第208話 過酷な鍛錬

<過酷な鍛錬>-----#208

江戸組が来てからというもの鍛錬は日に日に厳しく過酷になって行った。

それでも足りないのか龍一郎、佐紀を始め江戸組の新参者三人を抜いた者達は夜も鍛錬に出掛けて行った。

二日目の夕餉のおりに佐助が三郎太に尋ねた。

「平穏な市中に在ってどの様にして気をやる気、気概を保てるのでしょう、皆様には衰えが見える処か以前よりも高みいる様に感じられます」

「我らは幸せ者じゃ、龍一郎様と言う目指す方が居られる故にな、龍一郎様に尋ねる事じゃ」

「皆様は龍一郎様になりたい、龍一郎様の様になりたい思いで日々を送られているのですか」

「それ以外に何がある??? 他の者は知らぬ、儂はその様に暮らしておる」

「私も同じです」

誠一郎も平四郎も賛同した。

「私はお佐紀様です」

舞、お有、お峰、お美津の女子衆はそう答えた。

「では、お佐紀様と龍一郎様は???」

「私は新たな技、新たな力の付け方、新たな武器を考えております」

佐紀が即座にそう答えた。

「私は皆がより高みを目指せる方法を考えておる」

「佐助、お二人は別格じゃ、日々の鍛錬が身に付いておって、それが我らには過酷なものでもお二人には普通の事なのであろう」

甚八が二人の違いを説明した。

「夜の修行に同道しては成りませぬか」

佐助が江戸組の人達を見渡した。

「平四郎殿、三郎太殿には付いて行けまいな、ましてや龍一郎様にはもってのほかだ、我らに加わってみよ、但し付いて来れぬ刻は置いて行く」

誠一郎が受け入れた。

「私もお願い申します」

雪と八重も願った。

「某も」

「愚僧もお願い申す」

双角と慈恩も願った。

「良かろう、但しは同じじゃぞ」

「畏まって候」


その日の夜、途中で帰って来たのは、佐助、双角、慈恩の三人だけだった。

付いて行けず置いて行かれたと言う事で、しょんぼりとしょげ返っていたが眼の輝きは失っては居なかった。

誠一郎の組が返った刻には舞は無論のと事、雪と八重もいて起きて待っていた甚八は驚いた。

「誠一郎様と舞様は私達に合わせてくれたのです」

八重は甚八に訴えた。

それを裏付ける様に舞が言った。

「明日はもう少し厳しくなります、付いて来て下さいね」

暫くして平四郎とお峰が広場に着いた。

それから暫くして三郎太、お有、平太が戻って来た。

五人は聞くまでも無く結果を理解した。

「誠一郎殿、私達の組に入りたいですか」

「ご遠慮もうし上げます、暫しの猶予を願います、必ずや追い付いて見せます」

「待っています、何時でもご参加下さい」

「そのおりはお願い申します」

三郎太が誠一郎に自分の組へ来ないかと誘ったがやんわりと断られた。

甚八が佐助に修行の詳細を問い質したが答えず、八重に尋ねても答えなかった。

双角、慈恩も無言を通した。

気付くと龍一郎と佐紀が部屋におり皆の話を聞いていた。

「甚八殿、無駄な事じゃ、組頭が答えぬ以上答えはせぬ、知りたければ同道する事じゃ」

龍一郎が皆の変わりに甚八を諭した。

「私ごときの者が参しては皆様のお邪魔になります」

「甚八、其方、本にその理で参せぬのか」

「はい、左様で御座います」

「この最じゃ儂の心得を其方に伝えておこう・・・。

人は皆、諦める刻に己の心を欺く、己の心を守る為にじゃ、そうせねば、己は駄目な奴だ、何でも途中で投げ出す半端者だと思う様になる。

故に、途中で止める刻には、足が痛いからである、腰が痛いからである、これ以上は駄目だと理を付ける、理を考えるのじゃ・・・。

其方の皆に迷惑になるの言葉は己を守る言葉では無いと言い切れるや・・・どうじゃ」

甚八は暫し己の心に問う様にした後に答えた。

「・・・明日、参じさせていただきまする」


「三郎太殿、願おう」

「はい、畏まりました」

「三郎太殿、お願い申す」

甚八は一番下位の誠一郎の組では無く三郎太の組に入る様に言われたが拒否する訳でも無く素直に従った。

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