第24話 八年ぶりの屋敷
その夜、加賀藩前田家上屋敷に賊が入った、しかし、其の事実を知る者は二人しかいなかった。
四つ(10時)を過ぎた時分にその賊は殿様の寝所に入り、殿様と横に寝ていた正室の口を手で覆った、二人が驚き目覚めるともがいたが賊の一声で動きを止めた。
「父上、母上、お久しゅうございます、龍一郎にございます」
二人は、信じられぬ思いで賊を見ていたが、暫くして二人は頷き会い、手を退ける様に頼んだ。
龍一郎は、そっと手を引いた。
「吉徳、久しいの~、堅固であったか」
「龍一郎殿、壮健のようですね」
「はい、お二人も、ご壮健でなによりにございます」
「何時、江戸に戻った」
「父上が上府されるのをお待ちしておりました」
「龍一郎殿、恨みますよ、何故に顔を見せてくれませんでした」
「母上、お許し下さい、屋敷に、そうそう簡単には、まいれませんぬ、幕府、何処かの藩の間者、藩の忍びと様々おります」
「で、あろうな、そちも忍び装束じゃの~」
「なかなか、動き易い衣装でございます」
「それで、何時始めるな、馬鹿も些かしんどいぞ」
「父上、今暫くのご辛抱をお願いします、調べと証し集めを致しております」
「解かった、馬鹿を続けよう」
「お察し申し上げます、証しが揃いますれば、一機に・・・」
「期待しておるぞ」
「はい、では、今宵は、これにて失礼致します」
「もう、行きやるか」
「旅の話も、聞きたいがの~」
「旅の話は、おいおいと、おりを見ましてお聞き戴きます」
「堅固で暮らせ」
「お身体に、気を付けて下され」
「では」と言って龍一郎は突然、消えた。
「奥、今のは夢か」と言って回りを見渡した。
「殿、龍一郎殿なれば、何をなしても驚きませぬ」
「そうじゃの~」
二人は、幼い頃の龍一郎を思い描きながら、再び眠りに就いた。
<つづく>
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