かな」
「良い案かと思います」
「私もそう思いますが、後は弾佐右門様のご判断次第に御座います」
「こちらも四郎兵衛様次第に御座います」
「この話、只今、本人たちの了承が得られたならば江戸に帰着したおりに四郎兵衛様、弾佐衛門様にお話下さい・・・さて、双角殿、慈恩殿、腹は決まりましたかな」
「某、道場にて敗れたおりより龍一郎様の配下と思うております、如何様な指示にも従うつもりです」
「私も同様に御座います」
「其方らは私の配下では御座いませぬ、仲間です、誤解の無い様にお願い申します、して返事は如何に」
「お受け致します」
「お受け致します」
「皆に申しておきます、我らは単独で動く事は御座いませぬ、故に四宿へは双角殿、慈恩殿、お二人にて行動して下さい、但し、千住、板橋では慈恩殿は影護衛として、品川、新宿では双角殿が影護衛として動いて下さい」
「龍一郎様と佐紀様は常に御一緒なのですか」
「常にでは御座いませぬ、私は刻に浅草で出掛けたり、実家へ戻ったりと龍一郎様と離れる事も御座います、ですが、そのおりには、舞殿が一緒です、今はお雪殿も一緒です、刻に誠一郎様も御一緒します」
龍一郎に変わって佐紀が答えた。
「失礼ですが誠一郎様と舞様は恋仲で御座いますか」
「行く行くは舞殿を私の妹にし誠一郎様の元に嫁がせる事になると思います」
「その様な事まで・・・本に仲間には秘密は無いのですね」
「はい、御座いませぬ、但し、物事には知らせる時期が御座います、知らぬ方が本人の為と言う事も御座います」
「江戸へ帰着のおりには双角殿、其方の家は船宿・駒清じゃ、慈恩殿、其方は料亭・揚羽亭じゃ、師匠は清吉殿、お駒殿、そしてお高殿、揚羽殿じゃ、心に止め置く様にな」
「ははぁ~」
「はい」
二人は既に根回しが済んでいると感じた。
つまり、お高、揚羽、清吉、お駒、お美津は承知したと言う事である。
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