第62話 山賊退治

庄屋の家に最初に忍び込んだ日から五日目の明け方に、村々で大騒動になった。

大山で雷鳴の様な音が何度も何度も響き近隣の村人達が家の中で怯えていると、法螺貝の音がどんどん、どんどん大きく鳴り響いた。

「我は、大福山の天狗成り、野党共を退治したれり、我は遠い昔に橘家と村の安寧の契りを結びたり、難儀あらば、江戸の橘家に繋ぎをつけ~い、皆の者、堅固で暮らせ、さらばじゃ」

大音量の声が耳に聞こえ、頭の中に響き、心に染みた。

村人が家の外に出られなかったが昼を過ぎると一人二人と人々が家を出始めた。

そして村人たちが庄屋を務める五人屋敷に集まった。

そこには三台の大八車に乗せられた大勢の山賊と胸に紙を張られた三人の男達が居た。

紙には「山賊の頭目」「裏切者の庄屋」「山賊の仲間の役人」と書かれていた。


四日前、龍一郎は爆裂弾を試した後、皆に作り方を教えながら十個作った。

一緒に導火線の作り方も教えた。

雨でも使える様に爆裂弾は竹筒で作り導火線は油紙で作った。

子供に作り方を教えるについて龍一郎は考えた。

子供は好奇心が強く特に男の子は爆裂弾を見れば作りたくなるものだと言う事だ。

平太は間違い無く作ると予想され師匠である三郎太も自分の知る物より破壊力のある物をみたのであるから当然作ろうとするだろう事が容易に予想された。

ならば安全に作れる様に徹底的に教えた方が良いと考えたのだ。

無論、妻女である佐紀にも教えた。

三郎太と平太に街での大量の油紙の購入を頼みその間に竹筒を用意した。

山登り修行と剣術修行を何時もの通りに行い、その後の時間を準備に使った。

三日掛かって十個の爆裂弾と二町分の導火線を作った。

龍一郎は準備に万全を期し山賊たちの陣地の図面を書きそれぞれの役目を決め覚えさせた。

当日の夜には全員がそれぞれの役目を遅延無くこなし陣屋の周りに導火線を張り十個の爆裂弾を設置した。

決行の日の早朝、暗闇の中、皆が配置に着きその時を待った。


地平線に朝日が顔を覗かせ陣地の谷が薄明るくなった時に突然「ぼぉー」とほら貝の音が鳴り響いた。

突然の事に陣地では小屋から山賊たちがぞろぞろと出始め周りを見渡した。

すると東の谷を見下ろす岩の上に太陽を背に人影が現れ大声が響いた。

「我はこの山の主の天狗なり、我が留守の間に悪さを成す事許し難し、成敗致す覚悟致せーー」

天狗の居る方向の陣地の近くで「ドドーン」と地面が爆発した、そして右周りに次々と爆発が続き陣地をぐるりと回った。

最初は右往左往していた山賊たちも爆発が続くと皆が蹲った。

最初に爆発した東の方の煙が薄らいできたので見るとそこには赤い顔の六尺(約180cm)を超える大きな大きな天狗が立っていた。

その天狗が左手に持つ団扇で左を払うと左で「ヒューン」「ドサ」と音がして「ギャー」と悲鳴が上がり山賊の一人が消えた。

続いて右を払うと右で「ヒューン」「ドサ」と音がして「ギャー」と悲鳴が上がり山賊の一人が消えた。

天狗はこれを何度も繰り返しその度に一人づつ山賊が消えて行った。

土埃が消えた時には三人しか残っていず恐怖に包まれた顔でお互いを見合った。

三人の内の一人は陣屋の役人、一人は庄屋の一人、今一人は山賊の頭目だった。

その時、天狗がおもむろに刀を抜き三人の前に突き付けた。

天狗は刀を大きく振り上げ一人に切り付けた。

「ギャー」と悲鳴が上がった、が他の二人は恐怖に身動きもできず次々に刀を受け悲鳴上げて倒れて行った。

刀は当たる瞬間に峯に返されており三人は気絶しただけだった。


龍一郎が小屋の影から現れ「皆、ご苦労でした」と労うと四方から仲間が現れた。

天狗が「ふぅー」とため息を付き面を取ると三郎太だった。

身長が六尺を超える三郎太が龍一郎が作った高下駄を穿き着物を重ね着しより一層大きく見せていたのだ、爆裂弾の後でなくとも驚く事だった。

陣地に有った盗んだ物を運ぶ為の大八車に後ろ手に縛った山賊たちを乗せ山を下り恐怖で家を出られずにいる村の中の山賊に加担していた庄屋の前に置いた。


この出来事の後、付近には天狗の噂が広まり、山を麓から拝むものが大勢いたが、入り込む者はいなかった。

天狗が住う天狗山と別名が付き敬われるようになった。

因みに山賊たちは小さな所領地の陣屋ではどうにもならず隣の天領の代官所に送られ幕府じきじきの処罰となった。

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