第87話 探索開始

探索は多方面から行なわれ、表だった奉行所、旗本屋敷への訪問は昔の伝を頼りに小兵衛の役割だった。

訪問した中で剣術指南に難のある所には平四郎が紹介され通い師範として通う事になった。

無論小兵衛も一役かった、小兵衛の剣技は過去の絶頂期の小兵衛を越えていた。

奉行所の誰かと繋がりを持った武家の探索は三郎太、お久、平太が任された。

何処に隠れた剣豪がいるかも知れなかったからだ。

町人と無頼の者たちの探索は清吉、お駒を除く女衆が任され三郎太、平太が時おり参加していた。

だが町方同心・与力の評判聞きこみは小兵衛とお久が組になり平四郎はお峰と組になり三郎太はお有、平太と組になり江戸中の至る処へ出かけ廻った。

無論、藩邸稽古場、出稽古の暇、蕎麦屋の暇を見つけてと限りがあった。

小兵衛、平四郎の男衆が藩邸稽古場、出稽古の時刻は昼間と言えども女衆だけでの行動は龍一郎の厳命により禁じられており、どちらにしても女衆も正業が有り探索の時間が無かった。

お久とお峰は藩稽古場の奥向きを任されており、お有が龍一郎の命により清吉の店へ回されたため通いの女中を平四郎が雇い入れどうにか聞き込みと探索の時を作り出していた。

お駒はと言えば料亭・揚羽亭で接客係りをしながら客から聞いた話や見かけた町奉行所の役人の事を時折訪れる龍一郎、お佐紀に伝えていた。

清吉は正業の岡っ引きに手を取られその合間に聞き込みを行うしか無かった。

ではお有はと言えばお駒が料亭修行中の為、お駒の代わりを務める様に蕎麦屋の看板に成りつつあった、また時にはお駒との繋ぎを行った。

残る女衆の舞はと言えば、龍一郎の命により誠一郎との繋ぎに専念していた。

この役は舞に取って嬉しくも有り悔しくも有った。

嬉しさは勿論誠一郎と会える事である。

二人だけでと命を受けた時は思ったがそもそもこの役を命ぜられた元は地回りの者の何人かと北町の一人の役人に顔を見られたからであるからでそれを考えれば単身は無理と言うものであった、では誰が同行者かと言えば、なんとお早紀であった。

舞はそれまでになんども龍一郎の妻女としてお早紀とは会っていたが親しく会話などした事が無かった。それは何も舞に限った事では無く皆がそうであった。

山修行のおりも蕎麦屋で会ったおりも常に龍一郎の側にいてこれぞ武家の妻女と言う風情で凛とした気品と清楚さを保ち、そして何よりその美貌が一際周囲を圧倒していた。

その美貌が龍一郎との子を宿した事で一段と際立ち気品と清楚さに貫禄を滲ませる様になっていた。

舞はそんな武家の妻女との同行のため着物も髪型も武家物に変えお早紀の侍女の役として誠一郎との繋ぎの任に付いていた。

舞は当初二人だけで会えない事が残念であったが、お早紀の言動、仕草、立ち居振る舞いを見る内に自分がもし、もし誠一郎の妻女になるのならこれほどの手本は無いとお早紀の一挙手一投足に至るまで見逃さず観察する様になりお早紀の魅力の虜になってしまった。

舞に取ってお早紀は姉にしては歳が離れ親にしてはお早紀は若すぎた、だが舞とって今は実の母親以上に同姓としての師になっていた。

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