第63話 ニ十日組の帰府
三郎太、お有、誠一郎、舞、平太が早朝、江戸へ向かった。
皆はまだ修行を続けたがったが龍一郎が許さず、納得しないのを見かねて龍一郎が諭した。
「山修行の機会はこれからも何度もある。修行の道筋があるのじゃ。これからは、江戸に戻り三郎太に尾行の手解きと屋敷への忍びの手解きを受けるのじゃ」
この話で大いに納得し、今度は修行の成果が試せる場が与えられると、江戸へ帰る事を喜び出した。
「三郎太、済まぬな、こやつ等、少々浮かれておる・・・気を付けよ」
「大いに浮かれております、気を引き締めます、では、お先に」
三郎太がそう言って皆を連れ去って行った。
龍一郎、お佐紀は二派が帰府して後も十日を山で過ごす事になっていた。
皆との修行は、幾度も来ていたお佐紀には容易なもので次の段階への修行にはならなかったからである。
ましてや、龍一郎にとっては砂浜で遊んでいるようなものだったので、それゆえの延長期間であった。
三郎太達が去った途端に二人は本格修行に入った。
それは先に帰った者達が見ても信じられない光景だろう。
木から木へ飛び移り、垂直に近い崖を足だけで左右に飛び上がり蔦に捕まり大きな谷を越える壮絶なものだった。
それは、二日、三日と休みなく食も無く口にするのは水だけで行われた。
だが、その修行も四日目に突然終わりを余儀なくされた。
嬉しい中断だった、走りながらお佐紀が言った。
「旦那様、申し訳ありません」
「どうした、お佐紀」
言って戻って来た龍一郎がお佐紀の様子を見つめ問うた。
「お佐紀、もしや、もしや」
「その様にございます」
「でかした、男か女か」
龍一郎らしくもなく狼狽しとんでも無い事を言った。
「まだ、解りませぬ」
「そう、そう、そうじゃな」
突然、お佐紀を抱き上げ走り出し、あっと言う間に小屋に戻った。
その速さはお佐紀がこれまでに見たことも無い信じられない程の速さであった、だが、抱かれたお佐紀には何ら衝撃を感じず揺り篭に乗っている様な感覚だった。
その頃、第二班の帰宅組は龍一郎の願い通り三郎太の指導を受けていた。
お有、誠一郎、舞、平太は街中や郊外、田舎での尾行方法を伝授され、夜間には屋敷への潜入の技も伝授された。
三郎太は、この屋敷への潜入の仕上げに平四郎の稽古場を選んだ。
だが、さすがに剣豪二人、それも山修行の後である、誠一郎の雑念とお有の女子の匂いで潜入が暴かれてしまった。
「誠一郎殿、意識の集中に掛けておりますな」
平四郎が声を掛け
「三郎太、女子は月に一時期、忍びには向かぬ、血が匂う、心されよ」
小兵衛が追従した。
「お有、何をしておる」
平四郎が天井に潜む妹に問うた。
「三郎太殿に忍びの技を伝授戴いております」
「何、忍びとな、三郎太、儂にも教えてくれぬか」
小兵衛が望んだ。
「それがしにも願おう」
平四郎も願った。
それを聞きつけた、清吉、お駒、お久、お峰までもが、その伝授を望んだ。
三郎太は、一日交代で二班に伝授し、互いの班を追跡、監視、潜入に使った。
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