第117話 江戸へ
「龍の旦那、真っ直ぐ江戸に戻りますかい」
龍一郎、三郎太は忍びの里を去り江戸への帰路にあった、但し一人増えていた、無論、甚八である。
龍一郎たちの里での滞在は当初二、三日と思っていたが里の皆からの修行指導要請に長期滞在を余儀なくされ十日も滞在する事になった。
「予定よりも滞在が長うなったでな皆が心配しておろう」
「旦那とあっしですぜ誰が心配なぞするもんですかい・・・ははぁ~奥方に早く会いたい・・・」
三郎太の言葉は龍一郎の頭への拳で止められてしまった。
「痛い~、龍さん冗談ですよ、冗談」
「冗談では無い、当っておる・・・がお前も誰ぞに会いたいのでは無いのかな」
「えぇ~私がですか・・・・」
三郎太は不意を突かれ言葉遣いが乱れてしまった。
「隠しておるつもりでも皆が知っておるわ」
「皆がですか・・・・はぁ~本人もでしょうか」
「当然知っておろうなぁ~」
他愛も無い会話ながら主従の間柄とも思えぬ話しぶりに同道している甚八は呆れるやら羨ましいやら複雑な気持ちで聞き入っていた。
三郎太の言葉使い、態度は師匠・龍一郎を軽んじている訳でも無く逆に敬愛の情が感じられ師匠からは信頼が感じられたからである。
「それで、ご本人は御怒りでございましょうか、迷惑に感じておられましょうか」
「本人に尋ねてみれば良かろう・・・其方、己の気持ちを伝えてはおらぬのか」
「そんな事が聞けるものですか、忍ものとして育ちましたから」
「其方の今は蕎麦屋では無いか、確かめる事ぞ」
「はぁ~実は何度か試みたのですが~言えませんでした・・・龍さんは佐紀様にどの様に言われたのですか」
「儂か・・・うむ~儂は言うては居らぬ」
「はぁ~申して居らぬのに奥方に成られたのでございますか」
「佐紀の仕えておった主に儂の妻女にする故に暇(いとま)を願うた・・・」
「それで夫婦に成りましたので・・・何とも、何とも、しかし龍さんも言ってねぇって事ですよ」
「まぁそうなるかのぉ~」
「言ってあげれば、きっと喜ぶと思いますぜ」
「お前に言われとうわないわ」
甚八は周りを警護も兼ねて同道している十四名の配下たちが二人のこの言動を見てどの様に感じているかと問うて見たい欲求に駆られた。
己の統領としての器、技量、態度、振る舞い、言葉使いなどを考えさせられていた。
甚八はこれから技だけでは無く龍一郎を統領としての手本とすると心した。
龍一郎の配下となった己れの判断に間違いは無かったの改めて安堵していた。
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