第119話 温泉の男衆
初日のこの日、龍一郎は修行を早めに切り上げ男衆皆で温泉に行った。
岩風呂では龍一郎の言葉に従い静かにしていたが龍一郎の言葉で一変した。
「今この時は修行の刻では無い、故に騒いでも良い・・・但し、この山には天狗が居る・・・事になっておる・・・故に程々にせよ」
忍びと言ってもまだまだ少年だ、温泉にいて騒がないはずは無かった。
押さえて居た思いが溢れお湯の掛け合いが始まり一挙に騒がしくなった。
一頻り騒いだ後、一人の少年が龍一郎に質問した。
この者は郷での修行中から龍一郎を敬愛していた佐助だった。
「龍一郎様、二の組の長は強いか・・・いや・・・強いですか」
「其方はどう思うな」
「あんまし強そうには見えん」
「そうか強く見えない・・・か・・・三郎太、其方あの者に勝てるか」
「全く相手になりません・・・勝てるはずがありません」
三郎太も最初は百姓女が誰か解らなかったが今は誰か確信していた。
「だそうだ、それでも強そうに見えぬか」
「見えません、三郎太さんが勝つに決まっている、明日、儂と勝負させてくれ・・・下さい」
「良かろう」
「本当に、本当だね」
「あぁ~本当だ、但し、やめた・・・は無しじゃぞ」
「あたり前だ・・・武士に二言は無い」
「其方は武士か・・・そうか武士か」
横では三郎太が天狗の話をさせられていた。
他方では寝ぼけて湯の中に顔を埋めた者を皆がからからかっていた。
昼間の鍛錬とうって変わった何とも長閑な一時だった。
甚八は改めて龍一郎と言う人物に感嘆していた、いや感銘を受けていた。
この短い期間に郷の皆の心を掌握してしまった、特に郷では腕白で人の言う事など聞かぬ佐助が龍一郎には直に従う様子を見せていたからである。
龍一郎の剣者としての腕前、忍びとしての技量の凄さもあろうがそれだけでは無く人としての器の大きさが甚八自身の物よりも格段に大きいのだと実感させられていた。
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