第218話 レンガ作り

天狗山の天狗たちは朝の山修行、午後の剣術修行、体術修行を毎日行い、合間に近郊の村、町の山賊に寄る被害を聞き込み、夜は大山の山賊を見張っていた。

江戸組の今回の山修行の目的たるレンガ作りも当然行われていた。

レンガ作りを始めるに当たり龍一郎様は、その目指す処を甚八を始め組頭を集めて話をした。

「江戸の外れに新たに領地を得る事が出来ました」

聞いている者たちから「おぉ~」と言う驚きとも喜びともとれる声が上がった。

「その広さは四十万坪じゃ」

今度は「うぉ~」と言う雄叫びと「えぇ~」と言う真偽を疑う声が聞こえた。

「敷地のほとんどが林でな、我らの修行に適しておる、その守りを甚八・・・其方らに任せたい」

名指しされた甚八は息を呑んだ。

「真で御座いますか、我らに・・・」

「其方に守って頂く処が三か所になりますが、お任せして宜しいですか」

「龍一郎様は我らが統領で御座います、任せるとお申し付け下さい」

甚八の配下の者たちが龍一郎を見つめて頷いた。

「ありがとう、お願い致す、ついては、その領地にここの地下蔵と同じ物を作りたいと考えた、その為の資材がいる、皆も見た様にレンガと言う富三郎殿が西洋から取り入れた物を使っておる、これを作らねばならぬ、それも大量にじゃ、その数、少なくとも十万になろう」

「十万・・・ここの蔵にもその数を作られましたか」

「ここの蔵はもそっと多い、凡そ二十万であろうな」

「二十万・・・途方も無い数で御座いますなぁ~、それを富三郎殿は作られた・・・」

「我らも手伝うたのが、そのほとんどは富三郎殿が作られた、蔵作りもじゃ」

「富三郎殿は凄いお方ですなぁ~、此度も富三郎殿が作られますか、そう言われれば此度は富三郎殿が居られませぬが・・・」

「此度、江戸にて地下蔵と建屋と武家屋敷の絵図面を書いてもろうておる」

「武家屋敷と申されましたか」

「左様、敷地の持ち主を武家と思わせる為に武家屋敷を建てるつもりじゃ、そこに其方の配下の者を住まわせてもらう事になろう」

「武家屋敷住まいとなりますと衣装、髷、刀、言葉使いを武家物にせねばなりませぬな」

「其方の役宅の者の別邸と思うてくれれば良い」

「解りました、その領地に地下蔵を作り、その上に建屋を作り、表向きは武家屋敷とする訳ですな」

「左様、富三郎殿の役目が大変でな、出来るだけ富三郎殿の負担を少なくして上げたいと思うております。

窯はあります、レンガの元の土の在りかも解っております、明日から私が手始めに作って見ます、皆は記録し覚えて下され」

「畏まりました、皆で富三郎殿の仕事を少しでも楽に致しましょう」

「レンガ一つの長さは六寸九分三厘、幅は三寸三分、高さは一寸九分八厘です。

幸い以前の物が百個あります、その百個でまずは試しをしてみましょう、見て覚えて下さい」


龍一郎は以前、富三郎が掘っていた場所で土を荷車に乗せて運び出す処から始めた。

捏ねて木型に詰めて乾かし、次に窯に乾かしたレンガを入れて火を起こし窯に蓋をした。

冷やす刻を過ごし三日後に確かめると全て完璧に出来ていた。

平四郎、三郎太ら以前のレンガ作りを知る者は、今更ながらに龍一郎の凄さに驚きもし尊敬の念が増した。

それはレンガ作りの難しさを知っているからであった。

二度目は甚八の指揮の元、レンガ作りが行われた、無論、龍一郎の監督の元である事は言うまだも無い。


最初は捏ねが足りず焼き上がりの半分がひび割れてしまった。

甚八の指揮の元、二度目以降は一、二個がひび割れただけで殆どが使える物だった。

それからはレンガの元の土堀り、土捏ね、木枠作り、木枠への土盛り、日干し、窯入れと係を分担し大量に作る仕組みにした。

毎日、早朝の山修行の後の昼餉の前と昼からの剣と体術の修行の後の夕餉の前にレンガ作りの刻とした。

十日が過ぎた頃、レンガの数は五百個を超えていて、使える物が出来る率も上がっていた。

「我らも何とか使える物が出来る様になりました、此度の江戸への数を終えましたなら、此処でも、もう一つ、二つの穴蔵を作ろうかと思うて居ります、宜しいでしょうか」

「それは良い、さすればレンガを使った蔵作りの技の継承されよう、五年、十年に一つ作る様にすれば継承されよう」

「それは良き考えで御座います、四年に一度の村の行事、習わしと致します」

「祭りじゃな」


第一陣として二百個が大八車に積まれ送る事になった。

甚八の配下たちは雑木林の処を知らぬ故に江戸組の付き添いが要った。

三郎太が名乗り出てくれたが、三郎太には平太がおり、平太にはお雪がおり、お雪の鍛錬も今回の山修行の目的の一つであるが故に平四郎とお峰に託された。

運ぶ係を任された甚八の配下は七名で中には佐助も志願して入っていた。

平四郎とお峰を加えて九名での行きで、内五名の配下はそのまま新たな領地に留まり江戸組二人と配下二名が空の大八車を引いて戻る事になった。

予定では行きに四日、帰りに三日と目視ていたが四日と半日で戻って来た。

「龍一郎様、富三郎と繋ぎを取りましたのか」

「いや、取ってはおらぬが、何かあったかな、平四郎殿」

「それが、雑木林に小屋が建っておりまして「レンガ」と書かれた張り紙が御座いました」

「成程のぉ~、それは不思議な事よ・・・富三郎殿の成長も著しいのぉ~」

「繋ぎも無く、富三郎が我らの動きを予期しての行動と思われますか」

「それ以外にあるまい・・・と言う事は富三郎殿には会うては居らぬと言う事か」

「はい、屋敷に寄ろうかとも思いましたが、余計な事と止めにしました」

「良き判断で御座る、今会うた処で話す事もあるまい、富三郎殿の刻を奪うだけじゃ」

「はい、左様考えました」

「平四郎殿も成長なされた様です、それにしても、私の読みより一日早い帰還です」

「私も予想外の事でした、佐助と朋輩の弥一が頑張ってくれました、二人は私の予想以上に成長している模様です、ご確認下さい」

「解りました、弥一に佐助と八重に加わる様に申して下さい」

「私からで御座いますか、龍一郎様からの方が・・・解りました、私から褒美として申し伝えます」

「願おう」

平四郎は龍一郎に集まる皆の敬愛の念を他に広める又は分散させる事と平四郎の弥一に対する評価が正しいものかを確認させる為に平四郎に伝えさせるのだ、と解した。



<参考>ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1間 = 6尺 = 181.8182cm

1尺 = 30.303cm

1寸 = 3.0303cm

・現代のレンガのサイズ ----- 21cm=6.93寸、10cm=3.3寸、6cm=1.98寸

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る