第132話 打合せ

「誠一郎、最近はどうじゃな勤めの方は?」

「楽しゅうはございますが、少し刺激が空くのう御座います、父上の方は」

と芝居を続ける清吉に合わせて誠一郎が答えた。

「儂は御用繁多でな、中々清十郎にも成れぬ、郷へ行きたいのぉ」

清吉は橘道場に通う時は清十郎と名乗り南町奉行所・年番方与力・直属の武士になっている。

「郷は龍一郎様が新な人材を育てておられます、故に暫くは使えますまい」

「であろうなぁ・・・じゃが、身体が求めておるのだ、刺激、新たな高みをな」

「それは私とて同じでございます、ですが、龍さんの許しが無ければ・・・」

その時、誠一郎の後から声がした。

「許す」

二人は驚く様子も無く清吉が問い掛けた。

「で、あの御仁はすんなり戻りましたか」

「戻った、あの御仁はそれほどの悪人では無いと思うたが、知恵が足りぬ只の馬鹿者だ、始末が悪い、将来成り様によっては大悪党に成りえる・・・と見た」

二人の食台を挟んで椅子に座りながら浪人姿の龍一郎が答えた。

「な~るほど、馬鹿故に己の考えが無い故に付いた上役の言い成りになる、もし、上役が悪人ならば悪の芽が育つ・・・と言う訳ですなぁ~」

「・・・と私は思う」

「龍一郎様の言う事は何時も勉強に成ります、学問所よりも何ぼか良い」

「誠一郎殿、龍さんで良いのだぞ」

「うほん、いいえ、ご本人の前ではご遠慮申し上げます」

「まぁ~好きに致せ」

「龍一郎様、それであの馬鹿者は誰の命令で誰を殺せと言うので御座いますか、平四郎様で御座いますか」

「いいや、平四郎殿では無い・・・吟味方の男でな、融通が利かぬ、つまりは奴らの見方・悪人には成らぬ、そして奴らは正体がばれると危惧した故に始末すると言う訳じゃ」

清吉の問いに龍一郎が答えた・・・が誠一郎が次の問いを発した。

「ふーん、で龍一郎様、その悪い奴らの仲間は解りましたので」

「おおよそじゃがな、江戸の大将は留守居役、国元は国家老、あ奴は勘定方じゃ、他に江戸の近習頭がおる」

「江戸家老はあ奴らの見方では無いのですか」

誠一郎が問うた。

「国家老が悪人では国元には何人いる事か知れませぬな」

清吉が付け加えた。

「江戸家老は忠実な男の様だ、国元についてはあ奴らの目的は所詮金じゃ、寄って勘定方が味方におろうし武の者、つまりは剣技に長けた者もおろうな・・・そちらも近習あたりでは無いか・・・と思うておる」

「良い読みで御座いますな」

「清吉殿に褒められれば間違いはあるまい、で今後の事であるが・・・」

龍一郎が二人に今後の行動を告げた。

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