第249話 新たな家族・姉妹
その日、江戸にいる龍一郎の仲間たちが道場の囲炉裏を囲んで夕餉を食べ酒や茶を飲んでいた。
無論、何時もの様に橘屋敷、料亭・揚羽、船宿・駒清の守りとして少なくとも一人は足りなかった。
夕餉の前に龍一郎から一事あった。
「本来なれば、ここにおる大半のものが里におるべきであるが知っての通りじゃ、これも鍛錬と思うてくれぬか、幸いにも今回のもう一つの丘屋敷の方は何の支障も無い様じゃ、明日から刻のある者は里へ戻ってくれ、皆、ご苦労であった、礼を申す」
「はい」
「さぁ、食うぞ」
何時もの夕餉が始まったのである。
皆が何人かの塊になって話している刻に突然、龍一郎が皆に言った。
「突然で済まぬが儂に付いて来てくれぬか」
佐紀が真っ先にゆっくりと立ち上がり、龍一郎も立ち上がり歩き出した。
残りの皆も立ち上がり後を追った。
龍一郎は道場に入ると見所下の中央に座った。
佐紀が龍一郎の隣に座り、残りの皆は少し離れて龍一郎の方を向いて座った。
「皆、私の方では無く出入口の方を向いてはくれぬか」
皆が龍一郎の言う通りに正面出入口の方を向いた。
龍一郎が誰にとも無く声を掛けた。
「其方らは姉妹ですか、参られよ」
数舜後、道場の中央に二人の薄汚れた服を纏った武士が二人降り立った。
二人は片膝を着いていたが正座に座り直すと覆面を取った。
顔はそれでも判然とせず、暗闇で見え難くする為に墨を塗っている様だった。
「気配は消せても腹が鳴ってはいけませぬ」
佐紀が存在に気付いていたと言った。
「舞、雪、其方らが感じておった何時もと違う違和感の元じゃ」
「はい、夕餉の中程から何やら胸騒ぎとも違う何かを感じておりました」
「私もです」
「儂は何も感じなかった」
「私もです、恥ずかしや」
舞と雪が違和感について語り、小兵衛と三郎太が己の未熟を語った。
「どうじゃ、残り物じゃが奥の囲炉裏で食せぬか」
「我らを信用為さるので御座るか」
「其方らに邪気が感じられぬ、其れとも我らが信じられぬかな」
「言わずとも解っておろうが、儂と隣におる女子は其方らよりも強いし早いぞ」
「はい、十分解って居ります、町内に足を踏み入れました刻に逃げる事を諦めました」
「うむ、良い判断じゃ、あの刻、逃げて居れば今頃はこの床に手足を縛られて気を失っておろうな」
その刻、二人の腹が゛「ぐぅ~」と鳴り、慌てて腹を両手で抑えて恥ずかしそうにした。
「雪、其方の姉様じゃ面倒を見てやれ、舞、其方と同じ年頃であろう着る物を用意してあげなされ」
龍一郎は既に仲間になった者を扱う様にさっさと奥の囲炉裏端へと戻って行った。
舞と雪が握り飯を二個づつ食べさせ風呂に入れ舞の着物を着させ髪を整えて囲炉裏端に連れて来た。
皆が「おぉ~」と驚きの声を漏らした。
「別嬪さんじゃのぉ~」
最初に小兵衛が漏らした言葉だった。
「何故に龍一郎様の周りには綺麗な娘子が集まるのかね~」
お駒が自分も含めて宣った。
舞と雪の間に席を設けた。
「私らも二度目の夕餉、遠慮のぉ~たんと食べなされ」
お久が優しく声を掛け、二人が周りの人達を見ると皆がほほ笑んでいた。
二人はこんなに優しい笑顔は初めてで大勢なのにも驚いていた。
二人は長い年月、信じては裏切られ、信じては裏切られ続けて、人を他人を信じる事は止めようと決めていたが今回だけはもう一度信じてみようと機せずして二人は思った。
最初、二人はわいわいがやがやと食べて飲んで笑っている皆を見ているだけだったが気が付いて見ると二人も笑い自分たちの過去を語っていた。
他人に騙され売られそうになった事、身を守る為に山に籠り身体を鍛え剣術の稽古をし瞑想し心を鍛えた事などを語っていた。
人に騙された事を語った刻など皆に馬鹿じゃないのなどと笑われたが此れまでと異なり嫌な気持ちにならない不思議を感じ笑われた事に喜びを感じた。
「さてと、今宵は新たな仲間が二人も増えたで何時もよりも遅うなった、舞、雪、二人の寝床を頼む、皆、お休みなされ」
「お休みなさい」
龍一郎の就寝の挨拶を潮に夕餉が終わった。
皆で後片付けをし皆が自分たちの寝床へ向かった。
二人は舞と雪に案内されて二人の部屋へ入った。
其処は広い部屋で四人が寝ても広々としていた。
「姉様、私は此処が気に入りました、私は此処にずっと居たい」
「私もです」
「何を馬鹿な事を言っているの、此処はもう貴方たちの家よ」
「お休み」
「お休みなさい」
「我が家・・・か~」
「・・・私も解るわ」
雪が夢の世界に入る前にぽつりと言った。
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