第217話 近在の村長の陳情

天狗の裾の村に近隣の村や町から村長や村人が訪ねて来た。

「まずは、今度の事で礼を言うだ、ありがとよ、恩にきるだ」

「被害が少ないと良んだがのぉ」

「村長は相変わらず四人のままかい」

「そうだ、四人じゃ、悪さも出来めいが」

「儂は悪さなどせんぞ」

「おらもせん」

訪ねて来た村長たちがこぞって反論した。

「んだども、魔が差す~ちゅう事がある~」

四人の村長の一人が言い返した。

「そんたら話で来たんと違う、天狗様の話だぁ~、天狗様はこん村だけでんのうて儂らの村も助けてくれただ、だから~、儂らにも天狗様との繋ぎの方法ば教えてくれんね」

「何じゃと~、天狗様は儂らん村の天狗様じゃど、なしておまんらに教えにゃならん」

「そんなん言うても儂らも助けてくれたぞ」

「そりゃ次はこん村じゃと思うたからじゃ」

「・・・ほなら次じゃ、儂らは天狗様へのお礼に天狗様を祭った社を作りたい思うとる、ついては場所はやっぱり天狗山の麓にしたい、此れなら良かろう、どうじゃ」

「天狗様を祭る社を作りたいとか」

確かめると村長の四人の一人が奥へ一旦引っ込み紙を持って戻って来た。

その紙を開き読み、その後紙面を皆の目に晒し皆に回した。

その紙にはこう書いてあつた。

「我を崇めよ、我を尊べ、社を建てる事を禁ずる、鳥居を建てる事を禁ずる、我が住む山を聖域とせよ」

と書いてあった。

「これも駄目か・・・なんも出来ん」

「儂らは朝起きて、一番に天狗様に今日も一日元気で居られる様にお願いする、夜寝る前に今日も元気で居られた事にお礼を言う、おまんらもそうすりゃ良い」

「・・・」

「そんなもんで良いのかのぉ~」

「なんだかよ~、天狗様に申し訳ねぇ~だよ」

「なして~」

「なしてって、銭も払ろうとらんのに山賊どもを退治してもろうてよ~」

「天狗様は銭など欲しがらん」

「どうしても教えてくれんかのぉ~、天狗様に来て貰ろう方法をなぁ~」

「・・・ほんまの事言うてなぁ~、今度も前も儂らは天狗様になんも頼んどらんのよ、天狗様がご自分で動かれたんだよ」

「ほんまの事かね」

「あぁ、ほんまの事じゃ」

「御代官様が頼みに来られた夜に、この天井から紙が落ちて来たんじゃ、その紙になんもするなて書いてあったんよ、それで次の日にゃ~、山賊どもは退治されたんじゃ」

皆が天井を見上げた。

黒く煤けた天井が見えるだけで何も振っては来なかった。

「はぁ~」

訪ねて来た村長の一人が大きな溜息を着いた。

「これ以上居てもしようがあんめい帰るべぇ~」

「そうすべぇ~か」

「最後にもう一つ、今度また山賊が現れた刻はまた寄せて貰うでな、頼む」

「頼まれてもなぁ~、かと言って拒む事も出来んわなぁ~、解った」

「ありがとうな~」

「ありがとう」

近隣の村長たちが礼を言って帰って行った。


玄関まで見送った四人の村長たちが囲炉裏端に戻って来て座った。

「山賊どもが退治されたのは喜ばしい事なんじゃがなぁ~、儂らはなんもしとらんからなぁ~」

「そこだなぁ~、橘の屋敷に文を送ってもおらんからなぁ~」

「大丈夫だろ、これでまた噂がひろがりゃ~もうこの村の近在には山賊、盗賊は寄り着くめいて」

「そうじゃなぁ~、良し、もっともっと噂を広げるべぇ~」

「そりゃ~良い案だなぁ~」

「おぉ~、そうすべぇ~、そうすべぇ~」

「んだ、んだ」

其れから、暫くは天狗山の村人が噂を広げに近在の村や町に散った。

その日の夜、噂を広めに町に行った村人か゛村長に報告した。

「わざわざ広めに行く事も無かったべ、そりゃ凄い噂でな、儂の方が聞き役じゃった」

「それで、何を聞かされたんだ」

「なんでも山賊は三十人を超えていたとか四十人を超えていたとか、朝早く代官所の前に大八車に乗せられとったらしい、ちゅう話じゃった」

「そんな話がなぁ~、御代官様の申された通りか」

「おらは思っただよ、儂らが天狗様の噂をばら撒いて悪いやつらが来ぬ様にと思うたが、御代官様も同じ事を考えたんじゃなかろかのぉ~とよ」

「そうじゃのぉ~、あり得るわい、あん御代官様は曲者じゃ」

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