第146話 前日
大会の前日が訪れた。
幸いにも天候は申し分のない快晴であった。
良い席を取ろうとなんと前日から野営をする者達が大勢現れた。
当初、南北奉行所が撤去を命じたが余りにも人数が増え対応できなくなり黙認される事となった。
変わりに火の不始末に寄る出火を恐れ急遽、奉行所と火消しが夜回りをする事になった。
一般の人で火を使う人は少なく殆どが食べ物小屋の料理人だった。
料理人は火の扱いに慣れており役人が危惧する必要も無かった。
人間は物を飲み食いすれば出さなければならない、その為、有料ではあり商売として厠小屋が建てられていた。
その厠小屋がいっぱいになると近くの川に浮かべた汚穢舟に回収された。
この時代、江戸からの汚穢は江戸外れの押上村、小岩村など運ばれ肥料にされるか、江戸湾に廃棄されていた。
人が集まれば物が売れるといろいろな物売り小屋も立ち並んでいた。
まだ前日で有る為それ程の賑わいでは無かった。
思いのほか人が集まっていた処は役人が警護しているにも関わらず遠巻きに御座所の見物だった。
当日は上様が居られ遠巻きにも見物など出来ない、地面に額を着け見上げる事さえできないのだ。
建設日時が限られていたにも関わらず上野の東照宮を彷彿させる程に豪華賢覧なものに仕上がっていた、但し、色彩は一切なく木彫りのままのもので、それがかえって建物に威厳を与えていた。
人々の賑わいも五つ、四つ(22時)と時と共に静まり、翌日の賑わいに備える様に「高田の馬場」は静寂へと変わって行った。
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