第252話 丘屋敷裏の地下蔵
江戸へ戻る道を目指したが途中で皆が消え裏から丘の裏の小屋前に現れた。
建屋は養老の里の物よりも二回り程も大きい物だった。
養老の建屋はレンガの壁の外は板張りであったがここの建屋は丸太組みであった。
「ここには仕掛けは無いようじゃな」
「はい、御座いませぬ」
「地下蔵が早く見たいものじゃな」
「龍一郎様と佐紀様には御遠慮頂来まして、他の皆さまは地下への入口がお解りで御座いますか」
皆がいろいろと家中を探し出した。
「おおぉ、厠はここも水で流す様じゃぞ」
「おぉ、竈(かまど)が六つもあるぞ」
「おおぉ、見つけたぞ・・・ありゃ、味噌と醤油と塩しか無いぞ、この塩とも違う白いものは・・・砂糖じゃ」
畳を一枚、一枚持ち上げては戻す者、壁を叩く者、床下を外から覗く者、いろいろ居たが解らなかった。
「富三郎殿、降参じゃぞ、二人を除いたと言う事は龍一郎様と佐紀様は解るのか」
「と思いますが」
「考えたのぉ、富さんや、布団を仕舞った、隣が空いておったのぉ~」
「流石」
「布団を左に動かすと右に・・・ですね」
龍一郎様の後を佐紀が継いだ。
平太が聞いた通りにしたがまだ解らなかった。
佐紀が覗き込み、柱の一か所を動かすと柱の別の処が開き紐が現れた。
平太が紐を引くと右の壁が動き地下への口が開いた。
富三郎が別の紐を引くと火が起こり、その火が地下の壁伝いに下へ向かい地下を照らした。
仕掛けに驚きながらも、富三郎に続いて地下へと降りて行った。
地下はとても大きく広く地下とも思えないもので何よりもの驚きは天井が湾曲しレンガ作りだった事である。
「この丸みのあるレンガの天井が此度の富三郎殿の新たな試みなのじゃな」
「はい」
「見事じゃ、見事、丈夫か」
「以前よりも何倍も丈夫であると確信して居ります」
「此処なれば雨の日も修行が出来ますな、龍一郎様」
「うむ・・・この下は倉庫と宿舎じゃな」
「はい、左様で御座います」
「見せて貰おう」
龍一郎は見ても養老のものと変わらぬと知りながらも富三郎の苦労を思い見分を所望した。
下に明かりの火が入り階段を降りると小部屋が続き食糧倉庫があった。
「寝床の上の凹みは何かな」
「お気付きですか」
富三郎は気が付いてくれた事を事の外喜び、紐を引っ張った。
すると厚い板が倒れ寝床がもう一つ出来た。
「もう一人寝る処で御座います、非常のおりには以前の倍の員数が寝泊り出来ます」
「おおぉ~、良い細工じゃ、工夫したのぉ~」
富三郎は大いに喜んだ、龍一郎に誉められる事は至福の喜びであった。
それは二人だけに限らず皆にも同じ思いであった。
後ろに控えていた富三郎の妻のお景は涙を流し喜んでいた。
「苦労を掛けたな、富三郎、お景・・・ご苦労であった、私と佐紀はたった今、敷地全体を見て回り、丘へも登ってみた、丘は鍛錬用にはいささかの工夫が居ろう、が鍛錬を実際に初めて見ねば解らぬ、敷地の北と西に竹林が有っても良いのでは無いかと思う、また、悪気は無いが忍び込む者を追い払う仕掛けもいる様に思う、考えてはくれまいか」
「畏まりました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます