第226話 天狗様の下調べ

「平太、お雪と共に事の経緯を龍一郎様にお伝えいに行け、今夜にも銚子と行徳へ仔細を集めに行く事になろう」

三郎太が仲間内にだけ聞こえる様に伝えた。

三郎太の命令通りに平太とお雪が村長の家から退去し養老の里へと向かった。


「おまんらの処は天狗様に何を願うんじゃ」

「おぉそうじゃ、話が面白うて忘れとった、儂らは行徳の者じゃ塩田で塩を作っとる」

「待った、待った、ちっととは言え、儂らの方が先じゃった、儂らの話を先に聞いてくんろ」

「なぁ、天狗様は、そげな心の狭い人の願いば聞くかのぉ~」

「・・・解った、行徳の先に話んさい」

「行徳は塩作りで知られとる実入りが良いそうな村は銭持ちじゃろう」

「儂らの村の年貢は米と塩じゃ、塩の割合が多い」

「塩ちゅうたら明石じゃろう」

「馬鹿扱け、明石の塩は高値じゃ、儂らが使うとる塩は行徳物じゃ」

「ほうか、そりゃ知らんかった、その塩がどうした、行徳の人」

「盗まれた、蔵に有ったもんも全部取られた、盗まれた、50両にはなろう、痛い、悔しい」

「塩作りは手間も暇も掛かろうになぁ~、何人の手間じゃ」

「二百人は超えとる」

「二百人の食い扶持を獲られたか、一回でか」

「うんにゃ、三晩でじゃった、一回目の後に村の若いもんが三人で夜番をしとった、朝には頭にこぶを作って見つかった、その日に浪人者を四人雇った、四日目の朝に死体で見つかった、役人の話じゃ斬った奴は一人で凄い剣の達人だそうな、そげな訳で天狗様にお願いに来ただよ、すまんのぉ銚子の方よ、後から来た儂らが先に聞いてもろうてよぉ」

「気にする事は無いぞな、難儀は同じじゃ」

「すまん、そんで銚子の方、おまんの方はどない災難じゃ」

「儂ん処はちょっと不思議じゃど、鯛(タイ)と鱚(キス)の二つの魚だけが盗まれよる、そんで剣の鍛錬所に警護を願っただよ、そったらその鍛錬所の奴らも賊どもの仲間になり腐った、儂らは江戸ん魚河岸からの催促にんどうもならんで困っとる」

「ほう、鯛は高かろうが鱚も高いかのぉ~」

「うんにゃ~高うは無い、最初はよ全部盗まれて二つ以外は捨てられとったで分けといたら二つだけ盗んで行き居った、何でか儂には解らん、がじゃ鍛錬所の奴らが仲間になってからは全部持って行かれる様になった、儂らの食い扶持が全部持って行かれとる」

「銚子も行徳も皆の食い扶持を取られとるてか、そりゃ難儀な事じゃのぉ~」


この時点で三郎太は誠一郎と舞に龍一郎に知らせに戻し、三郎太とお有の二人が残った。

だが、この後にはなんら情報が得られる様子は無く一刻程して三郎太、お有は里へと戻って行った。

三郎太とお有の二人が里に戻った刻には既に銚子、行徳に調べに人が派遣されていた。

行徳には平太、お雪、双角の三人で銚子には誠一郎、舞、慈恩の三人だった。

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