第184話 探索 思案

翌日、昼餉も終わりニ刻も経とうとする長閑とも言える時刻に一人の老人が訪ねて来た。

「こちらにお佐紀と言う娘は居るかのぉ~」

「はい、居りますが、どちら様で御座いますか」

「儂か、儂は医者じゃ医者、どうれ患者を診ようかの案内しなされ」

「お佐紀様は病などではありませぬ」

「いや、そんなはずは無い、儂は確かにそう聞いた」

「誰からその様な世迷言を聞かされましたか」

「京橋の薬種問屋じぁ間違いは無い」

「その薬種問屋は何方から頼まれたので御座いましょう」

「誰でも良いわい、其方の様な小娘では話にならぬ、誰ぞ大人は居らぬのか」

珍しく母屋の玄関が騒がしいとお久が顔を出し、丁度用たしに来ていた小兵衛も顔を出した。

「おのお方はお医師でお佐紀様を診にいらしたそうで御座います」

舞が事情を説明した。

「佐紀が病などと聞いては居らぬが、お久其方はどうじゃ」

「私も存じませぬ」

「其方らが知ろうが知るまいが儂の知った事では無いわ、早う患者の処へ案内せい」

「こりゃまた威勢の良い爺じゃのぉ~」

「爺に爺と言われとうは無い」

そこへいつの間にか来て様子を伺っていた佐紀から言葉が飛んだ。

「旦那様、おふざけも大概に成されませ」

最初に応対した舞に小兵衛とお久も佐紀の言葉が暫く理解できず固まっていた。

「流石に我が女房殿は胡麻化せぬか」

「あぁ、龍さんだ」

余りの驚きに本人が居ない処での龍一郎の呼び名を口にしていた。

「龍か???本に龍なのか」

「声が変わり龍一郎殿の様ですが~」

「ですから私が昨日申しておりました様に我が亭主は変装の名人なので御座いますよ」

「女房殿の眼は誤魔化せなんだがな」

「龍よ、その形(なり)で薬種問屋へ行くつもりかの」

「いいえ、もう行って参りました」

「何、もう行ったてか」

「玄関先での話柄でもありませぬ」

佐紀の言葉に皆が居間へと歩を進めた。

「で、龍よ、どうであった何か解ったかな」

「父上、事は皆が揃ったおりにお話し申します」

「皆と言うと三郎太と平太か・・・そうじゃな、良かろう」

「ありがとうございます」

佐紀は昼餉の後に龍一郎の姿が見えぬと思っていたがやはりとと感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る