第37話 清吉との出会い

「誰ぞ、人の跡を着けるのに長けた者を存知ませんか」

奥に戻ると龍一郎が言った。

「あの者の跡を着けさせますか」

「はい、誰ぞに頼まれたに相違ない様でな」

「お有」

平四郎が廊下に顔を出し台所に向かって呼んだ。

直ぐに妹のお有がやって来た。

「兄上、お茶でございますか」

「お茶も、貰いたいが、ちと頼みがある」

「何でございましょう」

「稽古場に行って、清吉を呼んでほしい、台所の用と言ってな」

「はい、解かりました」と言うと稽古場に向かった。

「門弟に町人髷の者が一人おります、武士ではないので、お有や女衆が力仕事に頼りにしております、あの者は、実は十手持ちです、この役に打って付けと思いますが」

「おぉ、あの者は十手持ちでしたか、道理で場慣れしているはずですな」

「私も、それを感じ本人に問いました、門弟たちは知りませぬ」

お有が清吉を連れ、開いた障子の前で止まり、手で中に入るように促した。

いつもの様に台所の用事と思っていた清吉がきょとんとして廊下に正座した。

「お有、ご苦労であった、清吉さん、入って下さい」

お有が台所へ戻っていった。

清吉は、何事かと不安そうにしながらも、部屋に入り障子を閉めた。

「清吉さん、頼みがあって、御呼びしました、詳しくは師範が話します」

「今、清吉さんが十手持ちとお聞きしました、その腕を見込んでのお願いです」

「何でございましょう」

「今、稽古場にいる道場破りの行き先を知りたいのです」

「跡をつけろ、と言う事ですか」

「そうです」

「やっぱり、誰かに雇われたんですね」

「そう思っています」

「解かりやした、お任せ下さい、では、これで、支度がありますので」と立ち去った

「さすがに、目付きが変わりましたね」

「はい、やはり、餅は餅屋ですね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る