第128話 平四郎の危機
小屋の前で待っていたのはお峰だった。
小屋に入ったお峰が龍一郎に話し始めたが、お峰には珍しく早口だった。
「平四郎様が藩の牢屋に入れられました」
「無論、七日市藩であろうな」
「はい」
「で、理由はなんだな」
「はい、いいえ、解りませぬ」
「何故かな、始めから順を追って話してみよ」
「はい、・・・・」
お峰が話し始めた・・・が・・・直ぐに終わった。
様は突然、平四郎が藩の勘定方に捕らえられた・・・以外解らないと言う事だった。
平四郎が無抵抗で捕縛された事に訝しさを感じたお峰は仲間に知らせる事を重視したのだ。
また、お峰自身が捕縛され仲間に知らせられなくなる事も恐れたのだ。
「お峰殿、良き判断であった」
「お褒めのお言葉ありがとうございます、ですが、私は小兵衛様の指示でお知らせに参りましたので・・・平四郎様が心配でございます」
「そうでは無い、私は其方が一人で平四郎殿との繋ぎの前に仲間との繋ぎを取った事を褒めておる・・・では、まずは江戸へまいろう」
「はい」
二人は小屋を出て龍一郎が江戸へ戻る事と修行についてだけを述べ江戸帰府の理由を言わずに出発した。
龍一郎が広場では歩いてお峰に話した。
「其方はゆっくりと参れ、私に付いて来ようなどとは考えぬ事だ・・・良いな、橘道場で待つ」
と言うや広場の端から林に入ると消えた。
それから一刻半後、お峰が橘道場の裏庭に着いた。
そこには龍一郎の素性を知る全員が居た、無論、平四郎だけは別だが。
「お峰、頑張ったの~」
「頑張ったわね、お峰さん」
お峰を労う言葉が掛けられた。
そこには平四郎以外もう一人居らず、そのせいかお峰を含む皆が若干の怒りと苛立ちの顔をしていた。
「平太、龍一郎を呼んで来い」
小兵衛に答えて平太が道場へ龍一郎を呼びに行った。
「龍一郎様は道場に居られるのですか」
「お峰、龍一郎はこちらに戻ってから話は其方が着いてから・・・と申して道場で門弟に稽古を付けておるのじゃ・・・我らは落ち着かぬのにな」
そうこうしている内に平太が一人で戻って来た。
「龍一郎はどうした」
小兵衛が詰問した。
「それが、今は切りが悪い暫くして切りの良い処でまいる故、先に行っておれ・・・と申されまして」
この言葉にお峰が泣きそうな顔になった。
「何・・・龍一郎・・・め・・・あ奴・・・何を考えておる」
小兵衛が怒り出し皆を見渡すと・・・皆も苛立ちを抑えた顔をしていた。
小兵衛が道場へ行こうと立ち上がった時に龍一郎がやって来た。
「龍一郎、おぬしは何を考えておる、平四郎がどのような事になっておるか知っておろうが」
小兵衛が怒りを込めて龍一郎を責めた。
「父上、何を怒って居られます、お体に触りますぞ」
小兵衛が又文句を言いそうになるのを龍一郎が手で制した。
「父上、心配御座いませぬ、平四郎殿は実情を探る為に無抵抗で捕縛されたのです」
「何故にそう言い切れる」
小兵衛の怒りはまだ収まらなかった。
「父上、私はこちらに戻る前に平四郎殿に合って事情を聴いております」
「何~~~、其方(そなた)は、其方はーーー」
やっと小兵衛の怒りが消え、お峰に至っては泣きそうだったはずが「ぽけって」呆けた顔になり、今度は安心感が溢れた顔に変わった。
「何じゃ・・・どう言う事じゃ・・・平四郎は大事無いのか」
「父上、平四郎殿は息災にございます、偽の証拠で罠に掛けられたのです、その黒幕を探る為無抵抗で捕縛されたのです。まだ、誰なのかは解って居らぬ様です・・・が暫くすれば解る事でしょう」
「平四郎様は食事をなされているのでしょうか、拷問は受けておらぬのですね、水は与えられているのですね」
お峰が平四郎の身体を心配した。
「どの様な拷問を受けようが我らの修行に比べれば遊びの様なものじゃ・・・だが安心せよ、お峰、平四郎殿は拷問など受けては居らぬ、尋問・質問だけじゃ」
「それで、平四郎殿を何時助け出すのでございますか」
「助け出すつもりは無い・・・今の処は・・・さて、では今後について話そう・・・」
龍一郎を真ん中に車座になって皆が回りを囲って話に聞き入った。
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