第133話 暗殺

二人が七日市藩の藩邸に近づくと通用門の中から顔だけを出して男が言った。

「遅いでは無いか、金だけ持って逃げたのではないかと思うたでは無いか」

「何を申される、まだ、刻の鐘は鳴っておりませんぞ」

「そうか? すまぬ、すまぬ、入ってくれ、さぁ~早く入ってくれ、早く、早く」

「えぇ~藩邸内で殺すのか」

「しー大きな声を出すでない、何か不満か」

「骸はどう始末するつもりだ」

「儂がやるのか、そちらで始末してくれぬのか」

「骸の始末料は入って居らぬ、別だ・・・五両足しが相場だ」

「五両か・・・仕方あるまい、しっかり始末してくれよ・・・血の始末もじゃぞ」

「解っておる、任せておけ」

三人は勘定組頭を先頭に藩邸内を歩き長屋の角で歩みを止めた。

「この角を曲がって右の二軒目の家だ」

「姓名は」

「名が必要か、家が解っているのだぞ」

「友が居ったならば、どちらを切れば良いか解らぬでは無いか」

「辻村洋次郎・・・と言う」

「まぁ、誰か居ればそ奴も始末するがな、その時は一人頭十両増しだ、家族は居らぬのか」

「妻と子が一人じゃ」

「何、妻、子が居るのか、見られたらどうする」

「女、子供を始末するのか」

「我らの顔を見られるのだぞ、捕まりとうは無いでな」

「・・・・・」

「手ぬぐいで覆面でもするか」

「おぉ、そうしてくれ、女、子は止めてくれぬか」

「承知した」

「では頼むぞ」

「待て、後金は何時何処でくれるのだ」

「・・・明日、あの店で同じ時刻ではどうだ」

「解った、其方の名は」

「儂の名が必要か」

「お主が来ねばここに来て呼び出さねばならぬでな」

「・・・勘定組頭 村崎弥八郎」

「 勘定組頭 村崎弥八郎・・・な、良し、行って良いぞ」

勘定組頭の村崎弥八郎は「頼むぞ」と言うとそそくさと離れて行った。

清吉と誠一郎は早速周りの気配を探りながら辻村宅へと近づいて行った。

いつの間にか二人が三人になっていた、無論、龍一郎であった。

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