第113話 龍一郎の新たな願い

誠一郎は南町奉行所の父の役宅から清吉の船宿に向かっていた。

龍一郎が道場から久しぶりに屋敷に戻ると言うので皆で押しかけようと話がなっていた。

そこで誠一郎は蕎麦などを運ぶ手伝いに清吉宅へ寄る事にしたのだ、だがこれは口実で本音は勿論幾らかでも早く舞に会う為である、蕎麦作りに刻が掛かる故に皆よりも早く屋敷に行く、それに参加する為である。

橘家の座敷に皆が久しぶりに揃った。


道場開きの日の夜、皆で集まったおり龍一郎は皆の労を労ったがこれからの予定も話ていた。

「次は本来の我が藩の粛清とも思うたが・・・・。先日も話た様に本来の目的を先送りしたい。

皆も知っておる様に此度の奉行所の不正には幕閣も絡んでおったが手を出せなんだ・・・。

加賀藩の不正にも幕閣の影が見えた・・・。

幕閣に黒幕の頭領が一人おるのか組織化されておるのか・・・・。

其の者が上様を邪魔と思わぬか、加賀藩の不正の黒幕も幕閣におるのか判らぬ。

故に上様の身の安全の確保と幕府の不正を正す事を次の仕事としたい・・・・・皆も賛同してくれようか」

「儂の命は龍一郎、そなたに貰うたようなものじゃ、儂は手伝おう・・・。

が人生の先の長い平太、舞は外してはどうじゃ幕閣相手ともなればどんな手でくるか判らぬでな」

「爺々、舞は外されとうは無い、兄ちゃんはどうな」

「儂も否じゃ、なぁ~おっ父、おっ母~良いよな」

「小兵衛様、親としては危ない目に合わせとうは無い爺様に同意する・・・。

が二人の事だ、きっと反対してもこっそりとやる、その方がもっと危ない。

だから儂は参加させる・・・良いか・・・お駒」

「お前さん、その通りだよ、この子らは止めろと言っても聞きゃ~しないよ」

「ふぅ~確かになぁ儂の読みが甘かったわ・・・・じゃが龍一郎、誠一郎・・殿はいかがするな。

此度の敵は幕閣ぞ、大岡殿にも迷惑になろうし大事な嫡男だからのぉ~」

「そうは参りませぬ、父とも話しました。

父上には師匠と行動を共にし果てる時はその方の天命と思えと言われて参りました。

私も父上の基に戻るつもりは御座いませぬ」

「平四郎殿はどうか、其の方が幕閣に睨まれば藩主に迷惑が掛かろう」

「我藩の本家は加賀藩で御座います、龍一郎殿の名は出せぬならば脱藩すれば良き事です。

今となっては指南役に何の未練も御座いませぬ、お夕はどうか」

「御座いませぬ」

「お夕殿は三郎太がおれば良いかのぉ」

「まぁ、ご隠居、御自分だってお久殿さえおられれば宜しいのでは」

「おぉ、これは薮蛇で有った」

「お久様はどうなされます」

「お駒さん、私は小兵衛殿を手伝ってこの道場の裏方を勤めます」

「では、娘のお峰様もご一緒にで・・・御座いますか」

「お峰は平四郎殿にお任せ致します」

「おほん、お任せあれ、この平四郎、責任を持ってお守り申し上げまする」

「何やら皆其々に相方が出来ておるが・・・・おらぬは平太だけのようじゃのぉ~」

「龍一郎様、舞もおります」

「平太さんはまだ子供ですね、舞ちゃんには既におりますよ」

「えぇ~、お佐紀様~だって皆相手がいる・・・・・まさか誠一郎殿・・・・・成程、でも誠一郎殿は武家」

話題の主の誠一郎と舞は下を向いて赤くなって皆の話を聞いていた。

「まだまだ先の話ですが刻が至れば私の養女とし武家の娘に致します、ご心配には及びませぬ」

「我が妻女殿は用意周到であるなぁ~」

「御家人の嫁とは言え商家の娘を嫁に貰って平然としているのは我が亭主位のものです」

皆がにやにやと笑い、小兵衛も大笑いした。

釣られる様にお佐紀の膝の上に居た龍之介もけらけらと笑い、それを見てまた皆が大笑いした。

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