第149話 第五回戦-その二
「次の対戦者、一刀流・前原弥二郎殿、七日市藩流・岩澤平四郎殿」
選んだ得物は前原が木刀で平四郎が竹刀だった。
前原が竹刀に変えようとすると平四郎が木刀で良いと言い得物は木刀になった。
両者が挨拶を交わした。
「はじめ」
前原も驚き戸惑った、対戦者の平四郎から殺気、いや戦意が感じられないのだ。
正眼の構えをしているので戦う意思はあるはず・・・ましてや得物は竹刀では無く木刀である、恐れ、恐怖があるはずだと思った・・・だがそれさえも感じられなかった。
前原は思った、攻めて来る時には必ずや気を放ち解るはずだと。
二人の対峙が続き、観客が騒めきだした頃あいに、不意に平四郎が何の気も発せず躊躇いも見せずに一歩前に出て死線を超えた、驚いた前原は思わず一歩下がってしまった。
そんな事が何度か繰り返され気が付くと前原は境界の縄を背に立っていた。
切羽詰まった前原は木刀を胸に引き寄せ平四郎の肩口を狙って振り下ろした。
前原の木刀が当たる・・・と見えた次の瞬間には前原もまた空を見上げていた。
それはまるで平四郎の木刀を軸に前原が前転したかの様だった。
平四郎はくるりと後を向き最初の立ち位置に戻り始めた。
倒れていた前原もゆるりと起き上がり最初の位置に戻るかと見えたが突然、平四郎目掛けて走り出し、周りの人々から悲鳴が上がった。
平四郎の脳天めがけて振り下ろされた木刀は次の瞬間には宙に飛び木刀を振り下ろした本人の前原は左へ吹っ飛びぴくりとも動かなくなってしまった。
観客から歓声が上がり前原をヤジる声が混じっていた。
平四郎が歩みを再開し最初の立ち位置に戻り会釈をし、審判の「勝負あった」の声で勝敗が正式に決定した。
気を失った前原は係りの者たちに寄って運ばれて行った。
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