第131話 暗殺依頼
昼餉を食する店に時々周りをちらちらと見る七日市藩の勘定方頭がいた。
人足たちが昼餉を食する為に出たり入ったりするのを見つめながらちびりちびりと昼酒を飲んでいた。
同じ様に酒を飲む町人、浪人は居たがその浪人たちは生計(たつき)の為に刀を既に質草にしている様だった。
念の為に「一杯儂の酒を飲んでくれぬか」と酒を注ぎながら刀を退ける様に持つと果たして予想通り竹光だった」
普段は刀に触る事を嫌う者も酒を注いでもらうと気にしなかった。
そんな事を四人、五人と続けていると二人の浪人が店に入って来た。
二人は親子なのか四十前後の男と二十歳前後の青年だった。
二人は飯と酒を注文し銭を先に払っていた。
勘定組頭の男がこれまでと同じ様に酒を勧めに行くと父親が酒の少し残った茶碗を手で塞いだ。
「儂は知らぬ者からの酒は飲まぬ」
倅も同じ様に手で蓋をした。
「まぁまぁそう言わずに飲んでくれぬか、仕事を頼みたいのだ」
「仕事を・・・銭になるのか・・・幾らだ」
「前金一両、後金九両じゃ・・・どうだ大金であろう」
「ふう~ん・・・殺しか」
「しー声が大きい」
「当たりか・・・」
「嫌か?」
「そうでは無い・・・其方やるか」
親父が息子に問い掛けた。
「やっても良いが・・・安くはないですか」
「安いかの~儂の分は手付けだけで良いぞ」
「なら良いです」
親子二人の会話を勘定組頭は黙って聞いていた。
「二人でやるのか、倅一人か」
「こ奴の手に余る様であれば儂がやる・・・それ程の手練れか?」
「手練れでは無い・・・と思うが真実のところ解らぬ・・・解らぬと出来ぬのか」
「構わぬ、儂は強いでな・・・で何時何処でだな」
「其方、七日市藩の藩邸を存じおるか」
「知らぬが藩邸なれば誰ぞに聞けば解ろう」
「一刻のちの八に藩邸前で待っておる・・・手付じゃ」
武士が一両を食台に置き酒代の銭も置いて店を出て行った。
「誠一郎さん、あ奴はふざけているのですかね~、自分の藩邸の前で待ち合わせ・・・とは」
店に来た浪人の親子は清吉と誠一郎だった。
龍一郎が店まで勘定組頭の男の跡を着け清吉に繋ぎを付けたのだ。
「清吉さん、私は只慣れていないだけだと思いますよ」
「にしても、手付の金を渡す・・・は、やる事が素人すぎますよ」
「まぁ根は善人と言う事では無いのでしょうか」
「なるほどね~、誠一郎さんも人が良いね」
親子とも思えぬ会話と言葉使いだった・・・実際、親子では無いが。
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