第139話 上覧武術大会-打診
それは龍一郎と三郎太が東海道を登る前の事だった。
それは稽古が終り皆が井戸端で汗を流している頃、五名の門下が奥で道場の幹部と対面していた。
五名とは南北奉行と寺社奉行と勘定奉行の四名と御側御用取次の加納だった。
「館長、小兵衛殿、お願いが御座る」
「何で御座いましょう、皆さまがお揃いでとは・・・何やら怖いような、大岡殿」
「いいえ、怖い事では御座いませぬ・・・が困った事かも知れませぬ」
「何で御座いましょう、出来る事なれば万難を排しますが」
「最近とみに巷で話題となっておる事で御座る」
「巷で話題、評判と言う事でしょうか」
「左様、剣術家の事で御座る、誰が強いか、誰が日乃本一の剣豪か・・・で御座る」
「おぉそのような読売が出ておりましたなぁ~」
「その読売に感化されました与力・同心どもが三奉行所で誰が強いのか・・・知りたいと申しまして会を開きたい・・・と言い初めまして、お三方に相談しました処、同様の申し立てがあるとの事で・・・これは一度、館長にご相談せねば・・・となった次第で御座います」
「こちらでも門弟たちの話題になっておる様です・・・まぁ門弟は皆さまの配下故重なっておりましょうな・・・某も興味があります・・・ですが問題が御座います、まずは場所・・・参加者は何百人にもなりましょう、その様な人員を収める場所が御座らぬ、第二に・・・これが一番の課題でしょう・・・金子です、会を開くには恐らく何百両もの金子が必要・・・御座いますかな」
「そこです、我らも一番知恵を借りたいのは、そこなのです、小兵衛殿」
北町奉行の中山が賛同した。
「某、残念ながら金子には、とんと縁が御座らぬ」
「でしょうな~、あ、これは失礼仕った」
「なあ~に、真故気にめさるな、しかし困ったな」
「うぉほん」
「加納殿、何か知恵が御座るか」
大岡が加納に尋ねた。
「出来るかどうか知恵をお借りしたいが、かのお方が町屋の分限者に金主になってもらえぬか・・・との事で、要は主幹はかのお方、幹事は分限者と言う事じゃ・・・どうじゃ小兵衛殿、出来ぬかのぉ」
「上様が左様な事を・・・と言う事は奉行所の会では無く、日乃本の会で御座るか」
勘定奉行の水野信房が加納に尋ねた。
「左様、上様も上覧を望まれて御座る」
「この小兵衛、この歳になるまで金子と町屋に縁は御座らぬ、剣一筋に御座った」
小兵衛は加賀屋、能登屋と縁は有ったが用心棒に雇ってもらったと言う恩義があるだけで金子の無心などとんでも無い事と思っていた。
それまで黙って聞いていた龍一郎が気を放ち皆の視線を集めた。
「金子は某にお任せ下さい、縁のある分限者にお頼みして見ます・・・まず間違い無く、受けていただけるでしょう」
「おおおぉ~」
「おおおぉ~」
「真で御座るか」
「龍一郎様~」
「龍一郎、真か・・・何処じゃ」
「間違い無く受けていただけます故皆さまは事を進めて下され、それぞれの組織から計画・立案・広報・折衝の人員を出し進めて下さい、運営の陣屋はこの道場の一間をご利用下さい、金子は三千両・・・余裕を見て五千両を願ってみます」
「なんと五千両・・・で、何処じゃ」
「父上、今は・・・何れ解ります」
「・・・解った」
「良かった、やはり相談して良かった、のう大岡殿」
加納が大岡に賛同を求めた。
「はい、我々も配下の者たちに顔が立ち申す、で御座ろう、各方(おのおのがた)」
「左様、左様」
北町奉行、寺社奉行、勘定奉行も賛同した。
「某も上様に良き返事が出来申す、忝い、龍一郎殿」
「忝い、龍一郎殿」
五人が期せずして龍一郎に平伏した。
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