第145話 大会を控えて
大会出場に名乗りを上げた者達の道場は連日見物人が絶えず日を追う毎にその人数は増えるばかりだった。
予定者たちも訓練に余念が無く二十人連続掛かり、三十人掛かりをする者や只の木刀の素振りだけとは言え何刻も続ける者もいた。
それぞれに大会に備え特別な訓練をしていた。
橘道場にも大勢の見物人たちが来ていたがこの道場だけは何時もと変わらず出場者たちも特別な事は何もしていなかった。
館長の小兵衛は高所に座り全体を見渡し時折指導しており、師範の龍一郎も門下の竹刀を受け指導をしていた。
見物人たちは特別な熱気を帯びた訓練を期待していただけにがっかりした雰囲気が漂っていた。
「訓練は夜やっているのではないべか」
「そうに違いなかろ~」
「いんや、あの御仁たちには自信が在って特別な事など必要ないのではなかろうか」
「自信て相手は薩摩や柳生だで簡単ではなかぞ」
「逆に今更何をやっても勝てぬと諦めているのはないのか」
などなど様々な言葉が交わされていた。
実際はどうかと言えば、龍一郎たちは特別に何もしていなかった、日々の訓練通りに当日を迎えるだけだった。
確かに門下の者達が帰り見物人もいなくなり夜が更けてから彼らは鍛錬をしていた。
だが、それは大会に備えたものではなく、大会の開催が決まる以前からの恒例のものだった。
道場で暮らしていない者たちは時々夕方頃に訪れ参加した。
船宿に暮らす面々、料亭・揚羽亭の二人、七日市藩の二人、橘家の二人そして誠一郎である。
無論、それぞれの暮らしの場での鍛錬も怠りは無かった。
龍一郎と佐紀以外は重しを足と腕に付けての生活であり日々の暮らし自体が鍛錬だった。
二人が重しを着けないのは二人に負荷を掛ける程の重しとなると着物で隠す事などできないからだった。
皆の上達は目まぐしく小兵衛の言葉を借りれば
「平四郎の腕前は江戸一と言われた頃の儂を超えておる」
だが皆に課題が無い訳では無かった、彼らには持久力が足りないのだ。
時折、龍一郎に皆での総掛かりをする事があるが受けだけの龍一郎に対し四半刻もすると極端に息が上がり皆の攻撃力が落ちてしまっていた。
そのような訳で目下の皆の課題は持続力を如何に付けるかであった。
例に寄って皆はそれぞれに工夫を凝らしていた、龍一郎と佐紀に方法を尋ねる事は誰もしなかった、それは最後の手段と皆が心得ていた。
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