第114話 吉宗との計らい
「上様・・・」
「龍一郎か」
「左様に御座います」
「儂一人じゃ姿を見せよ」
吉宗の言葉が終わらぬ内に眼の前に黒衣を来た龍一郎が現れた。
「用意はなったか」
「はい、整いましてございます」
「何時からじゃ」
「只今よりでございます、頭領の顔を覚えて戴きましょう」
龍一郎がそう言うと龍一郎の隣に忽然と黒装束が現れ土下座した。
「おぉ~」
吉宗は再度驚きの声と共に上体を反らせた。
「忍びとは手妻も使うか、其方で慣れたと思うておったが、やはり不思議じゃ」
「上様、手妻では御座いませぬ、絶えまぬ修練により早く動ける様になっただけで御座います」
「修練の賜物のぉ~・・・・・・うむ~見事なり」
「今後この者を頭とする一団が上様の身をお守り致します。この者、名を庭甚八と申します。お見知り置きの上警護のおりはこの者の言葉は某の言葉と思し召し下さりませ」
男は鼻に掛かった覆面を下ろし顔を晒した。
「庭甚八に御座います・・・以後、お見知り置きよろしくお願い申し上げます」
吉宗は心に刻み付ける様にじっと男の顔を見つめた。
「・・・・余の命が狙われし刻はこの者の命に従えと言うか」
「御意に御座います。その他にもいろいろとお願いが御座います。お聞き下さい」
それから予定の四半刻を過ぎ半刻近く掛かり今後の計らいが話し合われた。
幕閣への警固団再編の情報遮断
旧警固団の長への実情通知、合わせて新警固集団への介入遮断
刻を置かずの旧警固団と新警固団との対面と勝負
旧警固団が望むなれば新警固団からの教授
刻を見ての新警固団長の旗本登用と屋敷提供、屋敷は選定済
等々が話し合われた、無論それぞれの申し出の理由は説明された、それ故に刻が掛かったのである。
「判った。明朝早速手配しようぞ、その方が連れて来た者故間違いはあるまいが・・・じゃがこの者らの腕前は誠に信頼に値するものなのしゃな」
「騒ぎも無くここに居ります事が何よりの証に御座います、宜しくお願い申し上げます。では本日はこれにて失礼申し上げます」
「何を申す、余の為では無いか礼を申すのは余の方じゃ」
吉宗が礼を言った時には二人の姿は既に無かった。
「本物の忍びとは見事な物じゃ・・・・龍一郎も忍び・・・・・何時の間にその様な技を・・・・」
広い寝間に吉宗の独り言が静かに響いた。
「良く考えられておる、あ奴は儂の為に考え抜いたのじゃなぁ~、あ奴に治世を考えてほしいものじゃ、儂よりも向いておるやも知れぬな」
これは言葉には発せられず心の声であった。
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