第168話 居酒屋 その二

「その様な凄まじい技前を目の前を見せられては・・・儂の気も・・・入門しようと思うて居った気も萎えてしもうたのじゃ」

「実はなぁ~儂も似た様な者なのだ」

「どう言う事なのだ」

「儂の弟が入門して居る、父の命により一緒に入門のはずであったが、丁度その日が儂の役務の日での、弟だけが先に入門したのだ」

「それで次の日にでも行けば良かろうが???」

「それがなぁ~、その日の道場での出来事を弟が興奮して話おった。その話を聞いて儂は怖気付いてしもうたのよ、恥ずかしいがな」

「何があったと言うのだ」

「其方は駒清と言う船宿を知っておるか」

「あぁ確か以前は蕎麦屋だった店ではなかったか」

「そうよ、その店よ、以前の蕎麦屋の時は良く通ったものだがな、船宿になってからは儂の様な薄給の者には入れぬわ」

「其方も通っておったのか、儂もあの店の蕎麦が好きでなぁ~通った、通った毎日の様に行っておった、その船宿がどうしたのだ」

「そこの女将、お駒と言う名なのだそうだ」

「その女将がどうしたと言うのだ」

「まぁ待て・・・その女将が実は剣を使うらしいのだ・・・それも滅法強いらしいのだ」

「待て、待て、船宿の女将・・・元は蕎麦屋の女将であろうが」

「そうなのだ、だがな何でも亭主の清吉は岡っ引きらしい」

「亭主が清吉で女将がお駒・・・それで船宿の名が駒清か」

「店の名などで感心をするで無い」

その時、最初は攻められていた若輩が小さな声で言った。

「そのお駒様の件の時に私は道場に居りまして全て見ておりました」

「何~」

「何だと~」

「ひぃ~」

先輩二人の怒号に悲鳴にも似た声を上げ首を竦めた・・・が一瞬で平静に戻りしっかりと答えた。

「始めから全てを見ておりました」

「やはり、お主は変ったなぁ~以前で有れば首を竦めて終りであったがな」

「そうよなぁ~、図太くなったのか、物おじしなくなったのか、自信が付いたのか」

「弟から聞いた話は信じがたい・・・が怖くなってな、詳しく話せ」

「そうだ、最初からきっちりと聞かせろ」

「はい、では最初から詳しくお話いたします」

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