第188話 辰三の来店

「御免下さい」

お久が声を掛けて暖簾を潜り、その後を塗笠を被った侍が続いた。

「いらっしゃいまし~」

お店中から声が飛んで迎えた。

「主の鳩衛門殿と女将さんにお会いしたいのですが、取り次いでいただけますか、私は橘久と申します」

応対に出て来た手代と思られる男にお久が願いを告げた。

「橘様・・・橘様と申されますと、あの橘道場の・・・あぁ~天覧試合で次席に入られたお方だ~、内のお嬢様の母上様で御座いますね」

「はい、左様で御座います、お取次ぎをお願い申します」

「はい、只今、少々お待ち下さい」

言うが早いか脱兎の如く店の奥へとすっ飛んで行った。

暫くすると奥からどかどかと廊下を急ぐ足音が聞こえ内暖簾の前で止まった。

一瞬の後、内暖簾を掻き分けて初老の男女と先程の奉公人が現れた。

「これはこれは、お久様、わざわざのお運びありがとう御座います」

「こちらこそ、一度ご挨拶にと思うておりましたが機会を得ず本日近くへ来たものですから寄らせて頂きました、ご迷惑でなければ宜しいのですが」

「迷惑などとんでも御座いません、さぁさぁ奥へお通り下さい」

「ありがとう御座います、では、お言葉に甘えて上がらせて頂きます」

お久と武士が店に上がると、奉公人の一人が直ぐに二人の履物の向きを変えた。

主の鳩衛門が先導し廊下を奥へと進み主夫婦の居間と思われる部屋に案内した。

部屋に入った主・鳩衛門と女将のお滝は上手では無く下手に席を取った。

居間に入ったお久と武士は入った処に席を決め、お久は手で鳩衛門に上座の主の席に座る様に促した。

受けた鳩衛門は上座を避けお久の正面に移動しお滝も並んだ。

「お先に失礼致します」

「どうぞ、こちらこそ失礼致します」

二人が言葉を交わし四人が座った。

「突然のお訪い、ご迷惑をお掛けします」

「迷惑などとんでも御座いません、ようこそいらっしゃいました、私どももお会いしとう御座いました」

鳩衛門はそう答えながらお久の隣に控える武士に目をやっていた。

「嬉しいお言葉ありがとう御座います」

「ところで佐紀がご一緒で無いのは佐紀に何かありましたのでしょうか」

「何も変わりは無いと存じます・・・が詳しくは本人にお聞き下さい」

「・・・本人・・・本人」

鳩衛門はお久に移していた目線を隣の武士に戻した。

塗笠を被り少し俯き加減の武士の鼻が見え左の頬には刀傷と思われる縦に大きな傷跡が見えた。

その武士が塗笠の顎の紐を解きながら初めて言葉を発した。

「父上、母上、先日以来のご無沙汰で御座います」

塗笠を取った武士が頭を下げ礼をして顔を上げた。

「・・・」

「・・・」

「・・・其方は佐紀か??? 佐紀なのか」

「お前様、佐紀で御座います・・・が、その傷はどうなされた、その肌の色はどうなされた」

「これは変装で御座いますよ、父上、母上、傷も作り物です、ご安心下さい」

「変装??? 偽物??? 何故かな・・・そうか、今日は晦日、其方、今日が晦日故に来てくれたか」

「お雪を預かったのは私で御座います、後の始末も私の仕事で御座いましょう」

「何と、あ奴の相手を其方がしてくれると言うのか」

「はい、お任せ下さい」

「しかし、相手はならず者たちだぞ、無法者たちだぞ、用心棒もおるのだぞ」

「そうですよ、佐紀、貴方にもしもの事があれば龍一郎様に龍之介に何と詫びれば良いやら」

佐紀の父母が心配を口にした。

「お二人、心配は解ります、解りますが、思い出して下さいな、佐紀は先日の天覧試合の勝者ですよ、女子の部とは言え勝者なのです」

「おぉ~、忘れておりました、どうも昔の知る娘の佐紀と試合の橘佐紀殿が一緒にはなりません、同じだと頭では解っているのですが、昔の佐紀を思い浮かべますと・・・」

「お気持ちは解ります、幼き頃の少女から大人になる頃に大奥に三年、戻れば思い出を作る間も無く武家へ嫁がれ、お二人には幼き頃の思い出しか無いので御座いましょう、思い出の幼き華憐な娘が剣術の天覧試合に出るまでの剣術の達人になるなど、それも勝者になるなど夢か幻の様に感じられるので御座いましょう」

「はい、その様な思いがあるので御座いましょう、只、今思えば幼き頃からの鍛錬が生きているのかも知れませんなぁ~」

「幼き頃の鍛錬と申されますと・・・佐紀、何を成されましたな」

お久は話の途中で佐紀本人に問い質した。

「母上、私には覚えが御座いませぬ」

「あぁ~、佐紀、お前には毎日の日課だったから特別な事では無かったのでしょうねぇ~」

「お花もお琴も習っていましたが毎日の事ではありませんでしたが」

「習い事は昼餉の後だったでしょう、朝餉の後には何をして居ましたのか覚えていませんか」

「朝餉の後は愛宕神社にお参りに行っていただけで他には何も無いと思いますが」

「何と其方もお雪と同じで毎日お参りに行っていたのですか」

お久が驚きの声で佐紀に尋ねた。

「私はお雪ちゃんと違い毎日ではありませんでした」

「佐紀、其方の思い違いですよ、ほとんど毎日でしたよ、晴れていればな、何せ共の奉公人が根を上げる位でしたからなぁ~」

「父上、母上、私は幾つの頃から神社通いをしておりましたでしょうか」

「其方が最初に神社に行き始めたのは四つか五つの頃ですよ、其方を連れて三人でお参りに行った事が始まりでしたなぁ~」

「母上、お言葉ですが四つ五つで愛宕は無理で御座いましょう」

「其方はなぁ~、最初は神田明神に通っていたのですよ、覚えていないのですね」

「三人でお参りに行った次の日に今度は一人で行くとだだを捏ねましてなぁ、子守が一緒に行きました、途中で疲れておぶわれて戻って参りましたがな、それも始めの頃だけでしたなぁ~、八つ頃でしたかな、誰に聞いたか、この江戸で一番のお山、愛宕の山に行きたいと言い出しましたなぁ、奉公人たちも当初は同行を喜んで交代で行きましたが毎日では行きたがる者も居らず結局子守が一緒でしたなぁ~、話によれば増上寺、芝大明神へも行った様で御座いますよ、覚えていませんか」

「昔、若武者が馬で登ったと言う石段を登った事を思いだしました」

「おぉ、それが愛宕神社だの~、戻って来た子守が泣いて勘弁して下さいと交代を願った事を其方は知るまいなぁ」

「それは迷惑な事で御座いました、お詫び申し上げます」

「朝餉、昼餉、夕餉が人の日常の様に其方に取っては参拝も日常であったのかのぉ~、大奥ではどうしていたのですな」

「はい、当初は緊張のせいでしょうか、何も感じませんでしたが、慣れて来た頃どしょうか、体が動く事を求めているようでした・・・それで建屋から御門までの階段道を何度も何度も歩いておりました、それが可笑しな事に大奥の流行り事になりました」

「それは面白い話ですね、閉じ込められた思いが有るのでございましょう」

「佐紀、其方はなるべくして龍一郎殿の嫁になった様ですね」

「そうやも知れませぬ、お久様」

その時、廊下を小走りに歩く音が聞こえ若手の番頭が現れた。

「旦那様、晦日の取り立てが参りました」

障子越しに辰三が現れた事を伝える声が聞こえた。

四人が目配せし、お久と佐紀が頷きあった。

「まずは何時もの様に応対して下さい、但し、お雪は居らぬ故に払わぬと申して下さい」

「大丈夫で御座いましょうか、暴れませんでしょうか」

「天覧試合の勝者と次席が控えております、ご安心下さい、お二人は大いにあ奴を怒らせてくださいな、手を出す前が私たちの出番と思うて下さい」

「怒らせるのですか・・・お客様を怒らせぬ様にする事は得意なのですが・・・」

「これまでの鬱憤を晴らして下さいな、後はお引き受け致します」

「・・・渡りました、お願い申します」

四人が立ち上がり店へと向かって廊下を歩き出した。

主の鳩衛門と女将のお滝が内暖簾を潜り店に顔をだすと、そこには何度も見た光景があった。

後ろに用心棒二人と下っ端三人を従えた辰三が板の間に腰掛け薄笑いを浮かべて店の中の奉公人たちを見渡していた。

「遅いじゃねぇ~か、鳩衛門よ、晦日の決まり事だからよ、店先で待っているものだろうが」

用心棒と下っ端たちもにやにやと薄笑いを浮かべて主と女将を眺めていた。

「それがのぉ、辰三さんや、もう払えん様になってしまいましてなぁ~」

「・・・何だと、てめぇの処では只で奉公人を使おうと言うのか、えぇ~」

「いえいえ、自慢では御座いませんが私どもは他のお店よりも奉公人への給金は多いと思おておりますよ、辰三どん」

「何が辰三どんだ、てめいにどんなどと呼ばれる筋合いはねぇ、言うなら様と言え様と」

「失礼とは存じますが私には与太者に様を付ける習わしは御座いませんでなぁ」

「与太者だと、俺を与太者と言うのか・・・今日はえらく威勢が良いじゃねぇか、どうした」

「私も驚いておりますよ、これまでの鬱憤が思いの外に溜まっていた様ですなぁ~」

「てめぇ~、俺にそんな口きいて只で済むと思うなよ」

「おやおや、お怒りの様で御座いますね、どう成されますか、私をお斬りになりますか、そうなりますと、奉行所にお縄になり打ち首で御座いますなぁ~、まぁ私も斬り殺される訳ですから痛み分けと言う事でしょうか、それとも殴りますかな、痛いのは困りますなぁ~」

余りの恐れを知らぬ言葉に呆れた辰三が問うた。

「何だかよぉ~今日はえらく強気じゃねぇ~か、儂が聞きてぇのは何で払えんのかだぜ」

「おぉそうでしたな、それはですな、払うお雪が居らぬからですよ、辰三どん」

「そのどんは止めろっていってんだろうが、まぁ良いか、何でお雪が居ないんだよ、まさかお前、お雪を吉原に売ったんじゃね~だろうなぁ」

「辰三どんじゃあるまいし吉原なんぞに売りませんよ」

「じゃあどうしたんだよ」

「橘道場と言う処をご存じですかな、辰三どん」

「橘道場、橘・・・おぉこの間の上様の試合で大活躍した道場じゃね~か、その道場がどうした」

「その橘道場に奉公変えになりましたんですよ」

「奉公変えって、てめ~誰の許しで変えやがった、俺は許しちゃいね~ぞ」

「おや、主は私ですよ、辰三どんは何の権利がありますので」

「お雪が俺に借金があるからに決まってんだろ、態度がでけ~のもいい加減にしやがれ~」

「兎に角、お雪は我が家とは何の縁ももはや在りませんので来られても困りますなぁ~」

「じぁ~何かてめ~儂らに橘の道場に行けとでも言うのか」

「お雪の給金が欲しければ、そうするしか御座いませんなぁ~」

「勝者がうようよ居る処に行く訳が無いと騙っていやがるなぁてめ~、売ったのはてめ~何だからてめ~が道場から貰って儂に寄こすんだよ、解ったな」

「私はね~お雪を売ってなどおりませんよ、奉公が変わっただけですよ、給金が上がりますのでね」

「何、金が、銭が増えたのか、そりゃ~良いや、今から取りに行ってくんな、旦那よ~」

「だから、何故私が行かねばならぬのですか、もう何の関係もありませんし。其方の手先でもありませんしな、そうですよ、其方の手先と強そうな用心棒殿に取りに行かせれば宜しい」

「どうしちまったんだ、旦那さんよ~、今日は本当に強気だな、まるで別人だぜ・・・」

「そうでしょうか、まぁ、そう言う訳ですからお引き取り下さい」

「そうはいかね~んだよ、だってよ~旦那が裏にお雪を隠していてよ~橘に行ったと言ってよ~俺が橘に行かね~と思ってるって手かもしれね~しな」

「そんな手は使いませんよ、信じて頂けませんかね、仕方ありませんなぁ~、これは言いたくは無かったのですが、言いましょう・・・私どもには娘が居りましてな、その娘の名が佐紀でしてな、其方は先の天覧試合の女子の部の勝者の名をご存じですかな」

「橘だろうが・・・まさか勝者が娘だと言うんじゃ無いだろうなぁ~武家の娘だぜ」

「それが、そうなのですよ、辰三さん、勝者の橘佐紀殿は私どもの娘なのですよ、その娘が里帰りをしましてな、お雪を引き取って行ったのですよ、ですから橘道場を利用した出任せでは無いのですよ、ご理解いただけましたかな」

「商家の娘が武家に嫁に行ったと言うのか・・・無いとは言わね~が、そう有る話じゃね~だろ」

「大奥に行儀見習いに行っていた事が縁で御座いましょうか、成人の部で勝者になられた橘龍一郎様の嫁になったのですよ」

「おいおい、怖い事言うねい、橘の若先生が義理の息子だと言う事じゃね~か」

「まぁそう言う事です、辰三どん」

「成程、それで強気な訳か、やっぱり、お雪は裏にいるなぁ~、先生方、奥を調べてくんな」

辰三に命ぜられた用心棒二人と手下たちが奥を探そうと動き出したその時、内暖簾を分けて武家の奥方と左頬に刀傷のある武士が姿を見せた。

「何だ、何だ、てめ~の店では用心棒を飼っているのか、ええ~」

「何と失礼な、こちらの武家の奥方は橘の奥方のお久様で御座いますよ」

板の間に足を上げようとしていた用心棒の足が止まり後ろに下がった。

「先生方、どうしちまったんです」

「馬鹿者、辰三、橘久と言えば次席に入った女子じゃぞ、それに後ろに不気味な武士がおる」

「次席と言っても女子でしょ、大した腕じゃありませんよ、先生方にかかっちゃね」

「其方が相手をするなら止めはせぬが某は遠慮しよう」

辰三のけしかける言葉に一人の用心棒は拒否しもう一人に尋ねた。

「辰三の言う通り・・・勝者とは言え女子では無いか、それも次席じゃぞ」

そう言うと歩を進め板場に上がろうとした時に用心棒の目の前にお久が突然現れた。

「土足はいけませんよ」

余りの突然のお久の現れ方に驚いた用心棒は腰が砕けて後ろに尻餅を着いてしまった。

「おやおや、驚かせてしまいましたか、大丈夫で御座いますか、お怪我は御座いませぬか」

座っていた辰三がお久を見つめてゆっくりと立ち上がり後ろへゆっくりと下がった。

「やい、てめえら銭を払っているんだ、何とかしねいか」

尻餅を着いていた用心棒がお久から目を離さずにゆっくりと立ち上がり後ろへと下がった。

「いや、遠慮しておこう、命有っての物種と申すからの」

「相手は女子な上に手ぶらじゃね~かよ、銭を返しやがれ~第一こいつは次席じゃね~か」

「勝者であろうが次席であろうが女子であろうが問題では無い、我らがこの年まで生きておるのはな・・・強い相手とは戦わぬからじゃ・・・のぉ~」

尻餅を着いた用心棒に賛同を求めた。

「拙者も賛同致す、諦める事じゃ、辰三」

「橘の者が一人しかいない処で取れないんじゃうじゃうじゃ居る道場には行けないじゃないか」

「辰三さん、橘の者は一人ではありませんよ」

お久がそう言って後ろに立つ武家を振り返った。

皆が見つめる中、武士は後ろを向くと数舜後に振り返った。

お店いる全員が見つめる中、振り返った武士の顔を見てお久以外の全員が驚いた。

後ろを向く前の黒く陰鬱な顔付きで何と言っても目立つ左頬の刀傷が無くなり顔の色も透き通る様に白くその顔は眉目秀麗で優美なものだったのだ。

「佐紀・・・」

「お佐紀・・・」

聞かされていた主夫婦も驚きを隠せなかった。

「お佐紀お嬢様・・・」

知らされていなかった番頭が奉公人を代表する様に叫んだ。

「な・な・なんじゃ~女子ではないか~」

辰三が馬鹿にした様に怒鳴った。

「辰三、佐紀と申したのだぞ、橘の佐紀なれば、先の試合の勝者ではないか」

お久との対峙を拒絶した用心棒が応えた。

「次席のこの年増よりも強いと言う事か」

「そうじゃ、某はこの仕事は降りた、辰三、諦めろ、命有っての事ぞ」

「某も降りた」

二人の用心棒が手を引くと言った。

「何だよ、何だよ、戦いもせず、剣も抜かずに降参かい、だらしがね~なぁ、高い銭を払ってるんだぜ、お二人さんよ、剣くらい抜きね~な」

「馬鹿者、武士は刀を抜いた時が始まりであり終わりなのだ、某はまだまだ命が惜しいでな、遠慮もうそう」

「某も同様じゃ、辰三、他を当たれば良いでは無いか、商売は諦め肝心であろう」

「てめいらに商売を教えられる筋合いはねい、おい、先生方が駄目なら手前たちがやれ~」

辰三は手下の三人をけしかけた。

三人の手下たちは尻込みしお互いを見合った。

「てめいら行かね~か、行け~」

辰三にけしかけられた三人が少し前に出た。

その途端に「ブーン、ざぁざぁ」と音が聞こえ三人が見つめていた佐紀が二人になった。

そして、次の瞬間に三人が悲鳴を上げた。

辰三が三人を見ると左の腕が肘以外の処で曲がっていた・・・折れたのだ。

辰三が慌てて佐紀を見ると二人に見えた姿が一人に戻り顔には微かな微笑みを浮かべていた。

綺麗な顔をした女が微笑みを浮かべ三人の腕を折った事実に辰三は恐怖に体を震わせた。

「うわぁ~、うわぁ~、勘弁してくれ~」

辰三は悲鳴を上げたが、用心棒の二人は見えなかった佐紀の動きに恐怖を感じ言葉も無く動く事も出来なかった。

「辰三さんと言いましたね、私がこの家の娘、今は橘に嫁いで橘となった佐紀で御座います、お雪は間違い無く私がお預かり致しました、お雪の給金が欲しければ橘道場に取りに来なさい、只、借財と此れまでの支払いを鑑みますと支払いは既に終わっております、今後、この辰巳屋に顔を出したり、お雪に近づけば私が怒るかも知れませぬ・・・ご理解頂けましたね、もし、ご理解いただけぬ行いを其方がなされた刻には・・・お分かりですね、本日は其方の手下三人の左腕で私の怒りを収めましょう、ご理解いただけたならお引き取り下さい・・・辰三さん」

最後の辰三さんと名前を呼んだ声は地獄の底から聞こえた様に響き辰三だけでは無く、お久以外の全員を震え上がられた。

辰三が無言で脱兎のごとく暖簾を潜り駆け出して行った、辰三を追って用心棒の二人が後ずさりで暖簾を潜り外に出ると辰三を追って走って行った、腕を折られた手下三人は右手で左手を抱えながらよろめく様に暖簾を潜って行った。

六人の無法者が居なくなった店先には虚脱感が溢れ暫くは声も無かった。

「父上、母上、お茶をもう一杯頂きとう御座います」

佐紀の何とも長閑な声が静寂を破り店先に響き、主夫婦と奉公人のおおきなため息とともに日常の店先に戻って行った。

夫婦もお久、お佐紀が奥へと消えた店先では奉公人は仕事処では無かった。

皆を監督する番頭も仕事にならず皆と一緒になって起こった出来事を話しあっていた。

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